明かされたのは

三輪隊と遊真の戦闘後、迅と修と共に四季も上層部の元へと向かった。どうせ呼び出されるなら迅と一緒にいた方が説明などが楽だろうと考えて。予想通り報告は全て迅と修がしているお陰で四季は一言も発することなく、腕を組んで入り口付近の壁に背を預けていた。


「……なるほど、報告御苦労」


城戸司令のその言葉に、会議室の空気が少しだけ軽くなった気がした。


「まったく……前回に続いてまたおまえか。いちいち面倒を持ってくるヤツだ」


呆れた鬼怒田の言葉にちらりと修に視線を向けた。大人しそうで平凡で、どこにでもいそうな普通の少年。特に特徴もないその少年がそんなに問題を起こしているとは思えない。


(…まあ、遊真を近界民と知ってて一緒にいたのなら、それなりに肝は座ってそうだけど)


近界民と知っていたのに報告するでも戦うでもなく、ただ一緒に友達のように過ごして匿っていたのだ。並みのメンタルではないだろうことは分かる。やはり人は見た目だけで判断は出来ないと観察している間にも話は進んでいき、修に不利な状況になっていた。けれど四季はその会話を傍観するだけで口を開かない。遊真と接触したことをわざわざ言う必要もない。迅が全て上手いこと進めてくれると丸投げだ。
それに答えるように、まあまあと迅の言葉が討論を遮る。


「その黒トリガーが味方になるとしたらどうです?」


その言葉に反応しない者はいなかった。


「メガネくんはその近界民の信頼を得てます。彼を通じてその近界民を味方につければ、争わずして大きな戦力を手に入れられますよ」
「それはそうだが…」
「そううまくいくものかねぇ?」


若干揺らぐ鬼怒田と根付はお互いに顔を見合わせ、伺うように城戸に視線を向ける。


「……たしかに黒トリガーは戦力になる」


そして城戸の肯定を示す言葉。けれどそこでは終わらない。


「………よし、分かった。その近界民を始末して黒トリガーを回収しろ」
(……そうなるでしょうね)


その一言で再び話し合いは意見が飛び交う。肯定派と否定派。つまり城戸派と忍田派。それぞれ考え方の違う派閥が集まり、意見が全てまとまるわけがない。
遠征中の部隊を除いた隊員を全て、黒トリガーの強奪に動かすか否か。反対する忍田に城戸の静かな言葉が遮る。


「部隊を動かす必要はない」


その言葉と共に視線は迅へと向いていた。


「黒トリガーには、黒トリガーをぶつければいいだろう」


あまりにも予想通りの展開に溜息すら出ない。四季がここまで予想出来ていたのだ、迅にそれが見えていないわけがない。


「迅、おまえに黒トリガーの捕獲を命じる」


焦る修をよそに迅は全く動じていない。やはり見えていたのだろう。


「会議は終わりだ。速やかに任務を遂行しろ」
「それはできません」


間髪入れない迅の返答に鬼怒田たちは驚いていたが、当然だろう。命令の重複を避けるために直属の上官のみが部下に命令出来るのがボーダーの指揮系統だ。そして迅は城戸司令直属の隊員ではなく、玉狛支部の隊員なのだから。


(…私と違ってね)


城戸から林藤へ命令するが、玉狛支部は近界民に対して友好的だ。そんな林藤はもちろん自分に都合の良いように迅へ命令する。
おまえのやり方で、黒トリガーを捕まえて来い、と。当然周りは驚いた。


「了解、支部長」


さっとサングラスをかけた迅の口角はにやりと上がっている。当然この展開も見えていてのこれまでのやり取りだ。とんだ茶番だと、四季からはついに小さく溜息が漏れた。
納得出来ない者たちのやり取りが再び始まる。その際、城戸がちらりと四季に視線を向ける。四季は態勢を変えることなくそのまま気付かない振りをした。


(…悠一が無理なら、どうせ私か天羽に来るんでしょうね)


黒トリガーには黒トリガーと言っていたのだから。だからこんな抵抗など意味を成さない。それでも素直に命令を受け入れたくはない。四季のささやかな抵抗だ。


「三雲くん、ちょっといいかな」
「……えっ?はい」


修に声をかけたのは唐沢だ。珍しいことだと全員の視線がそちらに向く。


「きみの友人の近界民がこっちに来た目的は何なのか、きみは聞いてないか?」
「目的……ですか?」
「そうだ。たとえ別世界の住人でも、"相手が何を求めているか"。それが分かれば交渉が可能だ」
「交渉…!?近界民相手に何を悠長な…」
「排除するより利用できないかと考えてしまうんですよ。根が欲張りなもので」
(…嘘ではないでしょうけど)


それが本当に仕事だからなのか、優しさからなのか、四季には分からない。この場で迅同様に読めない人は唐沢だろう。
けれど四季も遊真の目的は聞いていない。近界民だと知ったのがつい先程なのだから仕方がない。興味はあるために修の言葉に耳を傾ける。


「目的……そういえば、"父親の知り合いがボーダーにいる。その知り合いに会いに来た"……たしか、そう言ってました」
「ボーダーに知り合い…!?誰のことだ?」
「いや、名前は聞いてないんですが……」


四季がボーダーに入ったのは4年半前の第一次大規模侵攻後だが、旧ボーダー時代からメンバーは知っている。多少の交流があった。その中の知り合いかと少しだけ興味を示す。非難する鬼怒田と根付と違い、唐沢はより興味を示したように質問を続ける。


「その父親の名前は?……いや、きみの友人、本人の名前でもいい」
「父親の名前は分かりませんが、本人の名前は………空閑 遊真です」


その一言に。その名前に。林藤、忍田、城戸。そして四季。4人が目を見開いた。


「空閑……空閑有吾か…!?」


空閑有吾。その名前にどくりと心臓が跳ねた。


[ 6/10 ]
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