馬鹿ばっか

「物間、好き」
「あっそう」
「大好き」
「はいはい」


雄英ヒーロー科の1年B組で行われている見飽きたやり取りに、拳藤は呆れたように溜息をつく。何度見ても異様な光景だ。


「物間が好きだって言ってるんだけど」
「だから分かったって言ってるだろ?」
「じゃあ返事は?告白の返事!」
「は?返事?」


物間は嘲るように鼻で笑いながら春を見下す。


「僕が君の告白に答える義理なんてないと思うけど?」
「…相っ変わらずひねくれてるなぁ」
「僕がひねくれてるだって?まさか!毎日懲りもせず告白してくる如月が単細胞なだけだよね!」
「こら物間。いい加減誤魔化してないでちゃんと如月の告白に答えてあげなよ」
「そうだぜ!男なら好きか嫌いかはっきりさせろよ!もし嫌いだなんつったら俺が黙ってないけどな!」
「…拳藤も鉄哲も関係ないだろ?首を突っ込まないでほしいな」


僅かに眉を寄せた物間を春はただ微笑んで見つめた。当事者にも関わらず、3人のやり取りを楽しんでいる。


「大体僕と如月が話している所に入ってこないでくれよ」
「……それは、如月との時間を邪魔するなってこと?」
「ははっ、何言ってるんだ拳藤。僕がいつそんなことを………」


直前に自分が発した言葉を思い出したのか、人を馬鹿にしたような笑みを浮かべたまま物間は固まる。拳藤は呆れたように溜息をつき、春はにこにこと物間を見つめる。


「あーあー!馬鹿と話すのは本当に疲れるよね!貴重な休み時間まで体力使うなんて得策じゃないな!」


無駄に笑いながら物間は席立つ。可哀想なものを見るような拳藤たちの視線に見送られながら教室の扉へと向かって行った。


「もーのまっ」
「……何だよ」


廊下へ踏み出した直後、途中からやり取りを見守るだけだった春から声がかかる。何故か不機嫌になりながらも振り向いた。そんな物間にも春はいつも通りの笑顔で。


「だーいすき」
「あははっ!馬鹿の一つ覚えみたいに可哀想なくらい馬鹿だね!こんな馬鹿に付き合ってられないよ馬鹿が移ったら困る!やだやだこれだから馬鹿とは付き合ってられないんだよ全くさー!あはははははっ!」


普段無駄に語彙力のあるひねくれ者から語彙力が失われ、同じ言葉を繰り返していることに本人は気付いていないだろう。狂ったように笑いながら教室を出ていく姿に、全員が憐れむ視線を向けた。そんな中で春はようやく声に出して笑う。


「あははっ、本当に分かりやすいよね」
「…私にはよく分かんなかったけど」
「俺も全然分かんねぇ…。ただのやばい奴だったぜ?」
「そう?反応が正直で可愛くなかった?」
「は!?」
「どこがだ!?」


どこからどう見ても物間の反応は正直でも可愛くもなかった。肯定出来るはずがない。


「…物間が正直も可愛いも、如月が夢見過ぎなだけだよ」
「そんなことないって。物間は誰よりも正直だよ」
「だからどこがだよ!?」
「だからぜーんぶだよ。みんなが抑えてるA組に対しての思いも、ヒーローになりたい思いも。他にもいっぱいあるけど、とにかく物間は全部正直」
「それは正直っていうのか…?」
「ひねくれてるけど、私は物間のそういうバカみたいに可愛い所が好きだからね」


物間をからかっているわけでもなく、みんなに嘘をついているわけでもなく、春はただ本心を口にする。拳藤たちからすれば物間以上に春のこともよく分からない。


「てか如月!正直って言うなら俺だって正直だろ!!」
「鉄哲は正直じゃなくて馬鹿正直なの」
「なんだとぉ!?」
「はいはい、ややこしくなるから鉄哲は黙っててな」
「くっそ…おまえら…!」
「それにしたってさ、めげないよね」
「何が?」
「何って如月がだよ。物間全然告白に答えないのに、毎日懲りもせずよく言うよと思ってさ」
「あれねー、強がっちゃってねー」


くすくす笑う春に、顔を見合わせる拳藤と鉄哲。春は頬杖をついて物間の出て行った扉を見つめた。


「気持ちはもう分かってるんだよね。だから素直になれない物間の反応楽しんでるだーけ」


だから別に本当に答えを求めているわけではないと、そう続ける。目を細めて微笑む春に、拳藤も鉄哲も訳が分からず首を傾げるのだった。きっとその理由を知る日も遠くはないだろう。


◇◆◇


「…くっそ…!」


そしてその頃、1人教室を出ていった物間は、人気の少ない階段の踊り場で、壁に手をついて俯いていた。
いつも冷静を装うその顔を真っ赤にさせながら。


end
ーーーーー
本当は物間くんがずっと優位で夢主を振り回す話だったはずなのに書いてくうちに無性に物間寧人に腹が立って変更した。
たまにはこういうのもね!!って言い訳!!

[ 11/26 ]

back