次に会えたらそのときは

「ええ!?四季さんと防衛任務してたの!?レイジさんずるい!!」


玉狛で揃って夕飯を食べているときに出た話題。そういえばと木崎が防衛任務のことを話したことから、小南の高い声が支部中に響き渡った。


「ずるいってお前な…」
「あたしも四季さんと防衛任務したかった…!最近全然会えてないのにー!」
「ああ、前に朝飯食いに来たときはすぐに帰ったからな」
「四季さん玉狛に来てたの!?もーーー!!レイジさんばっかずるいーー!!」


心底悔しそうにする小南だが、知らない人物の話題に千佳は話が分からない。修は恐らくあの人だと思い浮かべるが確信はない。ただ1人、遊真だけは知っている人物の名前に反応した。


「こなみ先輩、四季さんと仲良いの?」
「そりゃ仲良いに決まってるでしょ。だって四季さんは……って、あんたどうして四季さんのこと知ってるのよ」
「この前会ったよ。迅さんが紹介してくれた」
「迅が?」


小南はぐっと眉を寄せる。また何を企んでいるのだ、と。趣味が暗躍の人物のことなど考えても分かるはずがなく、呆れて溜息が漏れてしまう。


「まあ迅はどうでもいいけど、四季さんと知り合えたのは良いことなんじゃない?あんたはそこそこまあまあな実力だし、1回くらいは模擬戦してくれるかもね」
「もうすぐこなみ先輩に勝ち越すしね」
「それはない。調子に乗るな」


バチっと一瞬だけ2人の間に火花が散った。


「小南先輩に勝ち越したとしても、相良さんに勝つのは難しいだろうな」


木崎の手料理を口に運びながらそう言った烏丸に、遊真は少し驚いたように瞬く。修や千佳も予想外の言葉に驚いた。遊真の強さは良く分かっている。そしてその遊真に勝つ小南の強さも。それは遊真も身をもって実感させられたことだ。そんな遊真から見て四季はそこまで強いという印象はなかった。迅の方が強い、自分の方が強いとそう確信するほどに。そのせいで高評価ではなかったため、先輩たちが話す理解し難い内容に首を傾げる。


「四季さんそんなに強そうに思えなかったけど、こなみ先輩より強いの?」
「い、今はあたしの方が強いけどね」
「どうだかな」
「どうすかね」
「ちょっと!分からないじゃない!次のあたしの誕生日にはまた模擬戦してもらうんだから、そのときは勝ち越すわよ!」
「誕生日?」


突然出た誕生日という単語に再び首を傾げる。


「四季さんあまり模擬戦やりたがらないのよ」
「そうなの?」
「お願いしても条件付きじゃないと相手してくれないからね。だからあたしは誕生日プレゼントってことで模擬戦してもらうのよ」
「仕方ないって感じすけどね」
「乗り気じゃないことに変わりはないからな。無条件で相手したやつはいないと思うぞ」
「ふーん。それでこなみ先輩は四季さんに勝ち越したことないんだ」


指摘された事実が胸に突き刺さり、小南は小さく呻いた。悔しいけれどその通りなのだ。純粋な実力でいえば間違いなく自分が上だと言えるけれど、勝敗を分けるのはそれだけではない。小南は事実を受け入れるようにゆっくりと息を吐き出した。


「……四季さんは強いわよ」
「へぇ…そうなんだ」
「ああ、戦えば分かる。メンタルが弱いやつは途中で戦意喪失するけどな」
「ほほう、そこまでですか。こなみ先輩たちがそこまで言うなんてよっぽど強いんだろうね。ちょっと戦ってみたくなったな」
「あたしにも勝てないくせに四季さんと戦おうなんて100年早いわよ」
「じゃあこなみ先輩倒したら次は四季さんか」
「…言うじゃない。やれるもんならやってみなさい」


再び横目でバチッと火花が散った。四季の話をしていただけでお互いのやる気に火がついたようだ。


「遊真、帰る前にもう一戦付き合ってあげるわ」
「ならこれがおれの初の勝ち越しになるね」
「はあ?1勝もさせる気ないから覚悟しなさいよ」


食べ終えた2人は食器を片付けながら言い合いをし、そのまま訓練室へと戻っていく。


「あ、ちょっと2人とも〜!アタシも行かないと」
「宇佐美。あまり遅くならない程度に切り上げさせてくれ」
「りょーかい!」


笑顔で答えた宇佐美は急いで訓練モードに設定し始めた。その間に遊真たちは各々トリオン体になって準備運動をする。


「今度四季さんに会ったら、手合わせしてもらおうかな。あ、その前にボーダーに入ること伝えないとか」


小南たちの話から四季に興味を持ち始めた遊真。どうやら最初の印象とはだいぶ違う人のようで、再び会えることに少しだけ期待してしまう。
ここに来た時点では自分よりも強い相手などそういないと思っていたけれど、入隊前からすでにたくさんの強い相手を知ってしまった。それにまだ見ぬ強い人物もいる。楽しみでないはずがない。


「そういえば、四季さんはA級なのかな?遠征行ったことあるなら上の隊か。それも聞いてみよう」


まだ数回しか会ったことのない相手にたくさんの話したいことが出来た。やはり何より実力が気になるのだ。考えれば考えるほど気になっていく。


「まあ今は、目の前の相手に勝ち越すのが先決だな」


そう言って武器を構える。少し離れた所で小南が同じように武器を構えた。そして同時に地を蹴り、本日最後の訓練が始まる。
次に会うときに、どういう立場で対峙するかなど考えもせずに。

[ 10/10 ]
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