勝己と電話と爆豪家と

ーープルルルルルル


爆豪宅に響き渡る無機質な音。それが聞こえていながらも、爆豪も星も動かず、2人ともヒーロー雑誌を読んでいる。


「……」
「……」


ーープルルルルルル


「……」
「……」


ーープルルルルルル



鳴り止まない音に星は視線を外さないまま小さく溜息をついた。


「勝己、電話」
「俺に用なら俺のスマホにかかってくんだろ」
「いや勝己んちの電話鳴ってるんだから出なよ」
「うるせぇ」


お互いに視線はずっと手元の記事に釘付けだ。鳴り続ける電話を不快に思いつつもそこで会話は終わり、再び機械音だけが響く。


ーープルルルルルル


「うるせぇ!!」
(電話にキレてる…)


そしてついに爆豪がキレた。パンっと雑誌を閉じ、電話に向かって怒鳴る。けれど怒鳴ったからといって電話が鳴り止むわけではない。鳴り続ける電話にひくひくと眉を動かす。


「おい星」
「んー?」
「出ろや」
「何で」
「お前のがちけぇだろ」
「私んちじゃないし」
「ハァ?当たり前だろ。俺んちだわ」
「え、何それムカつく」
「何がムカつくだクソアマ」


ーープルルルルルル


「うるっせぇ!!」
「うるっさい!!」
「なら出てよ!!」


一瞬バチっと散らした火花だが、意識は電話に持っていかれ、2人して電話に怒鳴る。そこでバタンと扉を開いて入ってきたのは緑谷だ。その手にはスマホを持っている。


「てめ何勝手に人んち入って来てんだクソナード」
「空いてたから…っていうかかっちゃんが電話に出ないからだろ…」
「あ、鳴らしてたの出久?」
「そうだよ…全然出てくれないけど家にいるとは聞いてたから」
「勝己のスマホにかければ良かったのに」
「もちろんかけたけど、電源切れてるみたいだよ」
「……」


無言で自身のスマホを確認した爆豪。覗き込む星。そしてあーあと声をあげた。


「充電切れてるね」
「…うるせぇ」
「これは勝己が悪い」
「うるせぇ!てめぇもさっきからしつこく鳴らし続けてんじゃねぇよ!!」
「えー…」


理不尽な物言いに呆れるしかない。


「それで、出久はこんなにしつこく鳴らすくらい勝己に用があったの?」
「しつこくって……」


まるで鳴らしていた自分が悪者みたいな言い方だが他意はないのだろうと小さく息をつき、かけていた電話を切った。けれど緑谷が電話を切った瞬間に再び電話が鳴り始める。


「爆豪家は大人気だね」
「だーっ!さっきからキンキンうるっせぇんだよ!」
「なら出ればいいじゃないか…」


そんなもっともな意見を尊重されることなく、爆豪は余計にムキになって電話に背を向けてしまった。意地でも出ないようだ。星と緑谷は顔を見合わせて息をつく。つくづく面倒臭い幼馴染だと。


ーーープルルルルル


「もう…」


鳴り続ける電話に再度溜息をつき、星は立ち上がった。そのまま電話へ向かって行ってようやく受話器を取る。


「はい、爆豪です」
((爆豪…))



爆豪の家なのだからそれは当然のことで。けれど星が爆豪と名乗ることに2人は意識せずにはいられなかった。心の中で声が重なったなど思いもしないだろう。


「あ、光己さん?はい、星です!」


相手が分かった途端に星の声が明るく跳ねる。何やら会話が弾んでいるようで、意識しない振りをしながらも耳はしっかりとその会話に向けられていた。


「今日の夕飯ですか?是非!ご馳走になります!」
「てめェ昨日も来ただろうが!」
「一昨日は僕の家だったよ……星ちゃんと家帰ってる?お母さん心配してない?」
「光己さんの作るものなら何でも好きなので!はい!またお手伝いさせて下さい!」
「あの野郎聞いてねェ…!」
「電話中だし仕方ないよね…」


にこにこと嬉しそうに受け答えする星は、幼馴染たちの両親から寄せられる好感が高い。昔からの付き合いのおかげもあり、まるで娘のように扱われている。


「はい!それじゃ1度家に帰ってからまた伺います!はい!楽しみにしてますね!それじゃあまた」


星は静かに受話器を置いたあと、とてもいい笑顔で2人を振り返った。


「そういうわけでご馳走になります!」
「どういうわけだコラ」
「出久はどうする?」
「いや僕は誘われてないから」
「光己さんなら気にしないと思うよ?」
「おいクソナード…来たらぶっ殺す」


あまりに理不尽な会話に最早返す言葉もない。ただ巻き込まれるだけで終わるのはいつものことだ。


「あ、それじゃ私持ってくるものあるから1回帰るね!また後でくるからよろしく!」
「だから来んじゃねェよ」
「また後でね勝己!出久はまた明日!じゃあねー!」


いつものごとく人の話を聞かず、手ぶらで来ていた星はそれだけを言い残すと呼び止める間も無く凄まじいスピードで爆豪家を出て行ってしまった。残された緑谷と爆豪の間には微妙な空気が流れる。


「相変わらず何でも急というか勝手というか…」
「ただの自己チュー女だろ」
「はは…」


それはお互い様と言いたい言葉を飲み込み、乾いた笑いを漏らした。爆豪が落ち着いているうちにと用事を済ませ、八つ当たりされる前にそそくさと退散する。
それから数十分後、見るからに嬉しそうな光己が帰ってきた。ただいまーと聞こえたあと、その足は真っ直ぐに爆豪の元へと向かう。


「勝己ー!」
「んだババア近寄んな!」
「ちょっと勝己!アンタもやるわね!」
「は?何言ってんだ」
「電話よ電話!星ちゃんが爆豪ですって出たとき興奮しちゃった!どーする勝己!星ちゃんが爆豪です、だって!ねえねえ!」
「うっせぇわクソババア!!」
「爆豪星……うん、良いんじゃない?アンタ頑張りなさいよ!あんな良い子なかなかいないんだから!誰かに取られる前にさっさと告…」
「だからうるっせええええ!!!」


まるで照れ隠しのように暴れる爆豪とそれを気にも止めずに将来を語る母親。そして微笑ましく見守る父親。今日も賑やかな爆豪家にその話題の張本人がやってくるまでもう少し。


end
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前にお相手が自分の名字を名乗る的なのが流行ってたときの書きかけが見つかったので仕上げてみた。
なんか星ちゃんは親から人気高そう。
でも最後の方もう何が書きたいのか分かんなかった。

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