明智吾郎の誕生日(2019)

※ちょーーーーっといかがわしいので注意
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「冴さんばっかりずるい!」


久しぶりにあまり遅くならずに家に帰れる。そう思って帰路へつこうとしたとき、冴は突然呼び止められた。聞きなれた声に思わず溜息をついて振り向くと、そこには予想通りの人物が不満そうな表情を浮かべていて。


「陸…いきなりなんなの?」


腰に手を当てて問い掛ければ、後輩である陸は小走りで冴の前に移動した。


「また明智くんと2人でお寿司食べに行ったんですよね!?」
「ああ…そうね。事件解決の手伝いをしたんだからご褒美にって奢らされたわ」
「ご、ご褒美…」


いらぬ想像が働き、陸はがっくりと項垂れた。それを見て冴は再び溜息をつく。明智が冴の仕事を手伝い始めてから陸は明智と出会い、そこからずっと好意を寄せていることを知っているが、まさか嫉妬の対象になるなど思いもしなかった。


「そんなに言うなら陸があの子を食事に連れて行ってあげれば良いでしょ」
「………え」
「私は好き好んで連れて行ってるわけじゃないんだから。高い寿司を奢らなくて済むなら助かるわ」
「え、で、でも私が誘って明智くん来てくれますか…?」
「高いもの好きだし来てくれるんじゃないかしら」
「そこはお世辞でも陸が誘うならって言って下さいよ!」


相変わらず女心が分かっていないと陸はむくれた。冴は仕事人間で恋愛には疎い。それは今更だ。こんなに美人なのにもったいないと思う反面、明智に対してそう言う目で見ないことに安心している。モテる明智はただでさえライバルが多いのだから。


「そういえば彼、確か明日誕生日よね?それを口実に誘えばいいじゃない」
「……プレゼント用意してないのにですか」


もちろん明智の誕生日は把握していたが、1ヶ月以上かかっても誕生日プレゼントを決めることが出来なかったのだ。うーっと唸る陸に冴は続ける。


「食事を奢るだけで充分誕生日プレゼントよ。何も残る物じゃなきゃダメってことはないでしょ」
「……そっか。そうですね!その手があったじゃないですかね!うわー!何で気が付かなかったんだろう!冴さんありがとうございます!」


途端にパァっと顔を輝かせた陸は嬉しそうにすぐにスマホを取り出し、何かを調べ始める。


「明日の明智くんの予定は…夕方で番組の撮影終わったらそこからフリーですね!よし!誘える!」
「…どうして彼の予定を知ってるのよ」
「もちろん聞いたからに決まってるじゃないですか!…情報屋に」


最後の一言がなければ良かったものの、正義を掲げる職業でありながら犯罪スレスレの行為に何度目かの溜息をつかずにはいられなかった。


「と、とにかく!明日誘ってみます!冴さん抜け駆けはダメですからね!」
「そんなことするわけないでしょ」


その言葉に冗談ですと笑いながら、陸は頭を下げて挨拶をしその場を後にした。明日に備えて計画を練るために。


◇◆◇

明智の誕生日当日。陸は明智の撮影が終わる頃の時間、テレビ局の前で項垂れていた。


「…どうして私は明智くんのこととなると頭が回らなくなるんだろう…」


冴が部下として信頼し、仕事を任せてくれる程度に自分は優秀だと自負している。けれど仕事以外…明智に関わることとなると話は別だ。まるで良い計画が練れずに結局無策でテレビ局の前まできてしまったのだ。もう当たって碎けろとヤケクソである。


「明智くんは優しいし、こっぴどく振られるとか断られるとかはない…と信じたいけど…」
「あれ、陸さん?」


はぁっと深い溜息をついたと同時に声をかけられ、凄い勢いでそちらを向いた。間違えるはずもない大好きな人の声だからだ。


「あ、明智くん…!」
「やっぱり陸さんだ。こんな所で会えるなんて嬉しいな。でも一体どうしたんですか?」


にこりと笑顔を浮かべた明智にドキドキと胸が高鳴った。明智に出会う前は年下に、しかも高校生相手にこんなにときめく日が来るなど思いもしなかっただろう。
少しだけその笑顔に見惚れてしまったあと、近付いてきた明智にはっとして背筋を正した。


「あ、明智くん!お誕生日おめでとう…!」
「え…」


ぽかんと。普段の明智からは想像も出来ないような気の抜けてしまった表情。取り繕うことのない本当の顔に陸の心臓は嫌な鼓動で鳴り出す。


「き、きききき気持ち悪いよね!?こんな待ち伏せしてこんなこと言うなんて!!ごめん!本当にごめんなさい!!」


土下座しそうな勢いの陸を何とか止めながらも、明智の視線は逸れている。いつも目を合わせて話す明智が、だ。段々と泣きそうになって俯くと、明智はぽつぽつと口を開いた。


「あ、の…すみません。ちょっとびっくりしただけで、気持ち悪いとかは全然ないんです」
「え…ほ、本当に…?」
「ええ、本当です。陸さんに僕なんかの誕生日をお祝いしてもらって、嬉しくないわけないじゃないですか」


困ったように笑った明智はやっとその瞳に陸を映した。


「ただ、本当に驚いただけなんです。あんなに全力でお祝いしてもらえるなんて思ってなかったから」
「お祝いするに決まってるよ!当然でしょ!」
「……そう、ですか。ありがとうございます、陸さん」


眉を下げて微笑んだ明智は、どこかいつもと違う気がした。けれど陸もいっぱいいっぱいでそこに触れている余裕はない。


「あ、でも誕生日プレゼントはかなり高度過ぎて用意出来なくて…だ、だからご飯奢るよ!お寿司食べに行こう!銀座の高い所の!明智くんの好きなもの好きなだけ食べていいから!ね!お祝いだし!」


恥ずかしさからか矢継ぎ早に伝え終わった所で相手の様子を伺う。明智はまた少しだけぽかんとしていた。次々にこんな普段見ない表情を目の当たりにして陸の心臓は期待やら不安やらで爆発しそうだった。
そんな陸の心境を知ってか知らずか、明智は口元に手を当てて思案しながら「好きなもの、好きなだけ…」と陸に聞こえないほどの声で呟く。そして一瞬だけ僅かに口角を上げたあと、陸を困ったような笑みで見つめ返した。


「僕、あまりお寿司好きじゃないんです」
「へ…?」


そんなはずはない。だって明智はいつも冴にお寿司を強請っているのだから。断る口実なのだと涙が出そうになったが、明智の言葉はまだ続く。


「ああいう場所には情報収集や話題性のために行ってるだけなので、特に好きってわけじゃないんですよ」
「そ、そうなんだ…?」


それならばと更に提案できるほど陸の心臓強くない。明智の言っていることが真実だとしても、これ以上何か理由をつけて断られれば本当に泣いてしまいそうだった。


「それより僕、他に食べたいものがあるんですけど」
「え!なに!」


逆に提案されるとは思わずに陸は反射で食いついた。真剣な瞳で明智の言葉を待つ。


「陸さん、料理得意でしたよね?」
「え…?得意…だけど…」


その質問の意図に行き着く答えは1つしかなくて。陸はぱちぱちと瞬きをし、そんなわけないと思いながらもその答えを口にした。


「も、もしかして…私の手料理…だったり…?」


恐る恐る答えた陸に返ってきたのは、ただ微笑む明智の綺麗な笑顔だった。


◇◆◇


テレビ局から近いのが明智のマンションだったため、陸はそこへ招かれた。高校生で一人暮らしをする明智の部屋に入る前から心臓の鼓動はうるさいままで治らない。
自分が何をしていたのかも何を話していたのかも分からないまま、いつの間にかに料理を始めていた。無心で料理を作ろうにも、にこにこと見つめてくる明智に気が散って仕方がない。心臓の鼓動は増すばかりで、座っててと促すも見ていたいとの一点張りで退く気はないようだった。


「なんか、良いですよね。料理をしてる女性って」
「え、そ、そうかな…?見ててもつまらなくない?」
「そんなことないですよ。僕の家で料理を作ってる陸さんってだけで、いつまででも見ていられます」
「?」


よく分からなかったけれど分からない方が冷静でいられると判断し、陸は料理を再開した。そして明智は宣言通り出来上がるまでずっと陸を見ていて、出来上がった料理を運んでいった。
陸さんも一緒にと誘われたことから自分の分もよそり、明智と一緒に席についた。向かい合わせが妙に緊張してしまう。


「わぁ、嬉しいな。陸さんの手料理食べられるなんて。いただきます」


ぱくりと食べた明智は、凄く美味しいと大絶賛だ。まるで子どものようにぱくぱくと食べ進めていく。


「ほ、本当にこんなので良かったの…?美味しいって言ってもらえるのは嬉しいけど、せっかくの誕生日なのに……ほら、最近話題のカフェとか、高級なお店とか…」
「あ、そうですね。今度一緒に最近噂になってるカフェに行きましょう」
「え?あ、うん」
「約束ですよ」


自然な流れで思わず頷いてしまうと、微笑まれて約束を取り付けられた。陸としては明智と接点を持つことが出来て非常に喜ばしいことだけれど、違う違うと頭を振る。


「そ、そうじゃなくて!誕生日なんだからもっとワガママになっても良いと思うの!考え方が大人すぎるよ…!まだ高校生なのに…」
「まだ高校生、ね」
「明智くん?」
「いえ、何でもありません。それじゃあワガママ言っても良いですか?」
「!うん!もちろん!何でも言って!」


そして夕食後、ワガママと称して始めたのはチェスだ。陸は明智とチェスで勝負をしている。


「これがワガママ…」
「なかなか相手が見つからないんですよ」
「なる…ほど…?」
「それにしても、陸さん結構強いですね」
「まあ、ボードゲームはわりと得意かも」


それから何度も何度も勝ったり負けたりを繰り返し、雑談をしながら色々なボードゲームで遊ぶ中で、陸は改めて思ったことを口にする。


「それにしても、明智くん本当に無欲だよね…誕生日なのにこんな無欲でいいの?」
「無欲だなんて。僕は好きなことやらせてもらってますよ」
「そうかな…私が楽しいだけとかない?」
「ないですね。でも、陸さんも楽しんでくれてるなら良かった」
「それは……その、明智くんといるだけで楽しいというか…う、嬉しいし……」


空気に慣れてきたせいか本音が漏れてしまった。遠回しの告白みたいになってしまったが、もっと過激な好意を寄せられている明智には気付かないだろうと思っての言葉だ。だから陸は特に焦ることもなくはにかみながら明智を見つめた。


「だから明智くんが楽しんでくれてるなら、私はもっと嬉しいよ!そのためなら出来ることは何でもするからね!」
「……へえ」
「?」
「なら、遠慮する必要ないってことですね」


いつもより少し低い声が聞こえたかと思ったときには、もうソファに押し倒されていた。両手首を掴まれて顔の横で縫い付けられ、明智の身体が重くない程度に陸の上に乗っている。身動きの取れないその状況を理解するのに時間がかかった。


「え……あ、あけち、くん…?」
「陸さん。僕が食べたいもの食べさせてくれるんですよね」


この状況での言葉に僅かに混乱する。夕飯はもう食べ終わったというのに。


「えっと…?た、足りなかった…?」
「足りないも何も、まだ食べてないですよ」
「???た、食べてない…?でも夕飯は私の手料理を…」
「僕、陸さんの手料理が食べたいなんて言いましたっけ?」
「………へ?」


にこりと綺麗な笑みを浮かべられた。陸が手料理を食べたいのかと問いかけたときと同じ、綺麗な笑みを。そしてそこで気付く。明智の口から直接、手料理を食べたいと言われていないことに。
料理が得意かと聞かれはしたが、それだけだ。確認のために陸が問うたとき、明智はただ今のように微笑むだけだったのだから。


「………えぇ!?ちょ、な、なにそれ!」
「はは、騙すようになってすみません」
「悪いと思ってない顔してるよ…!」
「まあそうですね。悪いと思うより嬉しいと思う気持ちの方が何倍も大きいので」


首を傾げると明智の顔が近付き、至近距離で見つめられる。やっと慣れていた空気が一変し、部屋に招かれたときよりも心臓が破裂しそうにばくばくと鼓動した。


「あ、あああ明智くん、ななな何を…」
「ずっと、貴方のことを食べたかった」
「!?」


ぺろりと首筋に舌を這わされ、思わず高い声が上がる。口を抑えようにも両手は塞がれたままで何も出来ない。


「ははっ、可愛いなあ」
「明智くん…!お、大人をからかわないの…!」
「陸さんも、あんまり僕のこと子供だって舐めないで下さいね」
「え…」
「確かにまだ高校生ですけど、それ以前に男なので」
「…!」


熱のこもった瞳に見つめられ、息が止まる。そんなこと言われるまでもない。ずっと好きなのだから。年齢など関係なく、明智自身が好きで堪らないのだから。それでもこの状況はまずいのではないかと内心パニックになる。


「あ、明智くん…!こういうのはちゃんと好きな人と…」
「陸さん、好きです」


遮るように告げられ、答える前に口を塞がれる。啄ばむように何度も音を立てて口付け、最後にぺろりと唇舐めた。身体に力が入っていた陸も、段々と力が抜けてしまい、上手く頭が回らなくなる。そんな無防備な表情の陸に、明智は困ったように笑った。


「すみません、頂いちゃいました」
「ぁ…」
「そんな顔して可愛い反応までされると止められなくなっちゃいますよ」
「…ぅ、ん」
「え?」
「………え!?あ、いや、そ、そうだよね!!い、いくら私が明智くんのこと好きでも明智くんはまだ学生なんだからこんなのダメだよね!!」


ふと我に返って陸は再び慌て出す。コロコロ変わる表情はいつも通りだ。けれど、もうあの表情を見てしまったから。好きという言葉を聞いてしまったから。冗談だと止める理由はなくなったのだ。すっと明智の顔から笑みが消える。


「そんな言葉聞いて、止められると思います?」
「え…」
「好意は持ってもらってると思ってましたけど、それが恋愛としてなのかは分からなかった。けど、貴方の口から直接聞けた…」


自分のことが好きだと。


「陸さん、もう1回言って下さい」
「え…?」
「僕は陸さんが好きです。陸さんは?……俺のことどう思ってる…?」


どこか縋るような言葉と瞳に、これが彼の本当なのだと察した。普段見せない本当の姿に、陸はいつの間にか自由になっていた手で明智の頬に触れた。


「…好き、だよ。明智くんのことが…貴方のことが、好き。今私の前にいる貴方のことが大好き」
「…っ」


頬に添えた手に触れられ、ぎゅっと握り締められる。そのまま明智は自身の口元へ持っていき、ちゅっと口付けた。


「ありがとう、陸さん」
「あ、ありがとうなんて…!むしろ私のことを好きになってくれてありがとうというか私にはもったいなさ過ぎるというか夢みたいというか…!」


いつもの調子に戻ってきた陸に微笑みながら、再び手をソファに縫い付ける。今度は手首ではなく、指を絡めて繋ぎながら。それに気付いた陸が頬を染めながら明智を見つめると、にこりと笑みを返された。


「先に謝っておきますね。たぶん手加減出来ないと思うので、明日動けなくなったらすみません。でも心配しないで下さい。ちゃんと僕が面倒見ますから」
「て、てかげ…!?ま、まままま待って何を、あああ明智く…」
「大好きですよ、陸さん」


反論を許されるはずもなく、再び唇を塞がれた。先ほどの触れるだけの優しい口付けではなく、熱を帯びた激しい口付けで。言葉の通りに容赦のない口付けに、陸の頭はすぐにどろどろに溶かされていくのだった。

end

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明智吾郎誕生日おめでとーーーー!!大好きだーーー!!表だけじゃなく裏の彼も愛したつもりなので気付いてもらえるといいな。
今回は珍しく…というか明智くんでは初の年上夢主で挑戦。冴さんより年下の明智くんより年上。ちょっといかがわしく。その先も書きたいね。いつか。いつか…
P5Rでは救済ルートあってくれ…!!

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