ねぇ、気づいて

「たっだいまー!…って、あれ?」


ヴィランのアジトとは思えない明るさで帰ってきた春は、部屋の奥で電話をしている死柄木に気付いた。あまり見ない光景だ。


「弔くんが誰かと電話してる…誰だろう」
「あれれ〜?弔くん誰かとお電話してるんですかぁ?」
「あ、トガちゃん。うん、そうみたい」
「ふふー、なんか弔くん少し楽しそうに見えますね〜」
「……うん」


自分と話すときは目すら合わせてくれず淡々と話すのに、電話をしている死柄木はどこか楽しそうだった。それが不満でむっと唇を尖らせる。


「春ちゃんヤキモチですかぁ?」
「…春ちゃんヤキモチです…」
「ヤキモチ焼くなんてかぁいいですね〜」
「嬉しくない…」


むっとしたまま死柄木を見つめていると、電話が終わったのか、深い溜息をついて電話を置いた。そして春たちに気付いて視線を向ける。


「…なんだよ、戻ってたのか」
「…私たちが帰ってきたのに気付かないくらい電話に夢中だったんだね」
「夢中?ただの迷惑な間違い電話だぜ?暇だったから少し話してただけだ」
「へー、弔くんは暇だと間違い電話をかけて来た人と楽しそうに話すんだ?ふーん」
「…おまえやけに突っかかってくるな」
「べっつにそんなつもりないし!弔くんジイシキカジョーだね!」
「は?何?ムカつくんだけど」
「2人ともケンカしないで下さいよぉ」


渡我は殺気を滲ませる2人の間に入り、ふにゃふにゃと笑ったまま止めに入る。けれど春も死柄木もバチバチと睨み合っていた。


「春ちゃんは弔くんが楽しそうにお話してたからヤキモチ焼いちゃっただけなんですよぉ」
「や、ヤキモチなんて焼いてないよ!」
「あれぇ?でもさっき春ちゃん自分で言ってませんでした?」
「言ってませんでした!!」


頭に両手を当てて考える渡我に春は焦りながら否定する。自分の気持ちは認めるが、それを死柄木には知られたくない。ただでさえこの気持ちが重いなんて分かっているのだから。


「んー?おかしいですねぇ」
「ほ、ほらトガちゃん!さっき荼毘に何か頼まれてたよね!急ぎだったよね!」
「あ!忘れてましたぁ!春ちゃんのお陰で思い出しましたよぉ〜。ありがとうございます〜」
「ど、どういたしまして!」


そして渡我はぱたぱたとまた外へ向かっていく。扉を開けた所でくるりと振り返った。


「2人ともらぶらぶなんですから仲良くして下さいねぇ」


へにゃ〜っと笑った渡我はそのまま出て行ってしまった。あの一言を最後に残された2人の間には、何とも言えない空気が流れる。


「ヤキモチ、ねぇ」
「や、焼いてないけどね!トガちゃんバカだから勝手に言ってただけだよ!」
「おまえもバカだろう」
「む…」


再び唇を尖らせた春に、死柄木はぽりぽりと頭をかいた。


「勘違いしてんだからバカだろ」
「…何を」
「電話。本当に間違い電話だよ。ただ相手がオールマイトが好きとか馬鹿げたこと言い出したから、ヒーローが如何に無能か話してやってたんだ」
「……ふーん。そのわりには…楽しそうだったね」
「俺の理想を話してたからな」
「……ふーん。そう、なんだ」
「………春が早く帰ってこないのが悪いんだろ」
「え?」


ぼそりと小さく呟かれ言葉に春は瞬く。ぽかんと死柄木を見つめた。


「…寂し、かった?」
「はぁ?バカ言うなよ」
「寂しかったんだ…!」
「…おまえ殺すぞ」
「ふふふー、弔くん可愛いとこあるね!」
「おい春こっち来い。今すぐ壊してやる」
「出来ないくせに!」
「試してみるか?」


個性を使って暴れ始めた2人を、渡我、荼毘、トゥワイスは扉の外から静かに眺めた。


「2人とも仲良しですねぇ」
「…中身はガキ同士でお似合いなんだろ」
「おい止めなくていいのかよ!やらせとこうぜ!」
「黒霧がくれば止まるだろ。俺はあんな痴話喧嘩に巻き込まれたくない」
「春ちゃんもきっと、好きな人はボロボロにしたいんですよぉ〜、応援しないとですねぇ」
「はぁ!?応援?誰がするかよ!早くくっつけよな!」
「あー…面倒くせぇ…」


荼毘の言う通り、黒霧が戻り止めに入るまで2人の殺し合いのような争いは続いたのだった。


end
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ヴィラン連合を書きたかったから少しだけど書けて良かった!!あとヒーローダイヤルの弔ほんとくそ可愛いの!寂しいのかな!?とか思ったら寂しがり屋な弔を書かずにはいられなかった…!
タイトルは2人の気持ち、かな!!

title:きみのとなりで

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