私の素敵な王子様



『死ねえええええ!!』
「す、素敵…!」
「いやいやいやいや」


ヒーロー基礎学の授業で仮想敵を相手に戦う爆豪を、春はキラキラとした瞳で画面越しに見つめた。
ヒーローらしからぬ言動にうっとりとしている姿に、見ている全員がないだろ、と口を揃えてつっこむ。


「あいつが男らしくてかっこいいってのは分かるけどよ、素敵はないんじゃねえの?」
「いいえ!あんな素敵な人いません!」
「誰かリカバリーガール呼んでこーい。如月の目ェ腐ってんぞー」
「上鳴くん失礼です!貴方のことちゃんとアホに見えてますから大丈夫です!」
「どっちが失礼だよ!?」
「ブフっ」
「そこ!笑うな!」


ぎゃーぎゃーと騒ぐ上鳴からすぐに画面越しの爆豪へと視線を戻す。そしてふわふわとした空気を纏い始めた。


「か、かっこよすぎます…!」
「春ちゃんは口の悪い子が好きなのかしら?」
「いいえ!爆豪くんが好きなんです!」


きっぱりはっきりと言い切った春に流石だと心の中で拍手を送る。大人しそうに見えて言うこともやることも意外と大胆なのだ。


『いい加減うぜえんだよ!消えろやカス!!』
「ふあ〜〜〜っ!」
「春ちゃんがどこに感動してるんか分からんわ…」
「全くですわ」
「春ってばシュミ悪いよー」


相変わらず口が悪すぎる爆豪に全員呆れた表情しか浮かべられない。けれど春は爆豪が悪態をつけばつくほど頬を染めて興奮している。


「爆豪くんが素敵すぎてどうにかなりそうです…!」
「そういえば、如月くんは入学当初から爆豪くんに一目置いていたな。一体彼の何が君をそこまで惹きつけるんだ?」
「全てです!」
「いやそうではなく、みんなが納得出来るような理由をだな…」
「爆豪くんは私の王子様なんです!」
「………は?」


心の中ではなく、全員の言葉が綺麗に重なった。同意出来る人物は誰もいない。


「中学のとき、ヘドロの敵に襲われそうになった所を助けてくれて…!」
「それ、有名な爆豪が襲われたやつか?」
「はい…私のせいで爆豪くんが捕らわれちゃって……爆豪くんは、身を呈して私を助けてくれたんです!だから私の命の恩人で王子様なんです!」


思い出しながら頬を染めて語る。入試の救助ポイントが0ポイントだったくらいだ。恐らく爆豪に助けた気はないだろうが、本人がそれで喜んでいるのだから変に口出しは出来ない。
思ったことを口にしてしまう人物たちも春の纏う甘ったるい雰囲気に気圧され口をつぐんだ。
そこへ扉が開き、仮想敵を倒し終わった爆豪が戻った。途端に春はぱあっと顔を輝かせて爆豪へ走り寄る。


「爆豪くん!お疲れ様です!」
「おー」
「とても強くてかっこよくて見惚れちゃうくらい素敵でした!」
「ったりめえだろ!…………つか、てめェ誰だ」
「如月春です!」
「おい半分野郎!てめェより高い点数出してやったぞおら!」


聞いたにも関わらず爆豪は視界に入った轟に喧嘩を売りに行く。春の言葉は全く届いておらず、見ていた人たちからは憐れむ視線が向けられた。爆豪の態度に春はむーっと頬を膨らませる。


「お、ついに如月も怒ったか?」
「そりゃあんだけリスペクトしてるのに名前も覚えられてないんだから普通怒るでしょ」


轟に言いたいだけ言って部屋を出て行った爆豪。それと同時に春の足が動き、爆豪を追いかけると思ったが、その足は轟に向いていた。
そして轟の目の前に立ち、じっと見つめる。


「…何だよ」
「轟くん…ずるいです…!」
「は?」
「私も轟くんには負けません!轟くんより強くなって爆豪くんに喧嘩売ってもらえるようにするんですから!」
「…おお、頑張れよ…?」


びしっとそう宣言し、春は急いで爆豪の後を追いかけて行った。訳が分からないまま返事をする轟。残された生徒たちには微妙な空気が流れる。


「…つーか、如月は爆豪に喧嘩売ってもらいたいのかよ」


恐らく春の言いたかったことはそうではないだろうが、今の発言では完全にそう聞こえる。


「爆豪くん!良ければ私と手合わせして下さい!」
「誰だよてめェ」
「如月春です!」
「デク!!俺の前を歩いてんじゃねえ!!」


何度目かの自己紹介すらスルーされてもめげずに嬉々とした春の声と、出久を視界に捉えてキレる爆豪の怒声と、理不尽にキレられて嘆く出久の悲鳴を聞きながら、A組は大きな溜息をついた。春が爆豪に認識され、恋が実るのはきっと果てしなく遠いだろう、と。


end
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爆豪くん好き好きー!な子を書きたかったのは確かなんだけど思ったのと違くなったぞ!
あとクラス誰が喋ってんのか分かりづらー!精進します!


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