岩井とぺご主の先輩

装備や薬の調達は蓮に任せっきりだった。ふとそのことに気付いた陸は、一体どこであんな武器や防具、危ない薬を買ってくるのか気になってしまい、ついて行くことにした。
ただの気まぐれで、興味本意で。それがまさか、こんな出会いをするなんて夢にも見ていなかった。


「……」
「…お前か。何だ、今日は猫だけじゃなく女連れかよ」


渋く低い声が鼓膜を揺らす。
陸はその場から動けなくなった。


「今日は買い取って欲しいものがあって」
「また妙なモン売りつけに来やがったのか。ったく、いいぜ。見せてみろ」


厳つい顔付きが僅かに和らぎ、ふっと笑うその姿に心臓がばくばくと激しく鼓動し始める。蓮が売るものを出そうとカウンターへ近付くと、それを押し退けるように陸が横から割り込んだ。前のめりになってカウンター越しに店の男を見つめる。けれど男は陸に見向きもせずに手元の銃の手入れをしていた。


「わ、わた、私!陸って言います!蓮の先輩です!」
「…おう。俺は岩井だ。こいつの連れってことは、お前も銃に興味があるのか?」
「はい!興味があるのでこれからも通って良いですか!」


銃ではなく、貴方に。表情がそう物語っていた。
完全に一目惚れだろう。いつもより女の顔をしている陸に、蓮はこっそりモルガナと顔を見合わせた。


「…あの薄っすら染まった頬…まさか陸のやつ、イワイに惚れたのか…?」
「そうみたいだな」
「子持ちだぞ!?」
「好きになるのにそんなの関係ないだろ」
「後から知って傷付くのは陸の方だぞ!」
「陸なら大丈夫」
「いやお前が陸を信頼してるのは良いことだが……つーかアイツのどこに一目惚れする要素があんだよ!普通はイワイの第一印象とか怖い!ってなるだろ!」
「そうか?」
「…言っとくが、お前基準は普通じゃないからな」
「え」
「えじゃねぇよ!何でそんな驚いた顔してんだ!」


きょとんとする蓮に、モルガナは鞄の中で深い溜息をついた。その間も陸たちの会話は進んでいく。


「じゃあ、また来ても良いですか…?」
「迷惑な客じゃなきゃ追い払う理由はねぇよ」
「あ、ありがとうございます!」


噛み合っているのかよく分からない会話だったが、陸が満足そうなので良しとしよう。そう1人納得し、蓮は持ち込んだ戦利品を岩井の前に広げた。少しでも金になるように。


「また妙なモン持って来やがって…」


そう言いながらも岩井は1つ1つ吟味していく。その真剣な眼差しに、陸の表情はだらしなくなる。ふわふわとした雰囲気が漂い、モルガナはげんなりと陸を見つめた。


「…重症だぞ」
「そうだな。陸が嬉しそうで連れてきた甲斐があったよ」
「お前な…」
「ん?」
「…ワガハイ1人でコイツらのツッコミは酷だぞ…」


仲間の有り難さを改めて思い知らされたモルガナは、再びはぁぁぁっと深い溜息をつく。

そこへ、バンっと勢いよく店の扉が開いた。
全員の視線が一斉にそちらに向く。


「今度こそ証拠を抑えに来たぞ」


入ってきたのはスーツを着た男2人だ。すっと見せた手帳は警察のもので。蓮と陸は僅かに身体を固くした。


「…何のことだ?」
「先ほどこの店を出てきた男に話を聞いた」
「……」
「その手に持っているものを渡してもらおうか」


警察はカウンター越しには見えないはずの岩井の持つ銃を指した。まだ確証はないのだろう。けれどこのままではまずい。蓮と陸はちらりとアイコンタクトをした。


「これって営業妨害じゃないですか?」
「…何だ君は」


陸は警察に近付き、岩井との壁になるように立ちはだかった。同じように蓮もそっと後ろに下がって壁を作る。


「私最近銃に興味を持って、それで初めてここに来て、サバイバルゲームに向いてるものとかの説明を色々受けようとしてたのに、貴方たちのせいで岩井さんの気が変わっちゃったらどう責任取ってくれるんですか?」
「そんなこと私たちには関係な…」
「警察は市民のことを関係ないやつと思ってるんですか?だから信用出来ないんですよ!前に私がストーカー被害訴えたときだって全然相手にしてくれないし!市民の声も聞かずちゃんと仕事しないで営業妨害とか何考えてるの!?」
「そ、それは…」


陸の迫力に2人の警察が怯む。その隙に蓮は肩に掛けていた鞄を岩井に傾け、ちらりとアイコンタクトした。すぐにそれを察した岩井はさっと手元の銃を鞄に入れる。「に゛ゃっ」と何かが潰れた音が聞こえたのは気のせいだ。


「大体警察は…」
「お嬢ちゃん、その辺にしといてやれ」


カウンターから出てきた岩井の手には何もなくて。警察は動揺する。


「それで?手に持っている物がなんだって?」


にやりとした岩井に警察はぐっと顔をしかめた。強く握った手を解き、短い溜息をつく。


「…必ず尻尾を掴んでやるからな」
「営業妨害はやめて下さいよ」


余裕な岩井を尻目に2人の警察は渋々と店を出て行った。陸と蓮は安堵したように大きく息を吐き出す。


「け、警察は苦手…緊張した…!」
「俺だと前科のせいで話聞いてもらえなかっただろうし、助かったよ陸」
「警察はすぐに蓮を前科者扱いするから嫌いだし、別に良いよ」


それでも自分も一応怪盗団の一員なのだ。警察は怖い。再び大きく息を吐き出した。


「ただのガキだと思っていたが、なかなか度胸のある女じゃねぇか」
「え…?」


そこへ不敵な笑みを浮かべた岩井が近付く。
カウンター越しではない近さに陸の頬がうっすらと赤く染まった。


「度胸のある女は嫌いじゃねぇ」
「…!!」
「興味あるならいつでも来い」


厳ついけれど、今日1番の柔らかい表情で、岩井は陸の頭をぽんっと撫でた。陸は大きく目を見開く。どっどっと心臓がうるさいくらいに早く鳴り出し、岩井から目を離せなくなった。


「どうした?もう来ねぇのか?」
「…!き、来ます!また来ます!来させて下さい!」
「おう。お前に合うの用意して待っててやるよ」
「は、はい…!」
「値段は要相談だな」
「!」


岩井はにやりと蓮に視線を向けた。言わんとすることは分かる。それに、岩井が用意するものはどれも良いものだ。値段が張るのは仕方がない。仕方がないけれど。
また、メメントスに潜る必要になりそうだと、嬉しそうな陸を見つめ、蓮は微笑みながら溜息をついた。
次にここへ来るときも、陸を一緒に連れてこようと心に決めて。


end

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岩井さんの夢はここら辺までが限度かな…ガッツリ恋愛は書けない…でも個人的に岩井さんとはこういう距離感のが好きだ…!


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