緊張を緊張で解して

数年後くらい。

ーーーーー


「き、緊張で吐きそう…」
「?」


言葉だけでなく顔色を悪くしている春に轟はこてんっと首を傾げた。


「緊張?」
「だってこれから大事な試験だよ…?失敗したらどうしようって…」
「試験なんて学生時代何度もやっただろ」
「それとこれとじゃ全然違うよ!」
「違う、のか…?」


本気で思案してる姿に、一般的な感情論を轟に説いても無駄だったとすぐに理解した。緊張を解すように深く深く息を吐き出す。けれどそんなことで緊張が解れるわけもなくて。考えれば考えるほどドキドキと心臓は嫌に鼓動して気分が悪くなる。気持ちの問題だと分かっていてもそれを解消する精神など持ち合わせていなかった。


「…あー…本気でやばい…」
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃない…」
「そんなに緊張しやすい奴とは思わなかったな」
「だから大事な試験なんだから当然で…」


同じ試験を受けるはずなのに隣で余裕そうな轟を眉を寄せて見上げる。しかし、何故か優しく微笑んでいる視線とぶつかった。春は更に眉を寄せる。そんな春の眉間に轟は唇を寄せた。ちゅっと触れた唇に驚き、触れられた場所を抑えて距離を取る。はわはわと真っ赤な顔で轟を見上げた。


「な、な、な…!!」
「眉間、すげーシワだったから」
「だ、だからって急に…!」
「こんなことで緊張してちゃ、もっと大舞台に立ったとき倒れちまうぞ」
「大舞台って…そんな大舞台に立つ予定なんてないんだけど…!」
「……それは俺が作る。…だから、もうしばらく待っててくれ」
「は?え?何が?」
「これが終わって落ち着いたら、ちゃんと言うから」
「?だから何が…」


問いかける春に轟は手を伸ばした。そのまま頬に手を添え、春が反応する前に唇を塞ぐ。すぐに離れた唇に、春はぽかんと轟を見つめた。ふっと微笑んだ轟に、状況を理解して顔を真っ赤にして慌て始める。


「こ、こここ、ここ!外…!外では誰が見てるか分からないんだからダメって何度も…!」
「緊張、解れただろ?」
「別な意味でドキドキしてるよ!ていうかさっきより心臓バクバクして破裂しそうなんですけど!?」
「そうか」
「もう!1人だけ余裕ぶって!ずるい!」
「……全然余裕なんかねぇけどな」


ぎゃーぎゃーと文句を言う春に小さく返した言葉は、当人に届くことはなかった。先ほどまで落ち着いていたはずの轟の心臓はドキドキとうるさく鼓動しだし、春の気持ちを少し理解出来た気がした。


(…まあ、嫌な緊張じゃねぇから春のとは少し違うかもしれねぇけど)
「ちょっと轟くん!聞いてる?」
「おう、聞いてる。俺も好きだ」
「は…!?ちょ、だ、誰もそんなこと言ってないよ…!」
「違うのか?」
「い、いや、違くはないしもちろん轟くんのことは好きだけど…」
「なら問題ないな。行くぞ、春。さっさと終わらせてさっさと帰る」
「わ…!」


ぶんぶんと振り回していた春の手を取って歩き出す。流されたことに文句を言おうと口を開こうとした所で、握られた轟の手がいつもより熱いことに気が付く。そして見上げた先の、僅かに赤い耳。春は表情を和らげた。先ほどと同じように心臓はドキドキと鼓動しているが、ほんのりと暖かい気持ちになる。


「……こういうドキドキなら、いつまで続いても良いかもね」
「何か言ったか?」
「何でもないよ!それより!試験は轟くんより良い評価取るから覚悟しててね!」
「…春も、終わったら覚悟してろよ」


にやりと口角を上げて告げられた言葉に、いろんなことを想像してしまう。この表情の轟が言うことは大抵ーーー。


「……負けないから」
「おう」


やはりこのドキドキがいつまでも続くのは勘弁したいと、誤魔化すように深く息を吐き出したのだった。


end
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ちょっとリハビリも兼ねて緊張することがある人へのエール………にしたかった…やっぱり書かないと書けなくなるなぁ…
すげー短いから書きやすいけど短いと私の場合中身がなくなる…あのあれだ、フラグ立てて回収出来てないからご想像にお任せします的な………精進します…!


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