ぺご主と幼馴み3

2人で出掛けることに何の抵抗もない。誤解されるような関係に思われてもいい。むしろ思われてあわよくば本当にそうなりたい。
目の前で美味しそうにパフェを頬張る陸を見つめながら、蓮はそんなことを考えていた。


「美味しい?」
「うん!すっごく美味しい!」


その笑顔を脳内で連写し、平常を装って微笑む。動揺を誤魔化すようにコーヒーを飲んだが、ルブランで飲み慣れているせいか少し物足りなく感じた。


「コーヒーは?美味しい?」
「美味しいには美味しいけど、やっぱりルブランの方が美味しいかな」
「どれどれ?」


そう言いながら陸も自分の分のコーヒーを口を付けた。味を確かめたあと、うーんと唸る。


「本当だ。美味しいけど惣治郎さんのコーヒーには敵わないね」
「ああ」
「ふふ、良かった」


今日陸と蓮の2人でやって来たのは、ルブランではない別の喫茶店だ。敵情視察という名目でやって来たのだが、お互い内心はデート気分で浮かれる気持ちを隠しきれない。隠しきれていないけれど、お互いに気付かぬまま2人きりのデートを楽しむ。
怪盗団のメンバーといるのはもちろん楽しいけれど、やはり蓮と一緒にいるのは特別だと頬が緩んでしまい、陸は慌ててぶんぶんと頭を振る。


「そ、惣治郎さんより美味しいコーヒー淹れるとこなんてそうはないだろうけど、いつもお世話になってるお礼に真面目に敵情視察しないとね!」
「そうだな」


妙にやる気をみせる陸に、お世話になっているのは自分なのにと思いながら再びコーヒーを飲む。きっとそれを言っても、陸は同じことだと自分のことのように張り切るのだろう。自分以外のことにも全力な陸に上がりきった好感度が更に上がっていく。


「んー、でもこのパフェはやっぱり美味しい…!惣治郎さん、こういうパフェも出せばいいのに…」
「それは陸が好きなだけだろ?」
「違いますー!杏だってそうだし女の子は大抵甘いもの好きだよ!」
「そんなものか」
「そんなものです。あ、でももちろん甘いもの好きな男の子もいるよね!」
「まあ、そうだな」
「蓮も甘いの好きだよね?はい」
「………」


目の前に差し出されたスプーンに、蓮の表情が固まる。ポーカーフェイスを保っている余裕などなかった。


「蓮?」


きょとんとした陸にそんな気はない。意識しすぎているとは思っても、好きな相手との間接キスを意識しないなど出来るわけもなくて。知識の泉も動揺する頭ではまるで役に立たなかった。


「蓮?あれ、甘いの嫌いじゃないよね?」
「…嫌いじゃ、ないけど…」
「なら食べてみて!はい、あーん」
「…っ」


先ほどと同じく差し出されるスプーンに加え、無邪気な笑みに理性が揺れる。思わずごくりと息を飲んだ。けれどこんな不純な気持ちで間接キスなどしたらもう止まれないかもしれない。そう思い、口を開けようとする自分をなんとか踏みとどまらせた。


「……いらない?」
「〜〜〜っ」


俺はいいよ。そう一言言えばいいだけのはずなのに、好きな子の不安そうな上目遣いとあーんという2度目の誘惑に打ち勝つことは出来なかった。
蓮は少しだけ身を乗り出し、そのままぱくりと差し出されたスプーンを口に含んだ。唇が、舌が、スプーンに触れる。陸とのいやらしい妄想に暴れ出す心臓をポーカーフェイスに隠してゆっくりと口を離す。


「どう?美味しい?」
「……ああ、美味しいよ」
「だよね!」


ぶっちゃけ味など全く分からなかった。心臓は早鐘を打ったまま、まだ口を付けたときの感触が残っている。陸が美味しそうに何度もその口へ運んでいたそのスプーンの感触が。


「蓮にも気に入ってもらえて良かった」
「…え?」
「私が好きなもの、蓮も好きだったら嬉しいもん」


はにかみながらそう爆弾を落とし、まるで恥ずかしさを誤魔化すように再び掬ったパフェを口に運んだ。先ほど蓮が食べたものを今度は陸が。その光景と陸の言葉に耐えきれず、ガンっと額をテーブルに打ち付ける。意外にも大きな音を立てた行動に陸はびくりと肩を揺らした。


「え、え?蓮?どうしたの?」
「……何でもない」
「何でもなさそうじゃないけど…」
「……」


心配そうな陸に本当のことを言うべきか言わないべきか。言えば気まずい雰囲気になってしまうかもしれないが、言わなければ陸に隠し事をするということで。


「……それ」
「え?」


気まずい雰囲気など一瞬だ。けれど隠し事をして陸が悲しそうな顔をするのは見たくない。悲しませたくない。蓮は心を決めて大きく息を吐き出した。


「昔は気にしなかったけど、今は俺たち…その、もう高校生だから…」
「…?」
「……俺がちょっと意識しすぎただけ。………間接キスに」
「え?間接キ………」


そこまで言って、ぼふんっと顔を真っ赤に染め上げた陸はスプーンを落とした。からんっという音が妙に耳に響く。


(やっぱり気付いてなかったのか…)


間接キスと分かっていたけど気にしない。そう言われるのを期待しつつ、どこかでこんな反応をしてくれることも期待していた。だから、とてつもなく嬉しい。脈アリだと錯覚してしまうほどに。


「え、あ、ご、ごめ、蓮…!」


顔を真っ赤にして慌てる陸に、蓮の方がどんどん冷静になっていく。いつも自分を翻弄する陸がこんな取り乱した様子を見せるのだから。陸が慌てれば慌てるほど蓮に余裕が戻り、頬杖をついて陸を見つめた。その表情はとても優しく微笑んでいる。


「わ、私、その、本当に、その…!」
「ふふっ」
「え…蓮…?」
「そんなに慌てなくていいよ。謝る必要もない」
「でも…」
「俺以外の男とやらなきゃいいから」
「………へ!?」


目を細めて、陸を見つめて優しく微笑む。そんな蓮の表情と言葉に陸はあわあわと慌てている。


「い、いい、いま、今…!」
「可愛い」
「〜〜〜っ!」


思わず漏れてしまった言葉に陸が声もなく照れているのが分かった。いつもは自分がそんな気持ちなんだと優越感に浸る。


「も、もう!からかわないでよ!蓮のバカ!」
「ははっ、ごめん」
「悪いと思ってないでしょー!」
「だって本当に陸が可愛くて」
「だ、だってじゃないの!蓮は簡単に可愛いって口にしちゃダメ!」
「心から可愛いと思ったから言ってるのに、ダメ?」


あざとく小首を傾げた蓮にぐっと言葉が詰まる。これだからタチが悪い、と。俯いて心を少し落ち着けたあと、ちらりと蓮に視線を向けた。


「…だ、ダメ…」
「どうしても?」
「………わ、私にだけじゃないと、ダメ…」
「…っ!」


予期せぬ反撃に、落ち着いていた心臓がどくりと跳ねた。優勢にいたはずなのに再び追い詰められた気分だ。途端に言葉が紡げなくなる。そんな蓮の様子に、陸は笑みをこぼした。その笑みに全てを察する。


「ふふっ、仕返し」
「…陸」
「蓮からやったんだからね!」


いつも通りの2人に戻り、お互い僅かに頬を染めながら微笑みあった。相手の頬が赤く見えるのは、きっと自分の願望なのだと思い込んで。


(これを冗談にしない関係に)
(なかなかなれないんだよね)


思うことはお互いに同じで。敵情視察という名の束の間のデートを楽しんだ。きっといつか、これが本当の恋人になったときに出来たらいいなと頬を緩めながら。

end
ーーーーー
セガカフェ行った記念のデートの話!
アニメ9話のぺご主は普通の男子高校生だった…からこういうぺご主でもいいかなーって。あれまじ可愛かった。
なかなかくっつかないけどほぼ付き合ってるような幼馴染シリーズが書いてて楽しくて好きです。

[ 21/24 ]


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