(出久と)常闇くんと神の裁きに抗う

「きた!!」
「きた……」
「神のイカズチ…」


ゴロゴロっと遠くで雷の音がすると、同じ言葉を全く逆のテンションで発した星と緑谷。小さく呟かれた常闇の言葉には誰も触れず、共有スペースにいた生徒たちは首を傾げる。


「近付いて来てるよね!」
「…そうだね」
「じゃあそろそろだね!」
「…そう、だね」
「行くよ出久!」
「やっぱり…」


突然テンションの上がった星とすでに疲れたような緑谷の会話は聞いていてもよく分からない。一体なんの話をしているのだろうと麗日と飯田は顔を見合わせた。


「で、でもさ、やっぱり危ないからやめた方が……」
「私のスピード舐めないでよね!」
「いや舐めてるわけじゃないけど…えっと、それにほら、雨も降ってるし…傘は邪魔だし…」
「レインコートがある!」
「そ、それも動き辛いんじゃないかな!?」
「私の個性が動き辛いとかそんなのに左右されるとでも?甘いよ出久!重かろうが水の中だろうが私にはそんなの関係ないんだから!」
「それは知ってるよ!けど万が一のことを考えると…」
「ふっふっふー!それなら心配ご無用!」


そう言って星はバッと何かを目の前に掲げた。それを見て緑谷の顔が引きつる。


「絶縁素材を使った特製レインコート!ヤオモモちゃんに作ってもらってるから!」
「八百万さん…」
「前に速見さんに作ってほしいと言われて…武器ではないので大丈夫と判断したのですが、いけませんでしたか?」
「いえ…いけなくないです…」


そうこうしている内に星はすでにレインコートを着ていた。そしてちゃっかり用意されていた緑谷用のレインコートを緑谷の頭から被せる。最早無駄な抵抗かと諦めたように溜息をついた。


「星ちゃんもデクくんもお出かけ?」
「こんな雨の中、どこへ行くつもりだ?」
「ん?ちょっとそこまでだよ」
「そこ?」
「うん!寮の前にいるだけだから!」


余計に訳が分からなくなり、上鳴は隣に座る爆豪の腕を突いた。


「なあ爆豪、速見は何がしたいんだ?」
「うるせぇ話しかけんなアホ面」
「……ひでぇ…」
「勝己も行く?」
「誰が行くかイカレ野郎」
「よーし!じゃあ2人で行こうか出久!」
「待って!?かっちゃんには聞くのに何で僕は強制参加なの!?」
「だって勝己は雨の中じゃ自慢の爆破も役に立たないから無理って言ってるし」
「おいコラ待てやクソアマ!!いつ誰がんなこと言ったよ!耳腐ってんじゃねぇかァ!?」
「行くよ出久!」
「待てっつってんだろ!!」
「耳腐ってるから聞こえませーん」


ブチっと何かが切れた音が聞こえ、今にも飛びかかりそうな爆豪を両側の切島と上鳴が止める。
そんなやり取りを知りながらも気にした様子はなく、星は楽しそうに緑谷の手を引いて行く。


「…それで、やっぱり僕に拒否権はないんだ…」
「出久だもん!」
「理不尽!!」
「それが運命か…」


いつものことながら星に都合の悪い言葉は届いていなかった。再び呟かれた常闇の言葉は緑谷にしか届くことはなく、そのまま激しく雨の降る外へ連行される。


「さてと、この辺でいいよね」


寮の前の拓けているところに立ち、屈伸運動をする。緑谷はそれを入口から見守った。


「ほら出久!そこにいたら意味ないよ!」
「いや僕やっぱり…」
「もう出久は個性あるんだし、そのスピードなら大丈夫!一緒にやろ!」
「…わ、分かったよ。でも待ってまだ心の準備が…」
「はいスタート!」
「聞いて!?」


星は緑谷の了承だけを聞くと、空に目掛けて小さな玉を投げた。星がまだ幼いときに拾った避雷針の役割を果たすものだ。それを見て緑谷は幼少の頃を思い出し、はぁっと深い溜息をつく。あのときは本当に死ぬかと思った、と。


「きた!」


その言葉の直後、星に向かって雷が落ち地面を抉る。星はギリギリの所でかわしていた。


「や、やっぱり見てても心臓に悪い…」
「なら参加してよ!」
「余計に心臓に悪いんだけど…!」
「そんなこと言ってないでさ!」
「わ、ちょ…!」


一瞬で目の前に来た星に、一瞬で屋根の下から連れ出される。マジか、と思う前にはもう雷が落ちていた。


「!!!」
「おお!出久凄い!前は私が手を引かないとダメだったのに1人で避けられたね!」
「いやいやいやこれむりむりむりむり!!」
「大丈夫だよ!避けられたじゃん!」


そして再び雷が落ちる。何とかお互いに避けたが、楽しそうに笑う星と違って緑谷は必死の形相だ。


「…デクくん、生きて帰ってこれるかな…」
「速見のやつ、たまにすげー拷問みたいなことするよな」


憐れむように麗日や上鳴たちが窓から見ているなど知る由もなく、2人は次々に落ちる雷を避けていた。訓練にはなるけれどスパルタすぎる。文句を言おうにも余計なことを考えればすぐに雷の餌食になってしまいそうで口を開くことすら出来ない。それに比べて星は楽しそうにぴょんぴょんと避けている。


「星これいつまでやるのさっきの、玉回収して!!」


いつ雷が落ちてくるか神経を張り巡らせながら緑谷は早口で星に訴えた。直後に落雷し、何とか避ける。


「んー、どこ行っちゃったかな?」
「星!?」


あの正体の分からない物体を回収しなければ晴れるまで雷は落ち続けるだろう。玉を探そうにも緑谷は他に気を散らしている余裕はない。回収出来るのは恐らく星だけで白目を剥く。


「あ、連続で来そう」
「!?も、もう無理!!」


疲労も重なり、さすがにもう無理だと死に物狂いで避けていた緑谷は屋根の下へと駆け込んだ。ここまでは雷も落ちてこないようで、ぜぇぜぇと息を乱して座り込む。その隣に1つの影が立った。


「神の裁きに抗うか」
「と、常闇くん…」


小さな呟きを聞き、緑谷は隣に立つ常闇を見上げた。常闇の視線は星に向いている。


「あー!出久何やってるの!避難しちゃったらもうアウトだよ!200回連続で雷避けないとアイテム貰えないんだから!」
「何の話!?」
「速見…お前まさか、刻印を…?」
「と、常闇くん…!それを知ってるってことは…!」


2人はそれだけ言うと、ガシッと手を組んだ。何やら分かり合っている様子だ。


「え、なに?何の話…?」


2人が何故意気投合したのかも話の内容も分からずに緑谷の頭にだけハテナが浮かぶ。けれど2人はすでに臨戦態勢だ。


「速見、確かにおまえは速いが、そう何度もこの雷撃に反応しきれるのか?」
「私のスピード舐めないでよ、常闇くん。私にかかれば雷避けるなんて余裕余裕!」
「ふっ、頼もしいな。ならば俺もその可能性を信じて全力で協力しよう」
「それは有り難いけど、常闇くんの方こそダークシャドウ大丈夫?雷の光は無理なんじゃない?」
「苦手だからといつまでも逃げているわけにはいかないだろう。いつかは乗り越えなければならない試練だ」
「常闇くんかっこいいね!うん!じゃあ3人で頑張ろう!」
「ああ」
「ねぇ待って僕がいる意味!?」


そんな緑谷の悲痛な叫びは雷の音にかき消され、妙に意気投合する2人に届くことはなかった。けれどその後も何度も何度も落雷するたびに響き渡る爆音に、寮にいる全生徒から強制的に止められる星と常闇なのであった。


end
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超ご都合主義です。避雷針の玉はきっと昔の発明好きな人が発明したものだと思う()
2人の会話はほとんどの人は分からないネタかもすみません。
常闇くんと神の怒りを鎮める予定だったけどただの宗教になりそうだったからちょっと違う感じで絡んでもらったらほぼ絡みがないという。失敗した。

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