でんきこねずみの恋

兄の忘れ物を届けに雄英寮まで来たが、ここからが問題だ。部外者は勝手に立ち入れない上に、知らない人ばかりの環境にすでに春は怖気付いている。


「お、おに、おにい、ちゃん…どうして電話…出てくれないの…」


消えそうな声で呟く。今にも泣いてしまいそうな表情で春は辺りをきょろきょろと見渡した。
兄のように少しでも電波を飛ばして連絡を取れれば良かったが、今の春が出来るのは放電することだけだ。ひたすらに何度も電話をかけ続ける。


「おにぃ…ちゃん…早く出て…」
「あれ?雄英生じゃねーな。こんなとこで何やってんだ?」
「!!」


声をかけられ、肩に手を置かれた瞬間、春はバチバチっ!っと光が天に届くほどに大きく放電した。


「…な…んで…い、き、な…り…」
「ぅ、…うー…」


自身の電気で痺れる身体に唸りながら、春は恐る恐る振り向いた。ひょろひょろとした知らない男が感電して倒れている。またやってしまったと顔を青くした。


「あ、あの…っ、ご、ごめん、なさ…」
「おーい瀬呂!なんか今すげー光ったけど大丈夫かー!」
「!」


先ほどの放電に気付き、駆け寄ってくる人物に身を固くした。倒れている男を心配している。いきなり放電し、個性を使ったと、自分がやったと怒られてしまう。あわあわとその場から動けなくなった。


「って、おまえどうした!?大丈夫か!?」
「切、島…し、痺れ、て…動け、ねぇ…」
「痺れて?何があったんだよ!…つか、この子は?」
「…っ!ぁ、わ、たし…は…」


真っ赤な逆立つ髪の、切島と呼ばれた男の視線が春を捉え、春はびくりと肩を跳ねさせた。


「おまえは大丈夫だったか?」
「…ぁ、え、…と…」
「さっきの光で瀬呂が…あ、こいつな!こいつが倒れてるから傍にいたおまえは大丈夫なのかと思ってよ!」
「…だ、い…じょぶ…」
「そっか!なら良かったぜ!」


にかっと笑いかけられ、春は瞬いた。いつも上手く喋れない自分は人をイラつかせてしまうのに、目の前の彼は全くそんな様子を見せない。


「にしてもさっきの光はなんだったんだ?」
「ぁ…の…!」
「ん?どした?」


怒られたくはないけれど、嘘はもっとつきたくない。春は怯えながらも必死に言葉を紡いだ。


「…わ、わたし、が…やった…です…っ」
「は?」
「わたし、が…放電、しちゃって…この、人、し、痺れ、ちゃって…」


言っていて泣きそうになってしまう。浮かぶ涙で目の前が歪み、切島の表情が見えなくなる。けれど、ゆっくりと近付いて来るのは見えた。怒られると、ぎゅっと瞑った目からついに涙が溢れた。


「おし!素直で偉いな!」
「……え…?」


ぽんっと頭を撫でられ、驚いて目を開けた。やはり笑顔の切島を訳が分からずにぽかんと見つめる。


「てか何で泣いてんだよ!?やっぱどっか痛ぇのか?怪我とかしてねぇか?」
「……だい、じょう、ぶ…」
「本当か?」


本気で心配してくる切島にこくこくと頷いた。するとほっとしたような表情で再びぽんぽんと頭を撫でられる。


「黙ってりゃおまえがやったって分かんなかったのに、自分がやったって言えるのすげーよ!」
「…ぁ…え…?」
「それにそんな顔してるっつーことはワザとじゃねーんだろ?じゃああんま気にすんな!」
「で、も…」
「俺も瀬呂も電気には慣れてるしな!」


な!っと未だ痺れたまま倒れる瀬呂に同意を求めた。ここで否定することなど出来ず、瀬呂は小さく頷くしかない。
そんな2人の優しさに表情を和らげようとしたが、寮へ向かっていた人物とどんっと肩がぶつかりよろけた。反射的に顔を上げると、そこには見下すような鋭い目。春は身体を固くした。


「入口の前で突っ立てんじゃねぇぞ。どけモブ、邪魔だ」
「!!」


恐ろしい見た目と声音に声もなく怯える。バチっと、僅かに電気を纏った。


「おいおい爆豪、今のおまえがぶつかっただろ…」
「ほんと女子にも容赦ねぇよな」
「ぁ…う…」
「あァ!?」
「ひ…っ!」
「ぐだぐた言ってねぇで言いたいことがあんならはっきり言えや!!」
「…っ!!」


うじうじとまともに喋れず小さな声を上げる春に苛立ち、爆豪は睨みを利かせ怒鳴る。そんな爆豪の威嚇に春は身体を縮こまらせ、一気に放電した。
バチバチっ!っと再び凄まじい電撃が天へ登り、辺りを明るく照らす。その光景を見た切島はあまりの派手さにぽかんと見つめた。


「て、め…!な、にしやがんだ…クソが…!」
「ぅ、ぐぐ…」
「つか何でてめェまでダメージ受けてんだよ!!クソ個性かァ!?」
「う、うう…」


反射的に反撃してしまいそうになったが、自分よりもダメージを受けている春に怒鳴りながら攻撃を止める。怒鳴られ痺れて痛くて、春はポロポロと泣き出してしまった。そんな春に切島は我に返り、春と爆豪の間に割って入る。


「お、おい爆豪、女の子泣かすなよ!」
「うるせぇ知るか!!そいつが先に仕掛けてきやがったんだろうが!!」
「おまえがビビらせるからだろ!」
「ビビらせてねぇわ!」


あれでそのつもりがなかったのかと、切島も瀬呂も苦笑する。


「ご、ごめん、な、さい…」
「あァ!?聞こえねぇぞモブアマ!!」
「ひぃ…っ!」
「だから怒鳴るなって!」
「だから怒鳴ってねぇわ!!」
「まあこういう奴だからさ、あんま気にすんなよ。ビビらせて悪かったな」
「……ぁ…い、え…わたし、が…悪い…です…」
「にしてもすげー威力だったな!思わず見惚れたぜ!」
「え…?」
「あの電撃の威力、上鳴より強いんじゃね?」
「上、鳴…?お、お兄ちゃんのこと、知ってる…ですか…?」
「………は?」


苛立つ爆豪と回復した瀬呂、そして相手をしていた切島の声が綺麗に重なった。


「あ!やっぱり春だったか!」


そこへ駆けてきたのは今話題に出た上鳴だ。春の名を呼び、苦笑しながら走り寄ってくる。


「お、お兄ちゃ…!」


落ち着いていた涙をぶわっと浮かべ、春は駆け寄ってくる上鳴へ抱き着いた。小さく嗚咽を漏らしながら上鳴の胸で泣き出す。


「おー、わりィわりィ。大丈夫か?」
「だいじょばない…!ぅぅ…電話、した、のに…!全然、出てくれ、なくて…!こわ、怖かった…!」
「あ、マジで?スマホ寮に忘れてたから気付かなかったわ」
「ぶわかぁ…!!」


ぽかぽかと殴りながらボロ泣きする春に苦笑しながら、上鳴はその背中をぽんぽんと優しく叩いた。


「えっと……上鳴?おま、その子…」
「え?俺の妹だけど」
「い、妹!?」
「揃ってボツ個性かよ!!」
「ひでぇ爆豪!電気系の個性は人生の勝ち組だぜ!?」
「アホんなったり自分が痺れたりでクソだろうが!!」
「!」
「ちょ、爆豪あんまでかい声出さないでくれよ…春がビビるから」


爆豪の怒鳴り声に反応し力んだ春の頭を落ち着かせるように撫でる。いつもの頼りない姿からは想像出来ないほど、頼り甲斐のある兄の姿がそこにはあった。


「まあ妹がこんなビビりなら上鳴でも頼もしく見えるわな」
「…どういう意味だよ」
「にしても上鳴!おまえの妹の電撃、すげー威力だな!」
「ほら春、切島がおまえの電撃すげーってよ」
「…切、島…」


自身の身体から春を優しく引き離し、くるりと切島たちの方へ向ける。上鳴にくっついたまま、未だに潤む瞳で切島たちを見上げた。


「あ、そういや自己紹介してなかったな!俺は切島鋭児郎!んで、この目付き悪いのが爆豪で、こっちが瀬呂だ」
「ケッ」
「こんにちは、春ちゃん」
「………か、上鳴、春…です…」


3人を1人1人確認するように見つめ、ぺこりと頭を下げた。


「にしてもやっぱ春の個性派手で良いな!俺の個性は硬化って地味だからよ、春の個性すげーかっこいいと思うぜ!」
「…け、ど…まだ…全然…使えなくて…」
「こいつは俺と違って脳がショートしない代わりに、放電するたびに自分も痺れちまうんだよ」
「っとに兄妹揃ってボツ個性だな」


しゅんっと落ち込んでしまった春の頭を切島が目を合わせるように屈み、ぽんっと叩く。大きな手にぐしゃぐしゃと混ぜるように撫でられた。


「…??」
「今はまだ使えないだけだろ?使いこなせるようになったら最強じゃねーか!兄貴より強くなるぜ!」


初めてそんな励まし方をされ、春はぱちぱちと瞬きをする。切島の笑顔を見ていると、心がふわふわとした。


「ぁ、の…」
「ん?」
「ぁ…ぅ…切、島…先輩…あ、の…」
「どした?ゆっくりで良いぜ!」


自分を見てくれて、上手く話せなくても怒るどころか優しく待っていてくれて、そんな切島にどんどん頬が熱くなっていく。


「…ぁ、の………あり、がと…です…」
「おう!」


嬉しそうに笑った切島に、春もはにかんだ。


「なんだよ、ちゃんと笑えんじゃん!」
「え…?」
「春は泣いてるより笑ってん方が可愛くて良いと思うぜ!」
「………」
「ばっかおまえ切島…!」
「………〜〜〜っ!!」
「待て春落ち着…」


バチバチバチっ!!っと今日1番の大きく眩い光に、寮にいたものが気付き慌てて外へと飛び出した。そして雄英寮の前で、激しい雷が落ちたように感電する5人の姿が目撃されたのだった。


end
ーーーーー
オチはこんなんだけどきっと今後は切島くんに懐く。年齢はお任せ。
上鳴くんがずっとピ○チュウに見えてて、なら妹はピ○ューだな!って思って書いた話!色々活かせてないぜ!
この妹ちゃん天喰くんと2人きりにしたい。

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