ぺご主と踊りたくない子

宴を盛り上げるためにいくつかのステージをクリアしていき、更に盛り上げるためにと練習をしていた怪盗団。ちょうど全員集まっていたその場で、陸は全力で首を横に振っていた。


「む、むりむりむりむりむり!!」
「そこまで嫌か…」
「そ、そうじゃなくて、嫌とかじゃなくて無理…!」
「それの方がキツくね?生理的に無理的な?」
「ち、違うから!そんなわけないでしょ!」
「じゃあどうして?」


陸以外とは全員踊った蓮が、陸と踊りたいと言い出した結果冒頭に至る。断られてもちろん納得など出来ず、ぐいっと近寄って陸を見つめた。至近距離の蓮を直視できずに陸は俯く。


「うぅ…」
「陸」


まるで子供に言い聞かせるような慈愛に満ちた優しい声音。そんな蓮に負け、陸は小さくぽつりと溢した。


「…っ………か、ら…」
「え?」


あまりにも小さい声はこの至近距離でも全ては聞き取れなくて。蓮が首を傾げると、陸は顔を真っ赤にして大声を上げた。


「蓮がかっこよすぎてダンスに集中出来ないから!!」


その言葉に一同ぽかんと固まる。周りに気付く余裕などない陸は更に続けた。


「な、何でそんなにかっこいいの!何でそんなにエスコート上手なの!何でみんなこんなかっこいい蓮と普通に踊れるの!?想像しただけで……心臓破裂しそう…!」
「えっと…一応、ありがとうなのかな」
「…どういたしまして」


先ほどの勢いはどこへ行ったのか、再び小さな声で陸は呟く。もちろん蓮はここで会話を終わらせる気はない。


「けど、俺は陸と踊りたいな」
「厳しいっす…」
「夢の中だから大丈夫」
「だいじょばないっす…!」
「ほら」


強引な物言いではないのに有無を言わせぬ何かがそこにはあって。蓮は陸に手を差し出した。


「お手をどうぞ」


その様になる姿に手を取る以外に選択肢はなかった。戸惑いながらもそっと手を乗せると蓮は微笑み、再び陸は頬を染めて俯く。触れ合った場所が熱くてそれだけでもうすでに限界を超えてしまいそうだった。


「し、心臓出そう…起きたとき私の心臓止まってるかも…」
「ははっ」
「いや笑い事じゃないから…!蓮のせいなんだよ!」
「俺が格好良すぎるせい?」
「そう…!」
「それは有り難い」
「…っ」


優しく手を引かれ、エスコートされるままにステージに立つ。普通にステージで踊るだけはやっと緊張しなくなったというのに、今は目の前の人物のせいで周りの音が聞こえなくなるくらい心臓の音が響いていた。


「ほら陸、俺を見て」
「むり…!」
「リズムに乗らないと」
「曲聞こえない…!」
「じゃあ俺の声だけ聞いてて」


耳元で囁かれ、どくりと大きく鼓動した心臓はどんどん早鐘を打っていく。まだ踊ってもいないというのに、踊り終わったあとのようだった。


「俺が陸に合わせるから」
「で、も…っ、私、蓮みたいに上手く…」
「陸相手だったら、どんなダンスでも合わせられるから問題ない」
「え…?」


やっと見上げて見れた蓮の顔はとても優しく、その瞳は愛しげに細められていた。


「蓮…?」
「陸のことずっと見てきたんだから、合わせられないなんてことはない」
「ず、ずっとって…」
「目を覚ましたら全部忘れるなんて、もったいないな」


1人で会話を進めてしまう蓮に戸惑っていると、ふいに腰に手を回され抱き寄せられる。空いてる片手は繋ぎとめられ、今までにない恋人のような距離に言葉を失った。


「好きだ、陸」
「……え…」


真っ直ぐ見つめてくる瞳に視線を逸らせない。真剣な眼差しで蓮は言葉を紡いでいく。


「もし陸も同じ気持ちなら、目を覚ましても忘れないで。そうしたら現実でもちゃんと伝えるから」
「ま、待って蓮…!急すぎて頭の中ぐちゃぐちゃ…!」
「俺が陸を好きってことだけ理解してくれてれば良いよ」
「す、すす、好きって…!」
「そのままの意味」
「いいい意味わかんな……」


最後まで言葉を紡ぐことなく、陸の言葉は蓮に飲み込まれた。踊らずにテンションが落ちていた観客たちの歓声がどっと大きくなる。怪盗団メンバーたちも騒ついているのを感じながら、蓮はゆっくりと名残惜しそうに離れて微笑む。


「ほら、今は踊ろう」


話はそれからだ。その言葉を合図に始まった2人のダンスは、今宵の宴で最も盛り上がるものとなるのだった。


end
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夢主は怪盗団のメンバーでぺご主と両片想いだった系の話。気持ちが通じることなく離れ離れもやばいよね。(?)
P5Dの蓮くんが本当にかっこよすぎてどうしようって今だに悶えてます。あんな華麗にダンスして相手をエスコートして…惚れるしかない。(とっくに惚れてる)ノリノリなのめっちゃ可愛いし…!って気持ちで書いた突発。突発。ここ大事です。急展開!

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