勝己で遊ぶ

「ねぇねぇ勝己」
「うるせぇ話しかけんな」
「昨日普通科の子たちがね、個性強くて凄い!って褒めてたよ」
「はっ、それがどうした。ザコどもにチヤホヤされて喜ぶのなんざ三下ぐらいだろ」
「えー、でもヒーローはみんなチヤホヤされて喜んでない?相澤先生みたいな例外もいるけど…個性凄いは嬉しい褒め言葉だと思うけどなー」
「凄いのは個性じゃなくて俺なんだよ」


話しかけるなと言っておきながら普通に会話をする2人の空気はよく分からない。いつものことなのか緑谷は何も気にしていない様子だが、クラス中の生徒は2人の会話に耳を傾けた。


「個性凄いも言ってたけど、強くてかっこいい!とか派手な戦い方が素敵!とか盛り上がっててさ、それは確かにと思ったんだよね」
「当然だろ」
「それがどんどん、どこがかっこいいあんな所が良いだの褒め合戦になっちゃってさ」
「くだらねぇな」
「みんなが褒めるからちょっと妬けた」
「……」
「他のクラスの子より私の方が近くで見てるのにーって、私も褒め合戦に参加しちゃった」
「……そうかよ」


気にしてない風にしながら爆豪はちらちらと星を盗み見る。


「買い物行くと荷物持ってくれたり、落ち込んでると慰めてくれたり優しいとこもあるって自慢したり」
「……」
「実はかっこいいだけじゃなく可愛いとこもあるんだーって」
「…何が可愛いだクソが」
「だってそう思っちゃうんだから仕方ないじゃん?それにヒーローたるもの、やっぱり人気は大切だと思うし!そういうギャップは良いと思う!」
「んなギャップなんかなくたって人気出るに決まってんだろ。強けりゃ良いんだよ」
「やっぱそこだよねー。強いは1番のポテンシャルだから憧れちゃう」
「…憧れてたのかよ」
「もちろん!強くてかっこよくてしかも優しくて大好きだよ!」
「…っ」


満面の笑みで語る星に、あの爆豪が大人しくなっている。幼馴染から恋愛に発展するのかと、クラス中の生徒が息を飲んでそれを見つめた。けれど何故か緑谷は静かに席を離れる。


「俺、は…」
「ところでさ。随分肯定的だったね、勝己」
「あ?」
「今の全部、轟くんのことだったのに」
「………は?」
「ん?」


ぽかんと呆けた顔で星を見つめる爆豪に、星はにこにこと見つめ返した。お互いに何も言わず、しばらくの沈黙が流れる。クラス中の空気が冷たくなったようだった。


「……」
「……」
「……」
「……」
「…………っざけんなクソがァァァァァ!!!」


机を爆破し、更にはそれを星に向けて蹴り飛ばした。凄まじい爆風に見ていた生徒たちは腕で顔を覆う。けれど星は予測と持ち前の反射神経で全て避けて笑っていた。それが更に爆豪の神経を逆撫でする。


「てんめェ舐めてんのかァ!?アァ!?ぶっ殺すぞ!!」
「勝己は何を怒ってるのかなー?」
「今の明らかに俺に対しての言葉だったろうが!!」
「私最初から勝己が〜っなんて言ってないのに」
「舐めやがってクソアマァァァァ…!!」


両手を合わせて爆破し、爆豪は星に襲いかかった。キレている爆豪を前にも星は笑みを崩ずに冷静にそれを避けていく。むしろ楽しんでいるように見えた。


「物壊したら飯田くんに怒られちゃうよ!」
「うるっせぇ!!物の前にてめェをぶっ壊してやるよ!!」
「勝己に私が捕まえられるかなー?」
「死ね!!」


机を蹴り飛ばして星の行く手を塞ぎ、そこへすかさず突っ込む。けれど星は華麗にそれをかわした。


「逃げることに関しちゃ速見に敵うやついねぇよな…」
「逃げるのは男らしくねぇけど、あの爆豪ですら捕まえられねぇ速さはさすがだな!」
「切島ちゃん、星ちゃんは女の子よ」
「かっちゃんは星の動きを読んでるのに捕まえられないのは星もかっちゃんの動きを読んでるからか星のスピードが増してるからなのか…」
「デクくん、止めなくて良いの?」
「僕にアレを止められると…?」


命懸けの攻防を遠目から見つめ、誰も干渉する気はない。先生たちが来るまで終わることはないだろう。


「ちょろちょろ逃げてんじゃねぇぞ負け犬!!」
「勝己、轟くんそこで寝てるから起こさないようにね」
「だァかァらァ…!!あいつの名前出してんじゃねぇぇぇぇ!!」
「おわっ!…と、これは教室壊れちゃいそうだね。よーし、戦略的撤退!」


そう言うと星は緑谷の腕を掴んで教室を飛び出した。麗日と話していた緑谷の残像だけが残り、また巻き込まれてしまった緑谷に手を合わせる。


「待てコラァァァァァ!!」


爆豪も両手からの爆破で教室を飛び出し、星を追いかける。毎日のようにやっている鬼ごっこの開始だ。


「何で僕まで!?」
「あ、ごめん出久つい」
「ついって!!もう…何でかっちゃん煽るようなあんな嘘つくんだよ…」
「煽るのは面白いからだけど、嘘はついてないよ!普通科の子が勝己を褒めてたのは事実だし」
「え?」
「だからムカついて私はその子たちに勝己の悪口を言ってきたんだよね」
「またそういうことを…」
「…勝己の良いとこ知ってるのは、私だけで良いんだよ」
「星…」


珍しくぼそりと呟くように答えた星に緑谷は瞬きを繰り返した。


「…う、上部だけ見た好意なんて私は嫌だからって理由だからね!もちろん出久に向けられる好意もだよ!」
「そんな必死に言い訳しなくても、僕は何も言ってないよ」
「目が言ってたよ!と、とにかく!出久も勝己も同じくらいかっこいいって知ってるのは私だけで良いの!!」
「…うん、ありがとう、星」


少し取り乱した星に、本心が見えて嬉しくなる。緑谷は優しく微笑んだ。しかしそれは一瞬のことで。


「でも今は逃げることに全力を費やして!?迫ってる!話してる間にかっちゃん迫ってきてるから!!」
「あれ、勝己本調子になってきちゃったかな?じゃあ急いで逃げないと!出久、舌噛まないように、ね!」
「どいつもこいつも舐めやがってクソナードがァァァァァ!!」


こうして今日も、いつもの鬼ごっこが始まる。


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幼馴染が褒められるのは嬉しいけどそれ以上に私の方が!って思っちゃう夢主ちゃんの嫉妬
つまり幼馴染たちが大好きです。

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