私が祝いに来た!
校内を探し回ったが見つからない。探しても探しても見つからない。折角の彼の誕生日なのに連絡も取れず会うことも出来ず、春は頬を膨らませた。
「もーーー!どこにいるのよ!」
A組の教室の前で大声をあげた。そんな春の大声に、教室にいたA組生徒たちはびくりと肩を跳ねさせる。そして雄英の生徒でも先生でもない春のいる廊下に視線を向けた。
「え…だ、誰…?」
「新任の先生…とか…?」
「……どうして貴方がいるんですか」
呆れたような相澤の言葉に、知り合いなのかと好奇の目を向ける。声をかけられた当人は相澤の姿を見つけ、ぱっと顔を輝かせた。
「相澤くん!こんな所で何やってるの?」
「それはこっちの台詞です。そもそもどうやって入ったんですか」
「根津ちゃんに許可貰って入ったの!」
「校長…雄英に部外者入れるなんて何考えてるんだ…」
「あれ?というか相澤くんここの教師だったの!?」
「そうですよ」
「じゃあじゃあオールマイトがどこにいるか知ってる?」
「…それが目的か」
はぁっと深い溜息を気にすることなく、春はうきうきと答えを待っている。状況についていけないA組生徒はぽかんとやり取りを眺めた。
「先生、そちらの方は?」
「まあ…一応おまえらの先輩だな」
「雄英の卒業生!?」
「はいはーい!オールマイトと同期の如月春でーす!」
「同期!?」
にこにこと挨拶する春を興味津々に見つめるA組。特に緑谷は何やら話したそうにうずうずとしている。
「オールマイトの学生時代の話とか聞きたーい!」
「あ!それ俺も興味ある!」
「是非ともお聞かせ願いたいです!」
「おおおおオールマイトの学生時代…!」
盛り上がるA組生徒を見つめて微笑んだ。
「ここでオールマイトの教え子たちと話すのも良いんだけど、それはまた今度ね」
「えーーー!」
「えーじゃない。如月さん、今度はありませんよ。部外者なのにまた来る気ですか」
「部外者じゃなくて卒業生だから良いの!根津ちゃんもいつでも来て良いって言ってたし」
「…あんなことがあって警戒強めてるってのに」
「だからまた今度、お話しに来るね!」
まるで同い年のような無邪気な笑みにクラスの空気が柔らかくなった。相澤は深い溜息をつく。相変わらずマイペースで面倒だと。
「あ、それでオールマイト探してるんだけど、どこにいるか知らない?」
「オールマイトなら職員室にいるんじゃないですか」
「もちろん真っ先に職員室に行ったよ!けどいないの!」
「じゃあ知りませんよ」
「相澤くん冷たい!」
「あ、あの…」
2人の会話に恐る恐る声をかけたのは緑谷だ。春がそちらに視線を向けると、2人の視線が合う。
「たぶん、オールマイトは……」
「仮眠室…?そうね!確かに今日の朝も大活躍してたものね!そこまだ探してないから行ってみる!ありがとう地味な少年!」
「え、僕まだ何も…」
「それじゃ将来有望なヒーローの卵たち!また会おうね!」
それだけ言い残して春は教室を飛び出し、廊下を走って行った。反面教師な春は特別授業と称して呼んでも良いかもしれないと頭の片隅で考えたが、やはり面倒だとその思考を消した。
「な、何で、僕の言おうとしたこと分かったんだろう?」
「あの人の個性は目を合わせた相手の"心を読む"ことだ」
「心を…?」
「だからあの人は好かん…。おまえら、今のは忘れろ。悪い影響だ。授業始めるぞ」
春の登場をなかったことにし、相澤は話を進めていく。けれど、オールマイトの同期だと、春の存在を大きく刻み付けられたA組は、しばらくその話題で盛り上がるのだった。
◇◆◇
仮眠室への道は覚えている。そこまで全力で走り、ノックもせずに勢いよく扉を開けた。
「オールマイト!!」
「!!」
仮眠室で休んでいたオールマイトはびくりと肩を跳ねさせた。今はトゥルーフォーム。普通ならここで見られてはいけない姿だ。
「やっと見つけたオールマイト!!」
「ちょ…!そんな大声で…!ていうか何でここにいるの!?どうやって!?」
「私が祝いに…来た!なんてね!お誕生日おめでとうオールマイトー!!」
その言葉と共にソファに腰掛けるオールマイトへ飛び付いた。いつもなら簡単に受け止められるが、今はトゥルーフォーム。力強い飛び付きにそのままソファへ押し倒された。
「えっと…聞いてる?」
「聞いてるー!」
オールマイトの胸にぐりぐりと頭を押し付けながら答える。明らかに聞いていないが、幸せそうなその姿に何も言えなくなってしまう。
「やっと会えたから充電…!」
「ははっ、昨日も会ったじゃないか」
「今日初めて会ったもの!それに…お祝いの言葉、本当なら誰よりも先に言いたかったのに…」
むーっと頬を膨らませる仕草は昔から変わらない。無個性だった頃も、個性を得てからも、平和の象徴と呼ばれるようになっても。春は変わらない。
「最初でも最後でも、君からの言葉が1番嬉しいよ」
「…本当に?」
「不安なら私の心を読んでみればいいさ」
「んー…読まない。オールマイトは嘘つかないものね!」
「もちろんだ」
オールマイトの手が春の背に回り、ぎゅっと抱き締めた。細くガリガリの腕で、力強く。
「流れで言っちゃったからちゃんと言うね。…お誕生日おめでとう、俊典くん」
「…ああ、ありがとう。春くん」
穏やかに笑ったオールマイトに春も同じような笑みを浮かべた。今この時が、何よりも幸せなひとときだ。
「プレゼントはー、わ、た、しっ!」
「な、何を言っているんだ!」
「だーかーら!プレゼント!私をオールマイトにあげる!」
「悪ふざけするのもいい加減にしなさい!」
「春くん愛してる…もちろん誰にも渡すつもりなんかないって…!きゃー!私もオールマイト大好き!愛してる!」
「こんなときに心読まないの!!」
「じゃあ直接言って?」
昔から変わらないのはこのやり取りもだ。心を読める春相手にいつも振り回されてしまう。そのお陰で学生時代に気持ちがバレてしまったわけだが、こうやって両想いになれたのだから結果オーライだと微笑む。にこにこと言葉を待つ春の頬に手を添えた。
「……愛してるよ、春くん」
「……私も」
生徒や教師たちが授業をしている中、仮眠室で2人の影が重なった。
end
ーーーーー
お誕生日おめでとうオールマイト!!
オールマイト相手は生徒よりも同期とか大人でって考えたけど言動が子供な件とオチ問題。でも愛は込めた!最後しか出番なかったけどね!
大好きだよオールマイト!最高のヒーロー!!
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