出久と遊ぶ
「はい、あがり」
最後の組を揃え、緑谷の前にカードを放った星はにこりと微笑む。もう何時間もトランプで色々な勝負をしているが、緑谷は1度も勝てていない。2人でのババ抜きですら勝てなかったのだ。
「出久は本当に弱いね」
「あ、はは…星は表情豊かなのにトランプ強いよね…」
「まあたまにイカサマ……ごほんっ。いやー、今日は轟くんと梅雨ちゃんには負けちゃったんだよねー」
「今イカサマって言ったよね！？」
まさか自分との勝負もイカサマしていたのではと詰め寄るが、それはないと星は笑った。
「出久はイカサマするまでもないからしてないよ」
「それはそれで複雑だけど…ていうか他の人にはしてたんだ」
「上鳴くんと三奈ちゃんは良いカモだったね」
良い顔をして頷く星は、我が幼馴染ながら恐ろしいと思えた。まるで悪気がない。はぁっと溜息をつき、緑谷は何気なく時計を見た。そして顔を引きつらせる。
「…星、もう1時回ってるよ」
「え？わ、本当だ」
共同スペースでみんなとトランプをして一通り遊んでいたが、もう遅いからと解散したあと、星は緑谷の部屋でトランプ勝負の続きをしていた。緑谷が勝つまでやめない、という条件付きで。
「明日も早いしもう戻りなよ」
「いーやーだ」
「え…」
「言ったじゃん？出久が勝つまでやめないって」
「う、嘘だよね…？」
「私はいつだって本気だよ！」
ぐっとガッツポーズをする星に乾いた笑いをもらす。本当に緑谷が勝つまでやめない気だ。時間を見てしまったからなのか、途端に眠気が襲ってくる。
「ね、ねぇ星。続きはまた明日にしない？」
「えー」
「…僕、もう眠いんだけど…」
「プルスウルトラだよ！」
「何が！？」
深夜にも関わらず変わらないテンションの星についていけない。ついていかなくとも振り回されるだけなのだが。溜息をつこうと口を開くと欠伸がもれた。それを見た星は、ふむっと口元に手を当てる。そして何かを思い付いたのか、ぱっと顔を輝かせた。
「ちょっと勝己呼ぼうか」
「……………はぁ！？」
唐突過ぎる言葉に開いた口が塞がらない。そんな緑谷を気にすることなく、星はすでに携帯を取り出していた。
「え！？えぇ！？ちょ、待って、本気！？」
「だから私はいつでも本気だって」
「いいいいやいやいや！な、何で！？何でかっちゃん呼ぶの！？」
「勝己くれば出久の眠気が覚めるかと」
「もう覚めたよ！！ていうか、え、ま、星！？今！今何時だと…！？」
「あ、もしもし勝己？」
こんな時間に電話をすれば爆豪はブチ切れるに決まっている。緊急時ならまだしも、何の用もないのに。
数コールで繋がった電話に、星は明るく爆豪の名前を呼んだ。緑谷は頭を抱える。
「寝てた？」
『……ったりめえだろ！！クソが！！』
「そっか、起きたね！」
『てめェに起こされたんだわ！！何考えてやがんだ！！』
『あ、そうそう。今出久の部屋でトランプしてるんだけどね？』
『聞けや！今何時だと思ってんだてめェは！！』
「深夜1時過ぎだね！」
『普通に答えてんじゃねぇぞクソアマ！！死ねカス！！』
「それで勝己、今から出久の部屋来てくれないかな？」
『はぁ！？ふざけてんのかァ！？死ねカス！！』
「いや大真面目」
『死ねカス！！』
「ねぇ出久。さっきから勝己の暴言のボキャブラリーが可哀想なことになってるんだけど、もしかして寝惚けて頭回ってないのかな？」
「たぶんね…」
離れていても電話越しに聞こえる爆豪の怒声にだらだらと汗を流す。
「出久が眠いって言うから勝己がいれば目覚めるかなーっと思ってたんだけど、勝己まで眠いんじゃダメだね」
『何がダメだよ！！勝手に自己完結してんじゃねぇクソが！死ね！！』
「まだ出久との勝負が残ってるから死ねないなー」
『ならぶっ殺してやんよ…！』
「じゃあこっち来ないとね！」
『んの野郎…！てめェらまとめてぶっ殺してやるから待ってろザコ共！！』
てめェらまとめて。確かにそう聞こえた。完全に緑谷はとばっちりだと顔を青くする。ぶちっと切られ、通話を終えた星はにこりと緑谷に視線を向けた。
「さて出久」
「……」
星は携帯をポケットにしまいながら緑谷に声をかけた。緑谷はごくりと喉を鳴らす。
「もうすぐ勝己が来るわけだけど…」
星の言葉を最後まで聞くことなく、緑谷は個性を駆使したダッシュで扉に向かった。けれど一瞬にして先回りされ、星は扉の前に立ち塞がる。星に速さで敵うはずがなかった。逃げ道を絶たれた緑谷は思わず後退る。どうすれば逃げられるかと必死に頭を回転させた。しかし。無情にも、星からの死刑宣告が下される。
「勝己が来るまでに、2人で死なない方法を考えようか！」
「星ーーーーー！！」
深夜の雄英寮にて、緑谷の悲痛な叫び声が響いた。
ーーーーー
深夜の鬼ごっこ開催か、逃げる前に爆豪くん来ちゃって2人まとめて爆破されて3人で気絶するように雑魚寝して仲良く遅刻か（2人爆破、1人睡魔に負ける）
これの萌えポイントはちゃんと電話に出てくれたかっちゃん
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