ぺご主と明智の同級生

「はい、陸さん。これお返し」


ルブランでコーヒーを飲んでいると、目の前に色とりどりのマカロンを差し出された。


「あれ?蓮くん買ったの?蓮くんなら何か作ってくれると思ったのに」
「一応これ、作ったやつなんだけど」
「マジか」
「どこかの不器用とは大違いで流石だね」
「うっさい」


2つ離れたカウンター席で優雅にコーヒーを飲む明智に吠え、再び蓮のお返しに視線を落とした。超魔術と呼べるほど器用な蓮の作ったお菓子はまるでお店で買ったような出来のものだ。しかもラッピングまで凝っている。これも全て手作りなのだと思うと尊敬せずにはいられなかった。


「蓮くん凄い子だとは思ってたけど、まさかここまでとは…」
「味も保証するよ」


片目を瞑って微笑むキザな仕草すら様になってしまう。


「市販のあげたのが申し訳なくなるね」
「別に気にしてない。陸さんがそういう人だって分かってるし、気持ちは込もってたから」
「へー?気持ち、ね」


先ほどからずっと2人の会話を聞いていた明智は意味あり気に笑う。


「何だ」
「君のは随分と気持ちが込もっているみたいだね」
「当たり前だろ。精一杯の愛を込めたからな」
「クサイ台詞もどこかの探偵と違って最高に似合うね」
「ははっ、どこの探偵だろうね」
「さあ?探偵王子とかダサい呼ばれ方してる人じゃない?」
「君、そんなこと言ってて良いのかな?」


横目で静かに火花を散らす2人に、お客も惣治郎もいなくて良かったと小さく息をついた。ただの同級生と言っているが、それにしては親し気である。


「何さ」
「君が蓮くんにあげたチョコのことだよ」
「…!あ、明智くん!それは約束が違う!」
「何のことかな」
「性格悪っ」
「素直な性格だから捻くれた人にはそう思われるのかもしれないね」
「うざっ」
「あのね蓮くん、実はこの子が君にあげたチョコ…」
「わあああああ!!」


慌ててガタっと立ち上がった。いつも落ち着いている陸の珍しい行動に蓮はきょとんとする。


「陸さんが俺にあげたチョコが、何だ?」
「な、何でもないんだよ!気にしないで!」
「気になる」
「だよね?」
「明智くんは黙っててくれるかな!」
「陸さんは俺に隠し事するのか?」
「ぅ…」


悲し気に見つめられ、言葉に詰まる。自分の魅力を最大限に分かってやっている。そう思っていても騙されてしまうのが惚れた弱味というやつで。


「隠し事、しないよな?」
「……」


有無を言わせぬ問いかけに必死に思考を巡らせる。そんな陸を嘲笑うかのように、明智はにこりと言葉を続けた。


「実はさ、彼女が君にあげたチョコと、僕にくれたチョコ、同じ物なんだよね」
「………は?」
「あーけーちーくーんーーー!!」


慌てて制してももう遅い。台詞は全て蓮の耳に届いてしまった。
爽やかな笑顔を浮かべる明智と、額を押さえる陸、そしてぽかんと2人を見つめる蓮。ルブランに静寂が訪れた。


「………陸さん、どういうこと?」


その静寂を壊すように最初に口を開いたのは蓮だ。じっと、鋭い視線で陸を見つめる。その視線を受けて陸はそっと逸らした。


「あー…えっと…」
「俺と明智のチョコ、同じなのか?」
「えー、と、その、物は同じかと言われればそれはまあ同じなんだけど、あ、でもあれだよ!込もってる気持ちが違うからね!そこは全然違うから!」
「……」
「……」


2人分の冷たい視線が突き刺さった。


「俺は陸さんだけに特別に作ったのに、陸さんにとって俺はその他大勢と一緒なんだな」
「その他大勢って僕のことかな?」
「だから違うんだよ蓮くん!私が好きなのは君だけだからね!」
「じゃあ何で明智と一緒なんだ?」
「それは、その、色々と出費が重なって、お、お金がなくて……でもバレンタインに蓮くんに何もあげないのは流石にマズイと思って…それで2個セットのチョコが安く売ってたから…それにしちゃいました…」


恥ずかしそうにカウンターに突っ伏す陸。照れているのはレアだが、何に恥ずかしがっているのか分からない。


「私は蓮くんより歳上なのにお金ないとかかっこ悪すぎる…」
「陸さんは女の子だから良いんだよ」


女の子っ、と半笑いの明智の声はスルーすることにした。


「しかもそのお金ない理由が、またね」
「明智くん黙って!」
「陸さん」


一言だけ。ただ名前を呼ばれただけなのに、答えずにはいられないプレッシャーだった。陸は仕方なく口を開く。


「…いや、好感度上げようかと君の友達から色々リサーチして、君の好きなものとか好きなことにお金使ってたんだよね」
「は?」


予想外の言葉にぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「蓮くんって多趣味でしょ?バッティングセンターに1日中篭ってたり古いテレビゲームしてたりコソコソ何か作ってたり怪しげな所でバイトしてたりジャンル問わず映画見たり本読んだり、料理も運動も勉強も完璧だからさ」


だから、釣り合うように全部経験してみた。
そう続いた台詞に蓮は言葉を失う。本当に自分のことをそこまで調べたのかと驚きだが、それよりも嬉しい言葉のせいで全て吹き飛んだ。


「…私はさ、君が思ってる以上に君に惚れてるんだよ」


視線を逸らし、僅かに頬を染めて紡いだ言葉。思わずカウンター越しに抱きしめていた。


「わ、ちょ、蓮くん…!?」
「陸さん、好き」
「っ」
「いや、好きじゃ足りない。愛してる」
「い、いきなりどうしちゃったの」
「陸さんこそいきなりデレてどうしたの」
「…どこかのキザな探偵にそそのかされたから、かな」
「え?」


一旦離れて明智に視線を向けると、にこにこと手を振られた。顰めそうになる表情を抑え、蓮は首を傾げる。


「蓮くんはいつも私に合わせてくれるでしょ?でも探偵がさ、たまには自分から合わせようとしないと、モテモテの君は離れていくって言うから」
「…それで、お金なくなるまで俺の軌跡辿ったのか?」
「…まあ」
「陸さん意外と計画性ないんだな」
「君のことになるとね」
「それは嬉しい」
「だから一応お礼にってバレンタインのとき、彼にも渡したんだけどね」


こんなことなら渡さなければ良かったと、元凶の探偵をじとっと睨んだ。そこでやっと明智が言っていた、バレンタインに同じ物っという内容に繋がった。陸の気持ちは自分に向いてるままだったことに安心する。


「愛は込もってるっていうのは本当だったのか。良かった…」
「それは私を信じてなかったのかな?」
「隠そうとする陸さんが悪い」
「…ご、ごもっとも」
「それに、」


言いながらカウンターの中から外に出てきた蓮は、陸の腕を掴んで4人席の長椅子へと押し倒した。突然のことに陸も明智もぽかんと固まる。


「俺と明智に同じ物をあげてたって事実は変わらない」
「う、ん?えっと、それと今の状況に一体何の関係が…?」


にこりと、とても良い笑みを返された。
完璧と言えるほどの笑みなのに、何故か冷や汗をかく。


「バレンタインデーに貰った物と、ホワイトデーに返した物。明らかに割りに合わないよな」
「いやいやいやそんなこと考えたらダメだよ」
「俺は精一杯の愛情を込めて陸さんことだけを考えて作ったのに、陸さんは明智と同じ物を俺に渡したんだからさ、」


すっと顔を近付け、低く囁いた。


「割りに合わない分は身体で払ってもらおうかと」
「…!!ど、どこのヤクザ…っ!!」


反論しようと慌てる陸の唇を飲み込んだ。親しんだコーヒーの味と、大好きな陸の味。無意識に口角が上がった。
少しだけで止めようとしていたが、恐らく無理だ。自分自身でそう理解し、頬を染めて満更でもないような陸を深く味わった。せめて、客か惣治郎が来るまでは、と。


「俺がいるっつの」


小さく小さく呟いた明智の声は、夢中になってしまった2人には届いていない。少し冷めてしまったコーヒーを口に含み、自身の計画通り進展したことに僅かに笑みを浮かべた。
これ以上邪魔をしないようにと、お金を置いてこっそりとルブランを出て行く。


「明日、茶化してやるか」


動じない陸が唯一動じるのは蓮関係だ。思う存分弄ってやろうと悪い笑みを浮かべたあと、またいつものような柔らかい表情に戻る。


「ご馳走様でした」


コーヒーも、他のことも。


end

ーーーーー
ホワイトデー第3弾!
ぺご関係では第1弾だけど。
でもあれだ、 ホワイトデーあんま活かせてないんだ。ぺごくんは相変わらず口調迷子。
このあと惣治郎さんかお客さんが来てやめるか、closeにして屋根裏でお楽しみするかですね!←
吾郎ごめんよ!


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