お祭りバトル

「…はぁ…それじゃ行くよ。よーい、スタート」


緑谷のやる気のないその掛け声と共に、袖を捲った星と爆豪は同時に動き出した。
バシャバシャと激しく、けれど繊細な動きでどんどん金魚を掬っていく。ポイはまるで破れる気配がない。


「3…2…1…」
「これで!!」
「終わりだ!!」
「0。はいストーップ」


最後の金魚を掬ってタイムアップ。2人のお椀の中には大量の金魚が入っている。そして、水槽の中に金魚はいない。2人に全ての金魚を掬われ、店主はあわあわと開いた口が塞がらない。


「出久!早く数えて!」
「また僕…」
「いいから早くしろや!クソナード!」
「もう…分かったよ…」


はぁっと呆れたように溜息をつきながら、2人が掬った金魚を数え始めた。大人からも子供からも注目を集めているせいでとてもやりにくい。けれどこれも毎年のことだと諦めたように続け、最後の金魚を数え終えた。


「っと、これで最後……2人とも同じ数だね」
「ハァ!?」
「なんで!」
「いや僕に言われても…」


数えただけなのだから文句を言われても困る。すると2人の標的は店主に変わった。


「おいクソオヤジ!!んで金魚が偶数なんだァ!?ちゃんと奇数にしとけや!!」
「ヒィ!」
「これじゃ勝負つかないじゃん!偶数なら偶数ってちゃんと言っといてよおじさん!」
「あ、す、すみません…?」


勝負が引き分けになり不完全燃焼な2人の気持ちは治らない。


「勝己!金魚すくいはノーカン!次はあれにしよう!」
「射的か。いいぜ次こそぶっ潰してやらぁ…!」
「店は潰さないようにね」


緑谷の言葉は聞こえていないだろう。2人は凄い勢いで射的の店へ向かった。そして同時にお金を出す。


「「射的一回!!」」


その言葉に店主はにやりと笑い、お金を受け取った。銃と弾を渡され、2人は慣れたように構える。


「それで勝敗は?大物獲った方?数多かった方?」
「大物獲った方に決まってんだろ」
「OK。じゃあ狙いは……あれだ!」



狙いを定めて大きなぬいぐるみを撃った。けれど弾は弾かれてぬいぐるみはびくともしない。


「嘘!」
「けっ、ダセェな。俺の勝ちだわ」


そう言って爆豪も大きなぬいぐるみを撃った。けれどそれはやはり弾かれてしまう。


「ハァ!?んで倒れねぇんだクソが!!」
「人にダサいとか言ったくせに」
「うるっせぇ!!次は落としてやんから黙って見てろや!」
「いーやーだ!私が落とすから邪魔しないでよ!」


同時に構えて同時に撃つ。狙い目である端に当たっても、大きなぬいぐるみは倒れることはなかった。爆豪と星は眉をしかめる。緑谷も何かに気付いたのか、顎に手を当てて思案し始めた。


「あー、残念だったねー?残りの弾数で倒せるかな?きっともう少しだから頑張ってね!」
「……」


にやにやとした店主の表情。倒れない商品。3人はイカサマだと察し、大きな溜息をついた。


「祭りでくだんねぇことやってんじゃねぇよ」
「お祭りは楽しむためのものなのに、何でこんなことするかなー」
「手馴れてるし、きっと初めてじゃないね」
「クソだな」
「それは同意」
「僕も」


3人はじとっと店主を見据える。けれど何でもないように店主は笑っていた。


「いやだなぁ。 イカサマなんかじゃないよ。そんな証拠どこにもないだろう?」
「……へえ」


爆豪はぴくりと眉を動かした。星は準備運動をするように軽くストレッチをする。


「出久、引き金固くて引くの疲れたから交代しよ!」
「うん、いいよ。残りの弾数は僕がやる」
「外すんじゃねぇぞクソナード」
「かっちゃんもね」
「ハァ?誰にもの言ってやがんだ」
「ほらほら2人とも!端がダメなら、ど真ん中に同時に当てれば意外といけるかもよ!」


店主はにやにやとしたまま。緑谷と爆豪は銃を構えた。


「星」
「分かってるよ」
「しくじんなよ」
「誰に言ってるの!」


銃を構えているのは2人なのに、星に合図をする。アイコンタクトもなしに頷き合った。そして。


「「「行け!!」」」


3人の声が重なり、緑谷と爆豪が同時に引き金を引いた。2つの弾は真っ直ぐにぬいぐるみのど真ん中に向かって飛んで行く。
残念!っとにやにやした口を開こうとした店主だが、ドガーンっと派手に壁が壊れた。驚いて振り向くと、緑谷たちが狙ったぬいぐるみが倒れている。更には他の景品まで。ぱちぱちと瞬いてそれを見つめた。


「っと、」


ずさっと砂煙を上げた星は浴衣をはたき、にやりと口角を上げた。爆豪も同じように口角を上げ、緑谷も満足そうだ。


「さっすが出久と勝己!」
「余裕だわ」
「まさか全部の景品と壁までとは思わなかったけど…」
「え………な、んで…?」
「何でって、おかしな話だよねー」
「!い、いや…!」
「いいからさっさと全部寄越して失せろや」
((一気に悪役…))


爆豪の言葉に緑谷と星は顔を見合わせて笑った。


◇◆◇


「それで、タネは何か分かった?」


射的の景品を3人で山分けして持ちながら歩き、緑谷は大きなぬいぐるみを抱える星に問いかけた。


「うん、単純だったよ。たぶんお店の人の個性で固定されてただけだったから」
「そっか。でも星のお陰でそれも無駄になったね」
「ふっふー、凄い?」
「調子乗んな」
「そんなこと言ってー、勝己も私の姿は目で追えなかったんじゃない?」
「……」
「図星!図星だ!」
「うるせぇ!!見えたわ!!」
「嘘だね!私の最速が見えるわけないじゃん!」


射的の弾が当たっても倒れない景品。何か仕掛けがあり、イカサマだと見抜いた3人は無理矢理に倒すことにした。星の個性で。


「本当に見えなかったよ。いつもは辛うじて見えたり、残像だけは見えたりするけど、今回は何も見えなかった」
「本気出したからね!」
「ケッ、あれが本気かよ」
「見えなかったくせにね!」
「見えたっつってんだろうが!!」


バチバチと火花を散らして睨み合うのは今日何度目だろうかと緑谷は溜息をつく。3人で息を合わせて射的を攻略したというのに。


「星、足は大丈夫?」
「な、何が?」
「何がじゃないよ。本気出すと負担が大きいから普段は抑えてるんだろ?だから大丈夫なのかと思って」
「大丈夫だよ!それより!勝己との勝負がまだついてない!」
「……」


2人から無言で見つめられ、星は苦笑した。さすが幼馴染と思わずにはいられない。けれど、痛む足のせいで切り上げて解散などもったいないと気を取り直して笑顔を浮かべる。


「何?勝己は私に負けるのが怖いの?」
「ハァ!?」
「出久も入れて3人で勝負しよう!私が1番になる!」
「いや僕はいいよ…」
「ざっけんな!!1番になんのは俺だ!!てめェらまとめてぶっ潰してやらぁ!!」
「いやだから僕は…」
「言ったね!じゃあ次はあれで勝負!」
「上等だわ!後で吠え面かきやがれ!!」
「ちょ、2人とも……」


緑谷の言葉も聞かずに2人は次の勝負をしようと屋台に向かっていく。この調子では本当に全ての屋台を潰して周りそうだと乾いた笑いを漏らした。


「…なんか…夏だなぁ…」


毎年恒例になっている夏祭りに繰り広げられるバトル。それを見て夏が来たとしみじみと思う。


「おいクソデク!早くしろや!!」
「出久!正々堂々勝負!」
「…はいはい、今行くよ!」


そして我儘で強引な2人に振り回されるのも、いつものことだと緑谷は口角を上げながら駆け寄った。


end
ーーーーー
いっつも出久とかっちゃん仲良しすぎだよなって思うからもっと険悪にしなきゃって思うんだけど理想詰め込みすぎてる…
射的のとこ描写難しすぎて?とりあえず夢主が文字通り目にも止まらぬ速さで直に景品倒したって話です。分かりづらい!

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