勇気を出した言葉で

一体どうしてこうなったのか。
壁に押し付けられた両手と、目の前で俯いたまま何も言わない爆豪に、現実逃避のようにそう考えた。



爆豪家にて光己と一緒に夕飯の準備を手伝っていた春は、光己に最近どうなのかと恋人とのことを聞かれた。つい先日、身体を重ねたばかりでそのことを思い出し、動揺してパン粉をひっくり返す。頭から被ったそれに光己はケラケラとひとしきり笑ったあと、春を風呂に入るように促した所からおかしくなり始めたのだ。


「…これ、は…」


着替えを置いておくと声をかけられたのは覚えている。だから恐らくこれが着替えだろう。風呂から出た春は用意された着替えを広げて頬を赤く染めた。


「これ、勝己くんの服…」


しかもTシャツ1枚しかない。明らかに故意的だと乾いた笑いをもらした。とてもいい顔をした光己の姿が思い浮かぶ。


「…とりあえずこれ着させてもらって、ちゃんと着替え借りよう」


大きな服に袖を通し、鏡でそれをまじまじと見つめる。爆豪の服を着て、まるで爆豪に抱き締められている感覚になり、思わず服に顔を埋めた。


「勝己くんの香り…いい香り…」


すんっと服の匂いを嗅いで微笑み、あのときもこの香りに包まれていたと頬を赤く染める。はっと我に返り早く着替えを借りなければ爆豪が帰ってきてしまうと、脱衣所の扉を開けた。


「…あ」
「……」


しかしタイミング悪く、ちょうど帰ってきた爆豪と鉢合わせる。風呂上がりで髪はまだ少し濡れていて、爆豪の服1枚だけを着ていて。その無防備な姿に爆豪はぴしりと音を立てて固まっていた。


「あ…えと…」


なんと言い訳しようか考えても、目の前でこちらを見つめる爆豪に思考がまとまらない。しかも先ほど爆豪に抱かれたことを思い出したばかりだ。どんどん鼓動が早くなっていく。


「ご、ごめんね!忘れて!すぐに着替えるから!!」


とにかく逃げなければと勢いよく扉を閉めようとすれば、すかさず爆豪が手を入れそれを阻止した。驚いている間に腕を掴まれ、無言で連れていかれた先は爆豪の部屋。その部屋に入った所で壁に押し付けられ、冒頭に至る。


「あ、の…勝己くん…?」
「……」
「……えっと…」
「脱げ」
「へ!?」


ぶわっと一瞬にして顔を真っ赤に染めると、顔を上げた爆豪の顔まで同じように赤くなった。


「ば、ちげ、そういう意味じゃねぇよクソが!!」


そう怒鳴りながら春の両手を離し、代わりに顔面を掴んで視界を遮る。動揺のあまり加減を間違えているのか、ミシミシと締め付けられる痛みに春は苦笑する。


「あの、勝己くん…ちょっと痛い…かな」
「…うるせぇ」
「力、緩めてくれると…」
「うるせぇ!!」


そう言いつつも爆豪は手を離し、春の視線が向く前に自身の胸に押し付けるように抱き締めた。もちろん顔を見られないために。風呂上がりの春の髪から香る自分と同じシャンプーの香りにくらくらし、抱き締める腕に力が入る。


「…なんつー格好してんだよ」


ぼそりと呟かれた言葉に自身の格好を改めて認識し、言葉に詰まる。途端に恥ずかしくなってきてしまった。


「あの、これはその、光己さんが用意してくれた服で私が着たいと言ったわけではなくて…!……ごめんね」
「何で謝んだよ」
「…勝手に勝己くんの服着て、勝己くん嫌だったから怒ってるのかと思って…」
「ハァ?怒ってねぇだろ」
「……」
「怒ってねぇだろうが!!」
(理由は違うだろうけど怒ってる…!)


春がびくりと肩を揺らすと、爆豪はがしがしと頭をかいた。違う、自分が言いたいのはこんなことではない。


「…だー、くっそ…おまえといるとマジで調子狂う」
「…ごめんね…?」
「意味も分かってねぇくせに謝ってんじゃねぇボケ」
「う、うん…」


抱き締められたまま沈黙が続く。普段あまりこういった触れ合いがないために意識してしまい、鼓動が治まることはなかった。それは爆豪も同じようで、少しだけ早い鼓動が伝わってくる。


「…勝己くんも、ドキドキしてる…」
「…ったりめぇだろ」
「そう、なの…?」
「おまえがんな格好してて平常心でいられるわけねぇだろうが」
「嫌じゃなかったの…?」
「…嫌がる理由がねぇだろ」
「…喜んで、くれてる…?」
「……」


勇気を出して問いかけると、爆豪は何も言わずに抱き締める腕に力を込めた。


「…勝己くん…?」
「…おまえもう黙ってろ」
「……」


無言でこくりと頷き、顔だけ動かして爆豪の顔を見ようとした。


「こっち見たら殺すぞ」
「…はい」


先ほどとは違い故意的にギリっと強く頭を掴まれて動きを封じられる。キツく痛いほどに抱き締められ、薄い1枚の服越しに感じる体温に胸が高鳴り、身体を重ねたことを思い起こさせる。抱かれたい。そう思ってしまった身体はもう治らない。春はそっと背中に手を回した。


「…勝己くん、湯冷めしちゃったかも。だから、寒いから…温めてほしい、な…?」
「…っ、てめェ…こっちが必死に我慢してやってんのに…」
「我慢なんて勝己くんらしくないよ」
「どういう意味だコラ」
「そ、それにね。部屋に連れ込んでる時点で我慢なんて言われても…もう…期待、しちゃってるから…」
「…おい春、言うようになったじゃねぇか。そこまで言うなら覚悟はあるんだろうなァ?」
「……覚悟決めたから、勇気出したんだよ…?」
「上等だ。…ぶち犯してやる」
「お、お手柔らかにお願いします…!」


はにかんで答えた春に、爆豪は捕食者のような瞳で噛み付くようなキスを落とした。


end
ーーーーー
彼シャツ第2弾!だったんだけどあまりにも不完全燃焼すぎるかっちゃん難しいし夢主ブレブレだぜ
んんんんこれはリベンジかな…てか家に親いるよー!夕飯どーしたー!色々ツッコミ所はあるけどたぶん全部察してくれてるから大丈夫!!

[ 9/26 ]

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