解けない方程式

体育祭で心操くんと緑谷くんの試合を見て緑谷くんに惚れた心操くんと同中の子。
※お相手迷子

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「心操くん心操くん!聞いて聞いて!」
「嫌だ」
「あのねあのね!明日!緑谷くんのお誕生日なんだって!」
「お前が俺の話を聞けよ」


人の話を聞かずにきらきらと嬉しそうな表情で話す春にあからさまな溜息をついた。


「明日はヒーロー科は授業だよね?私たちは授業ないけど学校来ても大丈夫かな?」
「さあな」
「あ、でも誕生日プレゼント用意してない!どうしよう心操くん!」
「……」


落ち着きのない春の顔を片手で挟み込むように潰した。頬が潰され唇が突き出し、むにゅっと不細工な表情になる。


「んーーー!何するのーーー!」
「人の誕生日忘れてたくせに緑谷の誕生日は祝うとか、罪悪感は感じないわけ?」
「…えへへ」
「不細工」
「心操くんが潰してるからだよ!」


両手で心操の拘束を解き、潰されていた頬をむーっと膨らませる。それが高校生の仕草かと呆れたように見つめた。


「そもそもお前は緑谷に認識されてんの?」
「…!」
「お前が一方的に好意を抱いてるだけで相手はお前のこと知らないだろ」
「…そ、そんなことは…!」
「体育祭の障害物競走で脱落したやつを知ってるわけないよな?」
「う、うぅ…」


正論を吐かれて反論出来ずに唸り声を上げる。まさにその通りで何も言い返せない。周りのクラスメイトはまた心操が春を虐めていると苦笑するだけで助ける気はないようだった。


「知らないやつにいきなり誕生日祝われたら、普通ドン引きだぞ」
「…し、心操くんひどい!」
「一般論を言ったまでだけど」
「……」


ぐっと握っていた拳下ろし、春は深い溜息をついた。そして自嘲するように乾いた笑いを漏らす。


「でも…うん。そうだよね。…心操くんの言う通り…だと思う。私が緑谷くんを好きなだけで、ただの片想いで、緑谷くんは私のこと知らないから…気持ち悪いと思われちゃうよね」
「……」
「うん!じゃあ心の中だけで祝うことにするね!ごめんね、ありがとう心操く……」


伸びてきた手に、ぽんっと頭を叩かれた。その手は無造作に春の髪をぐしゃぐしゃと撫でる。


「へ!?し、心操くん?髪ぼさぼさになっちゃう!心操くんみたいな髪型になっちゃうからやめて!」
「……如月」
「え、何……」


ピンっと、精神が持っていかれたのを感じた。それなりに長い付き合いだ、洗脳されていると気付くのに時間はかからなかった。


「如月、座れ」


言われるがままにぺたんとその場に座り込む。


「そのまま全力で土下座」


ゴンっと、鈍い音が教室内に響き渡った。


「〜〜〜っ!いっったい!!心操くんのバカバカバカ!」
「バカはお前だろ」


赤くなった額を押さえながら涙目で心操を睨みつけた。全く怖くないその睨みにふいっと顔を逸らす。


「いきなり何するの!」
「お前がらしくないことばっか言ってるから、目覚まさせてやったんだろ」
「え…?」
「お前はいつもみたいに、バカみたいに真っ直ぐじゃなきゃこっちの調子が狂う」
「微妙に余計な言葉が多いよ!」
「うるさい」


伸びてきた手を今度は避けた。2度も同じ手はくわない。ふふんっとドヤ顔で笑った春に僅かに眉を動かした。


「それにお前はバカだから忘れてるだろうけど、俺が普通ならドン引きだって言ったの忘れてるだろ」
「どこからつっこめば…?」
「つっこむな。聞いてろ」
「…はい」


言いたいことはたくさんあったが、心操の冷たい瞳に黙らされる。こくりと頷き素直に言葉を待つ。


「お前の行動、普通ならドン引きだけど、緑谷は普通じゃない」
「え…?」
「あいつは予想の範囲を超えるの、お前も見てただろ」
「…うん」
「普通じゃないあいつなら、お前の行動だって別に気持ち悪いなんて思わないだろ。あのバカ正直なやつなら、素直に喜びそうだけどな」
「…!」


心操の言葉に春は最初のときのようにきらきらと表情を輝かせた。相変わらず分かりやすい反応だと呆れてしまう。けれど、そこが彼女の良い所だとも思うが、絶対に口には出さないと心に決めている。そんなことを言えば調子に乗り、自身が苛立つのは目に見えているから。


「よ、喜んでもらえるかな…!」
「さあな」
「ありがとう!心操くん!」
「…何で俺に言うんだよ」


にこにこと嬉しそうに笑う春から視線を逸らした。何やらむず痒い気持ちになる。


「ちゃんとお誕生日お祝いしてくるね!」
「はいはい」
「それじゃ、また来週ね!」


鞄を持ってぱたぱたと駆けて行く春にどっと疲れが押し寄せ、深い溜息をついた。クラス連中はにやにやと何も言わずに心操を見つめる。その視線に気づき、更に深い溜息をつくのだった。


そして休み明け、告白するつもりはなかったのにしてしまったと泣きごとを言う春に、無意識に頬が緩んでいるのを目撃される心操だった。


end
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出久…夢…?これ絶対違う…これ心操くん夢だ…
そう思ったから別でこの続きの出久夢を書くことにしました。短いけど…
だって心操くんメインだもんこれ…びっくりした…(?)
心操くんの気持ちは恋愛じゃなくてペット見てる感覚。っていうと切なくなくなる…!

title:きみのとなりで

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