ヒーロー基礎学:鬼ごっこ@

「今日の授業は"鬼ごっこ"だ!」


説明前に演習場に集められ、そこで告げられたオールマイトの言葉に、星はガッツポーズをした。


「いっえーーい!!私の独壇場!」


きゃっきゃっと喜ぶ星に他のA組はげんなりしている。まさに星の言う通りなのだから。だがすかさず飯田が食ってかかった。


「君の独壇場だなんて心外だな、速見くん。鬼ごっことはつまり持久戦!確かに君の個性が瞬発的に速いのは認めるが、短期決戦型の君よりも俺の個性の方に利があるというものだ!」
「いやいや飯田くん、鬼ごっこは捕まらないことが大前提だよ?なら持久力よりも一瞬で逃げ切る瞬発力が物を言うと思うんだよね!」
「いいや持久力と速さだ!」
「瞬発力と速さだよ!」


速さを売りにする個性持ちの2人はどちらも譲れない。お互いのことだけをライバル視している。


「おいてめェらだけで盛り上がってんじゃねぇぞザコ共。逃げるやつ追いかけて取っ捕まえてぶっ潰すなんて最高じゃねぇか…!」
「ぶっ潰す前提なのか!?鬼ごっこだぞ!」
「うるせぇ!!捕まえりゃなんでも良いだろが!そうだろオールマイト!」


爆豪の言葉に全員の視線がオールマイトへと向く。


「確かに捕まえることが前提だが、もちろんただの鬼ごっこじゃないぞ!」
「…やっぱり…」
「今回の設定は追い詰めたヴィランが逃げ出し、それを捕らえるために追いかけるヒーローだ!またヒーローチームとヴィランチームに分かれてもらうよ!制限時間内に敵チームを全員捕らえるか、行動不能にすればヒーローチームの勝利。1人でも逃げ切ればヴィランチームの勝利だ」


確保証明は対人戦闘訓練のときに使ったテープだと、オールマイトはそれを取り出す。


「もちろん両チームとも攻撃して構わない!全力で逃げて全力で捕まえてくれよ!」
「はーい!」
「先生!チーム分けはまたくじでしょうか!」
「いーや。今回は私が勝手に決めさせてもらったよ」


その言葉に全員が息を飲む。自分はヒーローチームか、ヴィランチームか、誰とチームか。どんな状況でも的確な判断と行動をしなければいけないこの授業はいつも緊張感が伴う。ギラギラと目を光らせる例外を除いて。


「速見少女、飯田少年!君たち2人がヴィランチーム!残りの19人がヒーローチームだ!」
「「え」」


名指しされた星と飯田は固まり、他の生徒もぽかんとオールマイトを見つめる。理解するのに時間がかかった。


「相性が悪い個性のヴィランにも我々は妥協するわけにはいかない。だからその個性のハンデをひっくり返す連携が大切だ!2人1組とは一味も二味も違うぞ!」
「そ、それにしたって2vs19では流石に我々が不利なのでは…!?」


不公平だと食ってかかる飯田の隣で、星はふむっと思案する。頭の中でA組全員の姿が思い浮かべた。そして笑顔を浮かべる。


「…19人の強者から逃げ切る鬼ごっこ…うん、良いね!凄く滾ってきた!」
「良いぞ速見少女!その意気だ!」
「本気か速見くん!」
「ぐだぐだ言っても仕方ないし!逃げ切れば良いんだよ、飯田くん!誰が相手でも私は捕まるつもりなんてないし」


そして挑発的に爆豪に視線を向けた。


「誰が相手でも、ね」
「…上等だコラ…!!取っ捕まえてぶっ潰してやんよ…!」


いつも2人がやっている鬼ごっことは少し違う。個性をフル活用した攻撃有りの鬼ごっこ。爆豪と星はばちばちと火花を散らした。お互いに負けるつもりはない。


「説明は…うん、これで全部だな!とにかくヒーローチームはみんなで協力して、スピード特化のヴィランチームを捕まえれば良い!そういうことではいスタート!」
「え?」


カンペを読み終わったオールマイトの言葉に、クラス全員の声が重なった。その後沈黙する。だがその沈黙の中で、同時に動いたのは星と爆豪だ。爆豪は1番近くにいた飯田に向かって右腕を大きく振りかぶる。その攻撃が繰り出される前に星は飯田の腕を掴んで跳んだ。しかしその直後、跳んだその足を爆豪が即座に掴む。


「っ、ウソでしょ…」
「ハッ!てめェの行動パターンなんざ丸分かりなんだよ」


にやりと悪人のように笑った爆豪に、どちらがヴィラン役か分からないとオールマイトは心の中で笑う。


「てめェなら見捨てるなんて出来ねぇとかくだらねぇ理由で助けに入ると思ったぜ単細胞。だがそのせいでてめェの大好きな鬼ごっこはここで終わりだ」
「…ただの鬼ごっこじゃないんだから、掴んだだけじゃ捕まったことにはならないよ!」


飯田を軸に掴まれていない方の足で爆豪に蹴りを繰り出すが、簡単に塞がれてしまう。


「ほんっと…どういう反射神経してるのかな…っ」
「てめェの行動なんざ読めてるっつてんだろが。開始早々くたばれや!」
「っ!!」


掴まれた足を爆破された。激痛に顔を歪めながらも爆豪の腕に向かって足を振り下ろして攻撃し、拘束を解く。そしてすぐに爆豪を踏み台に、飯田を連れて遠くへ跳んだ。


「くっそが…!!」


踏み台にされ蹴り飛ばされた爆豪は態勢を整えながら悪態を吐く。
その一瞬の攻防に、ヒーローチームはぽかんと見ていることしか出来なかった。動けないヒーローチームに向かってオールマイトは手を叩く。


「ほらほら!逃げるヴィランを相手に作戦を立てている時間はないぞ!」
「え!?マジでスタートしてたのかよ!?」
「え、やば!星たちもう見えなくなっちゃったよ!?」
「油断していましたわ…!まさかこんないきなり始まってしまうなんて…!」
「オイラのもぎもぎくっつけちまえば動けない速見にあんなことやこんなこと出来たってのに…!」
「峰田くん星に何する気!?捕まえるだけだよ!?」
「その捕まえることが最大の難関ね。星ちゃんと飯田ちゃんが相手じゃなかなかに強敵だわ」
「ごちゃごちゃうるせぇ!!」


爆豪は両手を合わせて爆破する。星に蹴り解かれた腕は僅かに赤くなっているが、大したダメージではなさそうで。爆豪は不敵に笑う。


「あいつの足は封じた。速くなけりゃ敵じゃねぇよ。待ってろや星…!」


やはりどちらがヴィラン役か分からないほどの凶悪な笑みを浮かべ、爆豪は1人飛び出した。他のA組もそれぞれ続く。爆豪との連携は期待出来ないが、残りの18人で協力すればあの2人を捕まえられると意気込んで。

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