最初の一歩

「無理だと思う無理だと思う絶対無理だと思う!!」
「ダーイジョーブだって!ほら!」
「わ…!」


登校時、雄英の校門前で轟の後ろ姿を見つけた。話かけたいけれど話かけられない。途端に緊張で固まってしまうも、芦戸に背中を押されて轟に突っ込みそうになるのを何とか踏ん張った。


「あ……っぶな…!!み、三奈ちゃ…わぶっ」


勢いよく振り返ると、どんっと誰かにぶつかってしまった。轟との衝突はさけたのに何故、と、春は恐る恐る顔を上げる。そして固まった。


「…!!ば、ばばばばば…!」
「ってぇな。何すんだモブザコが」
「爆豪くん!ご、ごめんなさい!おはようございます!!」
「うるせぇ!朝からデケェ声出してんじゃねえよ!!」
「は、はい!!」


爆豪の方がうるさいじゃん、っという言葉を傍にいた生徒たちは何とか飲み込んだ。怒鳴られた春はガタガタと震えている。


「爆豪ちゃん、怒鳴らないであげて。春ちゃんが怯えてるわ」
「アァ!?」
「ていうか春ー、爆豪には普通に挨拶出来るのに何で轟には出来ないの?」
「俺が何だ?」
「と、ととと轟くん…!」
「てめェなんざお呼びじゃねぇんだよ!!失せろや!」
「おー、いたいた。ほーら爆豪、早く教室行こうぜ」
「離せこらクソ髪!!」
「頑張れよ、如月!」
「は、はい!」


がやがやと集まってきた生徒の中から、切島が爆豪の肩を組んで連れて行き、にかっと春に笑いかけた。


「じゃあ梅雨ちゃん、私たちも行こうか!」
「そうね。行きましょう」
「え、あ、2人とも…」


口パクで頑張れ、と応援され、轟と2人残される。みんな春が轟に片想いしているのを知っているのだ。だからお節介なA組生徒たちは春の恋路を応援している。その協力のお陰で2人きりになれたが、途端に緊張が襲ってきた。


「遅刻する。行くぞ」
「は、はい!」


気にかけてくれた轟に内心はしゃぎながらも、大人しく後ろをついて行く。歩く後ろ姿を見るだけで顔が緩みそうだった。
けれどそれではいつもと同じで。今日は目標がある。轟に挨拶をするという目標が。
胸に手を当てて深く深く深呼吸をする。


「あの、と、轟くん!」
「?」
「……っ、お、おおおおっ」
「お?」
「…お、おはよ…ござい、ます…!」
「……」


少しずつ距離を縮めていき、いつかこの気持ちを伝えたい。だから意を決して、おはよう、と挨拶をする。ただそれだけのことなのに心臓はばくばくだった。振り向いた轟と視線が交わる。


「……おお。おはよ」
「…!」


返された挨拶に、ぱぁっと顔を輝かせる。誰が見ても分かるその嬉しそうな反応に轟は表情を和らげ、ぽんっと春の頭を撫でた。


「え……」
「おまえ可愛いな」
「…………………………へ!?」
「行くぞ、如月」


ぱっと手を離して先を行く轟に春の脳内は大混乱だ。それでも何とか言葉を紡ごうと意味の成さない言葉が口をついて出る。


「ふぇ、あ、う、ぁ…な…っ」
「…おもしれぇ」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょ……っと待って…!轟くん…!?」
「どうした?」
「ど、どうしたって、だって、い、今…!え!?」
「あ、1限目なんだ?」
「英語です!………じゃなくて!と、轟くん!」
(面白ぇもん見つけたな)


1人あわあわと慌てる春を横目に、轟は笑みを浮かべた。もう少し春のことを知りたいと言ったらどんな反応をするだろうか、と。


「如月」
「は、はい!」
「帰り、送ってくから待ってろ」
「え……?」
「喋り過ぎたな。早く行かねぇと時間やべぇ」


それだけ言って歩いて行ってしまった轟の背中をぽかんと見送った。脳内で何度も轟の言葉を反復する。
そしてしばらくして、ぼふんっと音を立てて全身から発火した。
帰りまで、保たないかもしれない。


end
ーーーーー
片想いって素晴らしい!(オチがない言い訳)
轟くんはまだ恋愛感情ないだろうけどいつか両想いになれたらいいね!甘さどこいった…?
そもそも恥ずかしくて発火する子が書きたかったのに最後だけっていうね!いろんな個性の子書きたい!


[ 10/26 ]

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