天然か計画的か

図書室で勉強をしようと、A組女性陣で集まる約束をした。みんなそれぞれ準備があるから後でと時間を指定し、春は特にやることもなく早めに図書室へと辿り着いた。
そして奥の人目のつかない席に座り、はぁっと深い溜息をつく。


「…みんな、慰めるためにこの勉強会を開いてくれたんだよね」


恐らく勉強会という名の春を励ます会だろう。勇気を出して告白をし、玉砕した春のことを。


「……言わなきゃ良かった」


思い出して泣きそうになり、机に項垂れる。少しくらい期待して良いかもと思っていた自分が馬鹿みたいだと、再び溜息をついた。


「これからどう接していけば良いのか分かんないよ…今日だって、避けちゃったし…」


告白を断られた相手とまともに会話出来る精神など持ち合わせているわけもなく、話しかけられたときに逃げてしまった。


「……けど、やっぱりかっこよかったなぁ」


ただ話しただけでもそう感じてしまい、戦っているときは更に格好良く見える。思い出して頬が緩んだ。


「…まあ、そんな轟くんに振られたんだけど」


ずっと片想いしていた轟に告白をし、玉砕した。


『す、好きです!』
『……そうか』
『あ、あの…えっと…』
『他に何か用あるか?』
『え…?』
『ないなら行くぞ。緑谷に呼ばれてんだ』
『……あ、はい…』


一世一代の告白をあんなさらっと流されるなど思わず、ダメージは大きい。


「しかも相手が緑谷くん…私の順位は緑谷くんより下なのか…」


最近の緑谷は確かに目を惹くものがある。だから轟が注目するのも頷けた。けれどやはり悲しいものは悲しくて。八百万が用意してくれたプリントを弄りながら再度溜息をついた。


「…いっ!」


すーっと、プリントの縁が指を滑った。綺麗に指が切れてしまい、春は顔を歪めて傷口を見る。じんわりと血が滲んできた。


「…何やってんのかな」


血が滲んだ指をぱくりと咥えた。絆創膏はたぶん持っていなかった。教室に行けば誰かしら持っているだろうか。それか保健室で。そう思い立って口を離すと、舐めた傷口は余計にヒリヒリと痛んだ。


「し、しみる…舐めなきゃ良かった…」


やること全て裏目に出てしまいどんどん気分が沈んでいく。はぁっと溜め息をつくと、突然伸びてきた手に手首を掴まれてゆっくりと引かれた。


「え…?」


触れられた手首が熱を持つ。どうしてこんな所にいるのか、どうして手首を掴んでいるのか、疑問だらけの春に、手首を掴んだ轟はいきなりその指をぱくりと咥えた。


「へ!?」


轟の突然の行動に固まる。脳がショートしたように真っ白になった。ただ身体が熱くなっていく。


「なっ、え、あっ、と、ととと、轟、く…っ!?」


あまりに動揺し過ぎて上手く言葉に出来ない。訳が分からずに今の状況を何も理解出来ない。轟は目を閉じたまま、口内で指先の傷口をぺろりと舐めると、しばらくしてから口を離した。
春は真っ赤になって口をパクパクすることしか出来ない。


「絆創膏持ってねぇのか?」
「は、はい…」
「じゃあ保健室行くぞ」


掴まれたままの手首が、舐められた指先が、酷く熱を持っている。自分で舐めたときはヒリヒリと痛んだのに、轟に舐められた指先はヒリヒリではなく、熱さでジンジンと痺れた。


「な、何で…?」
「?」
「ゆ、指…!い、いきなり、な、舐め…っ」
「切ったんだろ?」


こてんと首を傾げられた。可愛いと思ってしまった思考を頭を振って消し、泣きそうになりながら轟を見つめる。


「誰にでも、こういうこと、する人…だったんだね、轟くんって…」
「は?誰にでもなんてしねぇよ」
「だ、だって…!現に私なんかに…!」
「好きだからやってんだろ」
「………………へ…?」


今度は春がきょとんと見つめる番だった。しかし轟も首を傾げている。


「おまえ俺のこと好きだって言った…よな?」
「…い、言いました…」
「なら両想いなんだから問題ねぇだろ」
「…え、ちょ、ちょっと待って?え?りょ、両想い?轟くんの言ってることが理解出来ないんだけど…」
「何でだ…?」


本気で驚いた顔をしている轟にお互いが疑問符を浮かべ続ける。どこから整理していけば良いのか頭が追いつかない。


「おまえは俺に告白して、俺もおまえが好きなら両想いじゃねぇのか?」
「そこ!そこが良く分からないよ!と、轟くんが私を好き!?」
「おお」
「何で!?」
「何で…?」


轟は腕を組んで思案する。まさか何でなど聞かれると思わなかった。これは好きな所をあげていけば良いのかと口を開こうとしたとき、春の瞳からぽろりと涙が溢れた。


「だって…轟くん…興味なさそうだったのに…私の告白、断ったのに…」
「…断ってねぇだろ」
「でも…!他に用あるか?って…!私の一世一代の告白を流されて…!」
「それは…悪い。俺の中ではもう両想いになったって完結してた」
「え…?」
「頭ん中整理出来てなくて答えらんなかったってのもあるかもな。けど、そうか。こういうのはちゃんと口にしねぇといけねぇのか」


そういうと轟は春の腕を引いて抱き寄せた。ぎゅっと自身の腕の中に閉じ込め、耳元に口を寄せる。


「俺も好きだ、如月」
「〜〜〜っ!!」


鼓膜を揺らす甘い声に、全身が脈打つようだった。恥ずかしさに轟の胸に顔を埋め、ぎゅっと服を握り締める。


「泣かせて悪かった。もう泣かせねぇから、俺と付き合ってくれ」
「…っ」
「如月?」
「…〜〜っ、」
「…?…………あ、春?」
「!!!」


ぼふんっと音を立てて真っ赤に染まった。嬉しさを噛み締めて、恥ずかしさに何も答えられなくて、そこへトドメを刺すような言葉に春は顔を上げられない。


「大丈夫か?」
「…っ、大丈夫、じゃない…!」
「おまえだって俺の告白答えられねぇじゃん。俺の気持ち分かったろ?」
「…は、い」
「とりあえず指の怪我もあるし、保健室行くか」


天然なのか確信犯なのか。まだ春にはどちらなのか分からないけれど、その優しさでどんどん好きになってしまう。熱が引く気配がない。


「ちょ、ちょっと待って…」
「?」
「ちょっとまだ、顔、上げられない、から……もう少し、このままで…」
「……気が済むまでそうしてろよ」


ぎゅっと抱擁が強くなった。包まれる温もりに身体を寄せる。


(…轟くん、大好き…!)
(…こいつ可愛いな)


バレないようにそっと、春の髪に口付けを落とした。


end
ーーーーー
ちゅーさせたかったんだけど入れられなかったから、きっとこのあと誰もいない保健室でイチャイチャしてちゅーしてると思って下さい!
あと図書室の外ではA組女性陣が中の様子見て静かにきゃーきゃー言ってる。書きたいのに入れられてないこと多すぎだしツッコミどころ多いから精進します!

[ 6/26 ]

back