お茶子ちゃんに怪しまれる

「星ちゃん…正直に答えてね…」
「うん?何でも答えるよ?」


いつもの麗らかな顔ではない麗日に、星はにこりといつも通りに返答する。麗日は真剣な表情のまま、ごくりと息を呑んだ。


「……単刀直入に聞くけど…星ちゃんって………デ、デクくんと付き会ってるん!?」
「…………ん?」


思いもよらぬ言葉に星はぱちぱちと瞬きを繰り返した。頭の中で麗日の言葉をもう一度再生する。デク…緑谷と付き会っているのかという問いかけを。


「…えーっと、私が出久と?」


こくこくと首を縦に振る麗日は見るからに必死だ。その反応に星はとても良い笑顔を浮かべる。


「なーんでそんなこと聞くのかなー?」
「え!?え、や、だって…!よ、よくデクくんと一緒にいるし、そ、それに…その…朝、デクくんの部屋から出てくるの見かけたって人もいて…!」
「へー?お茶子ちゃんはそれが気になっちゃうんだねー?」
「そそそそりゃ私も女子だし!やっぱり恋ばな的なそういうアレは気になっちゃってね!?」
「へーーー?」
「う………星ちゃん意地悪や…」
「ははっ、ごめんごめん!」


頬杖をついてにやにやと麗日を見つめていれば、折れた麗日は頬を染めてしゅんっと俯いてしまった。面白いとは思ったけれど虐めるつもりはなかった星は明るく謝る。


「私と出久は何にもないよ。付き会ってない。ただの幼馴染なだけだから心配しなくて大丈夫だよ」
「し、心配って何言っとんの星ちゃん!」
「だって出久と私が付き合ってるかもって不安だったんだよね?まあ確かに出久の部屋に入り浸ることは多いけど、他の人の部屋にもよく行くし」
「…そういえば星ちゃん、あんまり自分の部屋にいないよね」
「そうかな?」


星の部屋を訪れても大抵留守なことが多い上に、いつも共同スペースか他の人の部屋にいる。改めて考えると緑谷だけ特別ではなかったのかと、ほっと息をついた。


「安心した?」
「!」


ぽっと頬を染めた麗日に微笑む。恋にしろ憧れにしろ、幼馴染が好かれているのは嬉しい。


「あ、じゃあもしかして爆豪くんと?」
「………は?」


終わると思っていた話題が続き、そこへ上げられた人物の名前に固まる。


「爆豪くんと仲良いし、よくくっついとるし…夜も部屋についてったり…朝も…一緒に部屋から出てきた、り……そういえばデクくんよりも見かけた人が多かった…!?」
「お茶子ちゃんストップストップストップ!そこで自己完結しないで!勝己とも付き合ってないから!」
「…本当に?」
「嘘ついてどうするの…。付き合ってないよ。出久も勝己もただの幼馴染。恋人じゃない」


中学のときも同じ疑いをかけられたことを思い出して苦笑する。自分が2人にベタベタしている自覚はある。大好きな幼馴染だから。けれどそこに恋愛感情はない。


「…まあ、またプロポーズされたら考えてあげなくもないけど」


幼い時に、大きくなったら結婚しようと言ったのを、彼は覚えているだろうか。きっと忘れているだろうけど、子どもの戯言なのだからそれで良い。星は当時を思い出して笑った。


「プ、プロポーズって何!?」
「わっ」


突然話題に入ってきた芦戸に現実に引き戻された。よく見れば帰ってきた女性陣が共同スペースに集まってきている。


「なになになに?星ってばプロポーズされたの?いつ?誰に?どうやって!?」
「み、三奈ちゃん…近いし声でかいしとりあえず落ち着いて…」


ぐいぐいと物理的に迫ってくる芦戸に苦笑するが、周りの女性陣は珍しく助ける気はない。不思議に思って見回すと、全員の視線が星に集まっていた。そしてその瞳は何かを期待している。


「これは…」


まずいかもしれない。そう思ったときにはもうすでに女性陣に囲まれていた。


「星ちゃん、その話、とても詳しく聞きたいわ」
「ウチもそれは気になる。速見に好きな人がいたとはね?」
「誰誰?A組?他のクラス?それとも別の学校?私こういう話大好き!」
「速見さんが殿方に一体どのようにプロポーズされたのか気になりますわ…!」
「それでそれで!星ちゃんは何て答えたの?」
「え、ちょっと待ってみんな、何か誤解して…」
「よーし!今夜は女子会だ!聞き出せ!星ちゃんの初恋話!」
「いつ初恋の話になったの!?ていうかほんと待って…」


すでに一致団結した女性陣はお菓子やら飲み物やらの準備を始めている。完全にここで始める気満々だ。こんな寮生の集まる場所で恋愛の話など公開処刑でしかない。


「…さーて、どうしたものかな」


逃してもらえなさそうな雰囲気に、どう誤魔化していくか脳をフル回転させる。上手く麗日の恋の話題にしてしまおう。他の女性陣もつつけばそういった話の1つや2つ出てくるはずだ。不利な状況に打開策を見出し、星も一緒に女子会の準備を始めた。明日は休みだと、一晩中女子で語り合えるのを楽しみにして。


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結局話題はお茶子ちゃんに移って星ちゃんは何も答えずに女子会を終える

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