ヤオモモちゃんに武器を作ってもらう

「ねぇねぇヤオモモちゃん!私にも武器作って?」


星のその一言に、クラス中の視線がバッと焦ったように星に向けられた。


「え、えっと…すみません速見さん。それは緑谷さんから止められているので出来ませんわ」
「出久に?何で?」
「何でじゃねぇよ!緑谷じゃなくたって止めるぞ普通!」


上鳴の言葉にA組は全力で頷く。ここに幼馴染2人がいないせいもあり、ツッコミを入れずにはいられなかった。


「1番簡単に攻撃力upするのはやっぱり武器じゃん?耳郎ちゃんが使ってたの見たことあるけど、日本刀とか良いよね!かっこいいし強い!」
「おまえは危険だから武器持つな!日本刀なんて以ての外だっつの!」
「上鳴くんの個性は攻撃力高いからそういうこと言えるんだよ!お茶子ちゃんとか私みたいなか弱い女子にはやっぱり武器が必要だよ!ね!」


同意を求めるように麗日に問いかければ、麗日はぶんぶんと両手を前で振った。


「わ、私はか弱くないし!それに星ちゃんも武器はやめた方がいいんじゃないかな…!」
「ああ…速見が日本刀なんか手にしたら辺りが血の海になるぜ…」
「ならないよ!バトルマニアの殺戮マシーンじゃないんだから!何でみんなそんなに否定的なの!」
「おまえこの前の体育の授業忘れたとは言わせねぇぞ!?」


みんなに否定されてムッとした星に、上鳴はすかさず突っ込む。星はきょとんと上鳴を見つめた。


「この前の体育…?野球やったよね!」


よく覚えている。A組とB組の混合チームで2つに分かれて行った紅白戦は楽しかったと笑みを浮かべた。そのときに何か言われるようなことは特にはしていないはずだ。盗塁のときに止まり切れず、上鳴の鳩尾にタックルをかましたこと以外は。


「その野球で!ここにいる全員が速見には武器は持たせちゃいけねぇって実感したんだよ!」
「…何で?」
「バットをホームランさせるやつに武器なんか危なっかしくて持たせられるか!!」


先日の体育の授業で行われた野球。その際に星は、爆豪の豪速球を華麗なフォームでスイングし、ボールとバットをホームランさせた。


「ちゃんとボールもだよ!」
「そこはどうでも良いんだよ!問題は飛んでったバットの方だっつの!」
「峰田くんが見事にキャッチしてたね!」
「顔面でな!!」


あのときの一瞬の出来事はクラス全員の目に焼き付いた。星の手からすっぽ抜けたバットが、守備をしていた峰田の顔面に直撃した悲劇を。


「……あ。あのときはごめんね峰田くん!」
「ひぃ!?」


思い出して勢いよく振り向いた星に、峰田が小さく悲鳴を上げた。あの事件は余程の恐怖だったらしい。星は謝りながら苦笑する。


「でもさ、あれはたまたま手が滑っちゃっただけだから別に武器とは関係なくないかな?」
「全打席でたまたま手が滑ったが通用すると思うなよ!?」


峰田が退場した後も、星の順番が回ってくる度に被害者が増えていったのを忘れることはない。全力でフルスイングする度にすっぽ抜けたバットは、狙ったように相手チームを襲っていたのだから。


「あれを普通な顔して避けてた爆豪も、冷静に試合進めてく緑谷もやばかったけどな…」
「慣れ…というものですわね」
「慣れちゃいけねぇやつだろ…」
「あんときの星ちゃんはホンマ怖かったわ…」
「ホントだよ!私も梅雨ちゃんもいつ狙われるかヒヤヒヤしてたんだからね!」
「狙ってないよ!」
「余計にタチ悪ぃわ!!」


確実に1人1人仕留めていく星の順番が回ってくると、ベンチにいる生徒は身を隠し、守備をしている生徒は全神経を集中させてバットを警戒し、鉄哲や切島を盾にするものまでいたほどだ。
楽しかった以外を思い出してきたのか、星は乾いた笑いをもらす。爆豪との一騎打ちのような勝負を楽しんでいた記憶だけしかなかったが、よく思い出すと確かに色々なことがあった。


「で、でもやっぱり武器とバットは関係ないよ!日本刀ならスイングしないし!」
「ダーツのように敵の脳天に日本刀投げそうよね」
「梅雨ちゃん怖いこと言わないでー!」
「うわ…有り得そう…」
「いや有り得ないよ!?」


本気で怖がる葉隠と、呆れたような耳郎に抗議するも、その言葉を信じる者は誰もいなかった。


「そういうわけですの。なので速見さんに武器を創造して差し上げることは出来ませんわ」
「じゃあ今度こっそり作って?」
「こっそり…ですか?あ!秘密の特訓ですわね!そういうことならご協力いたしますわ!」
「さっすがヤオモモちゃん!じゃあ攻撃力高そうなのお願いね!」
「はい!」
「ヤオモモ駄目だって!」
「星ちゃんも武器は諦めて!?」
「大丈夫だよ!」
「おい誰か緑谷呼んでこい!!速見止めねぇと死人が出るぞ!!」
「出ないってば!」


結局、緑谷からの武器使用禁止令だけでなく、クラス中からも武器使用禁止令を出され、八百万に武器を作ってもらうという計画は失敗に終わったのだった。


end
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バット被害者は峰田、砂藤、物間、円場辺り。鳩尾タックル被害者は上鳴、瀬呂、鉄哲辺り。運動神経悪くないしむしろ良いけど危険。
爆豪くん普通にバット避けて続けるし、出久は被害者出ても搬送と進行がスムーズ。幼馴染の慣れ。

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