そう、それは女の子に生まれた特権なの

「勝己くん!見て見て!可愛い?」


露出の高い大胆な水着を爆豪に見せるようにくるりと回った。クソデブが醜い腹出してんじゃねぇぞ。誰が相手でもきっとそんな返しがされるだろうと、全員が予想していたのに。


「…………おう」
「やった!勝己くんを思って選んだから嬉しいなぁ」
「…そうかよ」
「あ、今照れた?」
「照れてねぇわボケ。つかこれ着とけ」
「わ…!」


あれは本当に爆豪だろうかと誰もが目を見張って2人のやり取りを見つめていると、爆豪は春に向かって自身のパーカーを投げた。春は慌ててそれをキャッチする。


「これ…勝己くんのパーカー?どうして?」
「いいから着とけや」
「……実は、あんまり似合ってない…とか…?」


先ほどまでとても楽しそうにしていた春が途端にしゅんっと落ち込んでしまった。それに分かりやすく溜息をつく。


「ハァ?似合ってなかったら似合ってねぇって言うに決まってんだろうが。俺がんな気遣う訳ねぇだろ。アホか」
「でも勝己くんは優しいから…私がはしゃいでるから気遣ってくれたのかと思って…」


爆豪が優しい。春の言葉に周りはアイコンタクトだけで会話をする。これほどにA組全体が意思疎通したことなどないだろうと言うほどに言いたいことが全て分かる疎通の仕方だった。


「てめェは今まで俺の何を見てきたんだァ?んな気遣うわけねぇっつってんだろ」
「じゃあ、何で?」
「いいから着とけ」
「もっと勝己くんに見て欲しいのに!」
「……ここだと、他の奴も見んだろうが」
「それはもちろん海だし…」
「…………あんま他の野郎に肌見せんな」
「え…?」
「……何度も言わせんじゃねぇクソ!!」
「まだ1回しか言ってないよ!ねえねえ勝己くん!もう1回!もう1回言って!ね?」
「ふっざけんな!誰が言うか!!」
「他の野郎に見せんなーってヤキモチ聞こえなかったからもう1回!」
「聞こえてんじゃねぇか!!犯すぞてめェ!」
「きゃー!勝己くんのえっちー!」


爆豪のパーカーを羽織って楽しそうに笑う春は背を向けて走り出した。中途半端に羽織っているせいであまり肌は隠れていない。


「おいてめコラちゃんと着ろ!!」
「えー?聞こえなーい!」
「だから丸々聞こえてんじゃねぇか!!」
「勝己くんが犯すぞって追いかけてくるー!」
「どこ抜粋してんだてめェ!!」


海でキャッキャウフフと砂浜を走る姿…には見えないけれど、本気ではない戯れた追いかけっこに本人たち以外が恥ずかしくなってしまう。


「お、犯す犯すってこんな人の多いとこで言うかよ…」
「ぶっ殺すじゃない辺り、爆豪って本気で春に惚れてるよねー」
「…如月のおっぱい…揺れてる…でかいな…あれを毎晩爆豪は……」
「峰田止めろ!想像すんな!バレたら爆豪に殺されるぞ!」
「あの大胆な水着の下は…ふ、ふふふ…ふふふふ…」
「峰田がリア充共の熱気にやられたぞ!轟!轟はどこだ!?」


騒がしいA組をよそに2人はどんどん走っていき、離れた所でようやく爆豪は春の腕を掴んだ。


「んのやろ、手間かけさせやがって」
「えへへ、捕まっちゃった」
「捕まっちゃったじゃねぇよ。あんま離れんな」
「心配してくれてるの?」
「調子乗んな。…他の野郎にジロジロ見られんのが嫌なだけだっつの」
「…心配じゃなくてヤキモチ、かな」
「……分かってんならちょろちょろすんなバカ春」


掴んだ腕を引き寄せ、噛み付くように唇を塞いだ。熱い口付けに、すーっと春の頬が赤く染まった。深くなる口付けに、春はそっと爆豪の胸を押すとあっさりと離れる。


「…んだよ」
「人、いるからダメ」
「見せつけとけ」
「もう充分だから、ね?」
「……ちっ」


不機嫌になってしまった爆豪に春は苦笑する。そして自ら爆豪の頬にちゅっと一瞬だけ口付けた。その行動に爆豪はぽかんと固まってしまう。


「ふふっ。大胆なキスはしてくれるのに、こういうのに弱いよね?勝己くんったらウブなんだからー!可愛い!」
「…て、め…っ!ふざけんじゃねぇぞクソがぁぁぁ!!」


爆豪の腕からするりと抜け出し、春はまた砂浜を駆け出す。顔を真っ赤にした爆豪は照れ隠しにそれを同じように追いかけ出した。


「大真面目ですー!勝己くん本当に可愛い!」
「誰が可愛いだ!!」
「勝己くん!」
「もう2度と可愛いなんざ言えねぇようにぶち犯してやる…!」


その言葉に春はバレないようにくすくすと笑った。そういうことを言うのが可愛いのだ、と。けれどそれを言えば本気で怒らせてしまうと思い、口を噤んだ。


「可愛い勝己くんもかっこいい勝己くんも大好きだよ!」
「いい度胸だな春…!覚悟しろや!!!」


爆豪のパーカーを翻し、春は楽しそうに砂浜を走った。本気で追いかけてくる彼に捕まるのは、きっとすぐだから。


end
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優しい爆豪くんといつも通り怒鳴ってる爆豪くんどっちにしようかと思って、たまには優しい爆豪くんでバカップルにしてみた。違和感。
やっぱり爆豪くんは優しいだけより好きな子にも暴言吐くくらいの方が合ってる気がすると実感しました!良い経験になった、うん!

title:きみのとなりで

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