予兆

『空閑!』
『遊真くん!』


崩れる瓦礫に向かって叫ぶ2人の少年と少女。動かなくなってしまい、瓦礫の奥へと消えていく白髪の少年。人が1人、いなくなった未来。


『遊真!』


そして、平行で見えるいくつかの別の可能性。人が1人いなくなる未来と、2人いなくなる未来と。その分岐点にいる者。


『ねぇ、悠一』


一刻を争う状況の中でどこまでも落ち着いている女性は、同じく落ち着いた声音で男に呼びかける。


『私は、』


その先は言わないでくれと願った男の想いも虚しく、言葉は紡がれた。


『黒トリガーになれる?』


穏やかに微笑む女性に、男ーーー迅は悲しげに顔を歪めた。


◇◆◇


「…………勘弁してくれよ」


見えてしまった未来に目元を覆い、深く溜息をつく。その表情は見えた未来と同じように歪められていた。


「…またおれに、こんな選択しろって言うのか」


誰に言うでもなく呟き、再び大きく息を吐く。
イレギュラー門の原因を知る人物、空閑遊真と出会ってからぼんやりと見えていた未来は、1人になって仮眠を取っていたときに鮮明になって見えてしまった。それも、最悪の結末として。


「2人を失うか、片方は助かるか…か」


思い出すのは4年半前の第一次大規模侵攻。力不足で助けられなかった命。
迅はぐっと拳を握り締めた。


「……今度は絶対に、どっちも助けてみせるよ」


そう1人決意し、立ち上がってトレードマークのサングラスを装着する。


「さぁて、実力派エリートの出番だな」


歪められていた顔には笑みが浮かび、瞳には強い意志が宿る。1歩1歩、1つずつ、原因を解決していけばいい。そうすればきっと…。


「未来は無限に広がっているんだ」


多発するイレギュラー門の原因は突き止めた。
いよいよ大規模なラッド掃討作戦の開始だ。

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