明智とバレンタイン

バレンタインデー。恋する乙女なら誰しもが意識するイベントだ。もちろん絶賛片想い中の陸も例外ではない。


「分かってた。分かってたのよ?最早芸能人より芸能人らしくて人気で?ファンサもかかさないし?むしろ神かかってるし?そりゃあ大量のチョコ貰うに決まってるじゃない」
「そうだな」
「その中には本命だってあるに決まってる」
「決まってるのか」
「馬鹿みたいにライバルだらけだから希望なんて薄いし最初から勝負する気なんてなかったのよ。……なかった…のに…!!」


陸はガンっとカウンターを叩いた。


「それなのになんで私はチョコ用意してるのよ…!」


ルブランのカウンターで何も頼まずにひたすら愚痴っていた陸はカウンターに突っ伏した。
その手に持っているのは上品そうな包装のチョコレートだ。陸の趣味ではなく相手の趣味を意識したのだとよく分かる。小さく笑った蓮の声は陸の唸り声にかき消された。


「あんなに明智にあげるつもりはないって言ってたのに、本当に物好きだな」
「し、仕方ないでしょ!無意識に用意してたんだから…」
「それで俺には?」
「あれだけ貰っておいて何言ってるの」
「明智は俺より貰ってると思うけど?」
「う…」


そうだったと頭を抱える。蓮も竜司が羨むほどそれなりに多いが、テレビに出て人気を得る明智ほどではない。陸は深い溜息をつき、手元のチョコレートを見つめた。何故蓮ではなく明智を好きになってしまったのだろうと。


「……どうしよう、これ」
「渡せば?」
「簡単に言ってくれるわね…あんなに貰ってる人に更に渡したら迷惑になるじゃない」
「そんなことないよ」
「なんでよ」
「だっていくつ貰うかよりも、誰に貰えるかが大切だろ」


にこりと微笑んだ蓮に眉を寄せる。様になっているのが余計に腹が立つが、モテる理由がよく分かったのも事実だ。


「全く…それイケメンだから許される台詞よ」
「惚れた?」
「それはない」
「残念」


くすくす笑う蓮に不満そうな陸。もうこのまま本当に蓮に渡してしまおうか。そう考えたとき、ルブランの扉が開いた。
入ってきた人物に陸は固まる。


「おっと、タイミング悪かったかな」
「え?」


大量のチョコが入った袋を持ってやってきたのは話題に出ていた明智だ。気まずそうに頬をかく明智に陸は首を傾げる。


「…それ、蓮にあげるつもりだったんだろう?」
「え!?」


それ。陸が持つチョコレートを指した言葉だと理解し、大きな音を立てながら慌てて立ち上がった。


「ち、違うから!」
「そうなのかい?」
「蓮にあげるわけないでしょ…!」
「それじゃあそれは?」
「これ、は…その……」


蓮ではない。他の人だと言い訳も出てこない。明智にあげるつもりだと言って普段通り渡せればどれだけ良いか。けれど意識すればするほど緊張してしまい、更には明智の持つ大量のチョコレートに怯んでしまう。


「あ…ぅ…えっと…」
「もし迷子なら、僕にくれないかな?」
「え…?」


にこりと微笑んだ明智をぽかんと見つめる。


「チョコはたくさん貰ったけど、まだ1番貰いたい人から貰っていなくてね」


近付いてくる明智に心臓がどんどん早鐘を打つのを感じた。期待して頬が熱くなっていく。


「だからそれ、陸のチョコ。よければ僕にくれないかな」
「……………はい」


震える手で差し出したチョコレートは手ごと暖かく包まれ、思わずびくりと肩を跳ねさせた。


「ふふ、嬉しいよ」
「な、なな、なんで、手…!」
「ああ、ごめん。震えていて可愛かったからつい」


可愛いと言う言葉を聞かなかったことにしてフルフルと頭を振った。このまま明智のペースではダメだと深呼吸をし、無理矢理落ち着きを取り戻す。


「……こ、これ、本当に明智くんにあげるためのだから…!」
「え?」
「た、たくさん貰ってるから迷惑かと思って、渡すか迷ったんだけど…」
「迷惑だなんてことないよ」
「っ」


今だに包まれた手にぎゅっと力を込められた。


「陸からのチョコを受け取らないわけないだろう?むしろ1番欲しかったものなんだから」
「!」
「ありがとう、陸。ホワイトデー楽しみにしていてよ。君には特別で用意するから」
「……うん」


明らかに口説いている明智と、それを少し感じ取っている陸。チョコのように甘ったるくなった空気に、蓮は微笑んで2人にコーヒーを出した。自分がいることを忘れているのは不服だけれど、それで仲が進展するなら仕方がない。お互いの気持ちがちゃんと通じるまで、きっとあともう少しだろうと来月に期待をした。


end
ーーーーー
ニセモノーーーー!!あまりにも明智くんにならなくて衝撃を受けた。
黒い明智くんにあげようかと思ったけど夢主をツンデレっぽくしたら黒い方じゃ収拾つかなくなったんで一応白い方で。

〜おまけ〜
「ところでそのチョコはどうして持ってきたんだ?」
「ああ、これは君たち怪盗団のみんなにあげようと思ってね」
「施し…?」
「僕だけじゃ食べきれないからだよ。無駄にするのはもったいないだろう?それに、僕は陸からのだけで充分だからね」
「っ!」
「竜司が聞いたら怒りそうな台詞だな。仕方ない、みんな呼ぶか」

そうしてルブランでチョコレートパーティーが始まる。

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