轟くんとお買い物

「よーし轟くん!じゃあ次はあそこね!」
「おい、まだ買う気かよ…」


一緒に買い物に行こうと誘われ、断ったにも関わらず結局一緒に来てしまっている。どうしてこうなったのか思い出せないが、上手く丸め込まれた気しかしない。大量の荷物を持たされ、轟は溜息をついた。


「もちろん!まだまだ行くよ!」
「買い過ぎだろ。こんなに買ってどうすんだ」
「どうしようね?」
「……」
「いや買うのが楽しくてつい」
「…ついじゃねえよ」
「だって轟くん一緒に選んでくれるから嬉しいし楽しいんだもん!」
「おまえが聞くからだろ」


この服とこの服はどちらが良いか、このアクセサリーはどの服に合うか、色は、形は、実用性は。1人で楽しんで選んでいると思えば、星はどんどん轟に問いかける。ぶっちゃけ何でも良いと思いながらも意見を言えば、星は嬉しそうにそれを買っていた。それを持つのは轟の役目になったが。


「轟くんちゃんと真面目に答えてくれるから!」
「それで即決はどうなんだ」
「良いの!轟くんが選んでくれたものだからね!」


にこにこと楽しそうに笑う星に何も言えなくなる。


「出久に聞くとブツブツブツブツ全然決められないし、勝己に聞くと何でもいいって選んでくれないし」
(…あいつと同じ反応するとこだった危ねえ)
「だからちゃんと考えて選んでくれるのが嬉しくて」
「…それなら、俺じゃなくても他にいただろ」
「轟くんが1番暇そうだったから」
「…帰る」
「嘘だよ!冗談だから!轟くんと2人でお話ししたかっただけ!」
「………」


それも嘘なのではとじとっと星を見つめる。


「あまり話したことない人とは話してみたいじゃん?」
「…思わねえ」
「クラスのみんなとはもうほとんど話したけど、轟くんとだけこうやって2人きりで話したことなかったからね」
「そんなやつをよく買い物になんか誘えるな」
「ん?どうして?」


深く考えるのをやめた。切島同様に誰とでも仲良くなるタイプを理解するのは難しい。


「やっぱ何でもねえ」
「そう?」
「それより次行くんだろ。次を最後で買い物終わらせて帰んぞ」
「えー、次が最後なの?」
「もう持てねえよ」
「重い?」
「重かねえけど…」
「勝己はもうちょっと根性あるよ?」


にこっと呟かれたその言葉に、轟の眉が僅かに動いた。


「…おまえ、人をその気にさせるの得意だよな」
「ふふっ、何のことかな?」
「…別に張り合う方じゃねえが……はあ、しょうがねえな。満足するまで付き合ってやるよ」
「やった!さっすが轟くん!」
「その代わりおまえも少し俺に付き合えよ」
「わー!愛の告白?」
「…頭冷やしてやろうか」
「あ!轟くん!アイスあるよ!あそこのアイス食べよう!私奢るから!よし行こう!」
「おい、速見…っ」


腕を引かれて走り出す。星が個性を使っていないお陰で普通に追いつけるスピードだが、両手が塞がっているせいで走りづらい。文句を言おうと口を開こうとすれば、楽しそうな星の笑顔が目に入る。


「楽しいね!」


何をもってそんなことを口にするのか。何も楽しい話などしていないのに。轟は小さく溜息をつき、何も言わずに表情を和らげる。もう少し、この我儘に振り回されても良いか、と。
少しだけ、出久と爆豪の気持ちが分かった気がした。


ーーーーー
きっとアイス買ったら両手塞がってる轟くんにあーんしてる。轟くん何も意識してないから普通に食べてほしい。

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