所有物

目の前で傷つけられている人を見て、放っておけなかった。自分が敵う相手ではないなど分かっていたけれど、それでも、憧れたヒーローは危険を顧みずに人々を助けるのだから。


「いたた…」


単独で敵に立ち向かったが当然春の実力では敵うことはなかった。その後ようやくプロヒーローが到着し助けられ、春は切りつけられた腕を抑える。すぐに他のヒーローや雄英の生徒たちが駆け寄ってきた。


「如月さん!」
「大丈夫か如月くん!」
「わ…!春ちゃん凄い血やん!顔にも傷が…!早く手当しないと!」
「う、うん。ありがとう、みんな…」


心配してくるA組に申し訳ない気持ちになってしまう。ただの自分の勝手な行動で招いた結果なのに。ぐっと拳を握り締めた。


「春ーーーーー!!」
「!」


自身の名前を呼ぶ怒声に春はびくりと肩を揺らした。そんな怒声を発した人物の殺気にみんな綺麗に道を開ける。


「ヴィ、敵より怖いなあ…」


ずかずかと進んでくる爆豪に乾いた笑いをもらした。


「てめェ!何で敵と戦うのに俺を呼ばねえんだよ!俺にやらせろや!それともアレか?てめェのクソ個性で敵うと思ったのか!?」
「す、すみません…」
「謝ってんじゃねえ!!」
「……」
「無視かてめェ!!」
(どうしろと…)


何を言っても怒鳴られる春に全員が同情の視線を向ける。


「か、かっちゃん、如月さんはもう怖い思いしたんだからこれ以上怖がらせるのは…」
「うるせえクソナード!てめェは黙ってろカス!」


出久を黙らせ、苛立つ爆豪は春を睨みつけた。護送される敵よりも注目を集める。


「爆豪くん!君は一体何をそんなに怒っているんだ!如月くんが心配ならそうとはっきり…」
「心配なんざしてねえよ!」
「……」
「俺ァただムカついてるだけだ…!」


そう言いながら春の腕の深い傷や至る所の小さな傷、頬の傷を見てぐっと奥歯を噛み締めた。


「おい春!」
「…はい」
「てめェは何他の奴に傷つけられてんだよ!」
「え…?」


爆豪の言葉にその場にいた全員がぱちぱちと瞬きをする。春も同様で、ぽかんと爆豪を見つめていると、突然爆豪の腕が伸びてきた。そして春の胸ぐらを掴んで引き寄せたと思うと、がぶりと首筋に噛み付く。


「っい…!!」


容赦なく噛み付かれ、痛みに顔を歪めた。


「…っ、」
「よし」
「な、何が!?」


噛み付いて歯型を残し、爆豪は満足げに頷く。春は噛み付かれ痛む場所を押さえながら抗議した。


「………て、ていうか、か、噛んだ…!?」
「わりィかよ」
「悪いとかそういう問題じゃなくて…!え?え、わ、私がおかしい?」


助けを求めるような春の視線を受け、出久たちは綺麗に揃って首を横に振る。やはり自分はおかしいことは言っていないはずなのに、身体中の痛みに頭が回らなくなる。


「腕より首が痛い…」
「それで良いんだよ」
「…爆豪くん…?」


訳が分からずに爆豪を見つめ返した。


「だから!てめェを傷つけていいのは俺だけだっつってんだ!」
「…!」
「分かったらもうこんな傷つけられてんじゃねえ。ぶっ殺すぞ」
「………う、ん。…ありがとう」
「うんじゃねえよバーカ」


はにかむ春に、爆豪はそっぽを向きながらいつものように悪態をつく。しかしその手はぐしゃぐしゃと無造作に春の頭を撫でた。


「…ふふっ」
「…笑うな」
「だって爆豪くんが可愛くて…」
「はぁぁぁ!?誰が可愛いだクソアマ!!」
「えーっと、独占欲強いとことか?」
「強かねえわ!誰だって所有物に手ェ出されたらムカつくだろうが!」
「…うん。爆豪くん、大好き」
「…、っるせえ」
「私、強くなるね!爆豪くん以外に傷つけられないように強くなるよ!」
「俺の守れる範囲にいりゃ良いだけだろ」
「…!」


つまり、傍にいろと。そう深読みしてしまい、春はすっと頬を染めた。


「……あ、ありが、とう」
「は?意味分かんねえこと言ってねえでさっさと治療されてこいや!」
「は、はーい!」


怒声に背中を押されて春はヒーローに保護されていった。それを見届け、ふんっと鼻を鳴らす。


「……傷つけられないようになんて、ヒーロー目指してる以上は無理だろ」
「轟くんそこ突っ込まないで!」


冷静な轟の言葉が爆豪に届かないように、A組は必死にそれを止めるのだった。


end
ーーーーー

ひい落ちがない。
爆豪くんは独占欲強いと良いなーって。でもほんと最後の轟くんの言葉通りだから突っ込まれる前に自分で突っ込んどいた。

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