轟くんと遅刻する

「おっはよーございまーす!」
「……」
「轟くん!朝だよ!朝!起きて!」
「…うるせぇ…」
「起こしてくれって言ったの轟くんなのに酷い言いようだね!?」


わさわさと布団を被った轟の身体を揺らすのは、朝から変わらず元気な星だ。しっかりと準備を整えてから轟の部屋に来たのだろう。もう学校へ行く準備は万端だった。


「……今、何時だ…」
「朝の5時かな」
「…ちょっと待て。早すぎるだろ」
「だって轟くん何時に起こしてくれって言ってくれなかったから」
「……もうちょい寝る」
「えー、折角だし一緒にトレーニングしよ?」
「昨日遅くまで緑谷とやってたんだ…勘弁してくれ」
「え!ずるい!私聞いてないよ!」


更に激しく身体を揺すられる。たまたま夜に共同スペースにいたからと星に頼んだが、頼む相手を間違えたと後悔した。


「…てか速見、おまえどうやって俺の部屋入ったんだ…」
「え、開いてたよ?」
「…マジか」
「開いてなかったら蹴破ろうかと思ってたから良かったね!」
「……」
「冗談だってば!信じないでよ!」


日頃の星を見ていれば本気でやりそうに思うのも無理はない。轟はくあっと欠伸をし、布団をかぶり直して寝る態勢に入った。


「…本当に寝ちゃうの?」
「…起こして貰ったのにわりィな」
「別に良いけどさー」


星はごろんっと畳の上に転がった。自室にはない寝心地の良さに頬が緩む。


「んー、畳に転がるの気持ち良いね」
「……おう」
「ベッドも良いけど敷布団もなかなか良さそう」
「……だな」
「もっと畳の香りするかなーって思ったけど、やっぱり轟くんの香りがするね」
「……」
「なんか眠くなる香り」
「どういう香りだよ」


律儀に返答していたが、やはり眠気が勝つ。元々朝が弱いから起こすのを頼んだのだが、寝れるならば寝ていたい。


「ふわぁぁぁ」
「…おまえも少し寝てろ。授業保たねぇぞ」
「…うん、そうだね…もう少し…寝ようかな…」


相手が幼馴染ならば無理矢理にでも起こして話し相手になっていただろうが、今の相手は轟だ。そこまで強引には出来ない。眠そうな轟の声を聞いて瞼が重くなっていく。


「…ごめん、轟くん…ちょっとここで…寝ちゃう…」
「……おう」


2人ともそれを最後の言葉に、深い眠りへと落ちた。


◇◆◇


携帯の着信音に、星はゆっくりと目を覚ました。そしてもぞもぞ動いて携帯を手に取る。


「…もしもし…?」
『星!?今どこにいるの!』
「……出久…?どうしたの…?」
『どうしたのって!今何時だと思ってるんだよ!』
「何時って………」


欠伸をしながら起き上がり、きょろきょろと部屋を見渡す。そして時計を目にして固まる。あと5分でSHRが始まる時間だった。


「………あれ?」
『あれじゃないよ!もしかして寝てたの!?』
「…あー、うん。寝てた」
『早く準備して!ダッシュ!』
「りょ、了解!轟くん!起きて!遅刻する!」
『え…?轟くんって、星…?今どこに…』


急ぐために電話を切り、緑谷の言葉は最後まで紡がれることはなかった。ゆさゆさと未だ眠っている轟を強引に起こして準備を急かす。


「轟くん!早く起きて起きて!もう時間ないよ!」
「…ん…」
「寝惚けてるの凄く可愛いけど今はそれどころじゃないよ!…あれ?でも超レアかも写真撮って良い?」
「…やめろ」
「じゃあほらほら早く起きて!」


のっそりと起き上がる轟はどこまでもマイペースだが、急げば1限目には間に合うはずだ。少しシワになった制服を伸ばし、髪を整えながら教室までの最短ルートを模索する。そして轟の準備が出来るとその手を掴み、星は個性を使って急いで教室に向かった。


◇◆◇


SHRは間に合わなかったが、何とか1限目には間に合うことが出来た。相澤は呆れながら2人を注意し、1限目が始まる前に教室を出て行った。轟の手を引いてきたせいか、珍しく息を乱す星に好奇の目が向けられる。


「速見が息切らしてるなんて珍しいな!」
「出久ぐらいなら、全然大丈夫だけど、轟くん大きいから、引っ張るの、結構疲れるんだよね…」
「わりィ」
「あ、ううん、大丈夫。私がちゃんと起こしてあげられなかったのが悪いし」


2人の会話にA組はきょとんと固まる。この会話が爆豪や緑谷ならば聞き流せたかもしれないが、相手は轟だ。おかしい点に気付いてしまう。そして緑谷も電話越しに聞いた会話の意味を聞けずにただ2人を見つめた。


「ねえ星ちゃん。轟ちゃんと一緒にギリギリに登校ってどういうことかしら?」
「え?」
「そ、そうだよ!しかも今の会話!何!?どういうことなん!?」
「えっと…?」
「つーか手ェ繋いでんじゃねぇか!?」
「あ、ごめんね轟くん」
「いや」
「おい轟!どういうことだ!?まさか速見とキャッキャウフフな展開だったのか!?イケメンだから許される展開だったのか!?」
「峰田落ち着け、目が血走ってんぞ」
「だってよぉ!!女子に起こしてもらうってなんだよそれ!どんなシチュだよ!!」
「それで星!どうなの!?もしかして轟と…!?」


さてどこから説明したものかと思案するが、マシンガンのような質問攻めに口を挟むことが出来ない。星は苦笑しながら轟に視線で助けを求めた。それに気付き轟も星を見つめる。お互い見つめ合い、何やら異様な雰囲気になってしまった。


「どおおいうことだ轟!どういう関係だよ!何だよ今のアイコンタクト!オイラたちの知らない間におまえ速見とナニしてやがった!」
「…?」
「まさかとは思うけど、一緒に…寝た…とか…?」


上鳴の問いに、ごくりと息を呑んで返答を待つA組。轟は少し思案したあと、表情を変えずにさらりと言い放った。


「……ああ、寝た」
「はあぁぁぁぁ!?!?」
「?」


教室に響き渡る声に、轟はこてんっと首を傾げる。そして誤解を解く間もなく、1限目の授業開始のチャイムが鳴った。
2人の関係の疑問が深くなった1限目。轟と星以外、誰も授業に集中することなど出来なくなったのであった。

ーーーーー
轟くんが朝弱かったら可愛いと、頂いたネタを使わせてもらったけどこれじゃない感…。本当は寝てる間に轟くんに抱き締められてるの書いたけどとっても恋愛的な話になったから没にした。惜しい…。
この後、爆豪くんにめっちゃ悪態吐かれる。誤解解けるまで爆豪くんめっちゃ機嫌悪くて勘違いしてる出久には距離置かれそう…

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