ぺご主と片想いする子

教室の扉の前で大きく深呼吸をする。しっかりシミュレーションしたのだから大丈夫だと自分自身に言い聞かせ、意を決して扉を開けた。
そして震える足でゆっくりと歩みを進め、ある生徒の机の横で立ち止まる。その席の主である蓮は顔を上げ、きょとんと陸を見つめた。


「…っ、お、おはよう…!雨宮くん…!」


少しだけ震えた声。挨拶1つで心臓が飛び出てしまいそうなほどだ。頬を染めて、けれど決して視線は逸らさずに蓮を見つめた。


「…おはよう、立花さん」
「…!」


にこりと挨拶を返され、陸の周りはぱあっと花が咲くように明るくなった。それを前の席で見ていた杏は呆れたように溜息をつく。


「陸、緊張しすぎ」


幸せ絶頂と言った様子で杏の前の席に座った陸に、後ろには聞こえないようこっそり声をかける。振り向いた陸はふわふわと花が舞っているような笑みを浮かべたままだ。


「あ、杏ちゃん…!雨宮くんに挨拶返してもらった…!会話しちゃった…!」
「いやあれ会話とは言えないでしょ…」
「今日も凄くかっこよかった…!」
「はいはい」


蓮が転入してくる前日に運命の出会いをしたという陸。詳しくは聞いていないけれど、陸は蓮を王子様だと疑わずに真っ直ぐな好意を向けている。それは誰が見ても分かるほどあからさまに。


(これだけあからさまなのに、蓮本人は全然気付いてないみたいだけど)


ちらりと後ろの席を伺えば、蓮は机の中でスマホを弄っているようだった。怪盗チャンネルのことをモルガナと相談しているのかもしれない。目を伏せたその表情は確かに整っていて、保護観察中という肩書きがなければ学校中からモテていただろうと納得した。


「まあ、確かに一目惚れするのも分からなくないけど」
「えぇ!?」


ガタリと席を立った陸に驚いて視線を戻す。その音に蓮も不思議そうに陸を見つめるが、その視線には気づかず、陸は何故だか泣きそうな顔で杏を見つめていた。


「あ、杏ちゃんも雨宮くんが好きなの…?」
「は?」
「…杏ちゃんが相手じゃ…私、勝ち目ないよ…」
「ちょ、ご、誤解だから!やだ泣かないでよ陸!」
「うぅ…っ、そうだよね、杏ちゃんと雨宮くん、仲良いもんね…っ」


瞳に涙を浮かべる陸に慌てて弁解するも、もう杏の声は聞こえていないようにポロポロと泣き出してしまった。人の話を聞かないのが陸の悪い所だが、今そんな追撃するようなことは言えない。クラスは騒がしく周りには気付かれていないけれど、もうすぐHRが始まってしまう。ぐずぐずと泣いている陸をどうしようか焦っていると、予想外人物が杏の隣を通りすぎ、泣いている陸に手を伸ばした。


「…っ!!」


伸ばした手は陸頬に触れ、優しい動作で涙を掬う。驚いた陸の視線の先には、先ほど挨拶したばかりの人物がいて。


「え、な、な…な…っ」


陸の頬に触れるのは蓮だった。あまりにも驚いたせいで涙も引っ込んでしまう。すると蓮はにこりと微笑んだ。


「うん、その方がいい」
「…え…?」
「泣いているより、立花さんはいつも笑っている方が俺は好きだよ」
「へ!?」


ぶわっと顔を真っ赤に染め上げたと同時にチャイムが鳴った。するりと、どこか名残惜しそうに頬を撫でながら蓮の手は離れ、目を細めて陸を見つめてから席へと戻る。言葉の真意を理解出来ずに陸はぽかんとしたままその場を動けなくなった。


「立花さん、何してるの?早く席に座りなさい」
「……」
「立花さん?」


教室へやってきた担任の言葉など耳に入るはずもなく、何度も蓮の言葉が頭の中で繰り返され、優しい笑顔が、目を細めた表情が目に焼き付いて離れなくなっていた。


「……全く、キザなことするんだから」


目の前でその光景を見ていた杏は頬杖をつき、呆れたように溜息をついた。蓮は陸の気持ちに気付いていないわけではなく、その反応を楽しんでいるのだと分かってしまったから。


「立花さん!」
「!は、はい!すみません!」


担任に再び注意され、陸は慌てて席へと座る。熱くなった頬はまるで治らず、そのまま机へと突っ伏してしまう。


「〜〜〜〜っ」


声もなく悶えている姿を見てから、もう一度ちらりと後ろの様子を伺えば、蓮はどこか満足そうな表情をしていた。


「性格悪くない?」
「なんのこと?」


無害そうに微笑む蓮はあくまで気付かない振りだ。そんな2人のやり取りを知らず、陸は先ほどの出来事を思い出しては顔を真っ赤にする。


(もう雨宮くんの顔見れない…!)


今までも挨拶するだけで心臓が出そうなほど緊張していたのに、これからは姿を見ただけで心臓が爆発してしまいそうだ。触れられた頬の熱が冷めることはなく、ドキドキと鼓動する心臓を落ち着けるように服の上からぎゅっと握りしめた。


(好きすぎて死にそう…!)


後ろからでも悶えてる姿がよく分かる陸に杏は呆れ、蓮は目を細めて微笑んだ。


「怪盗団のリーダーに目をつけられるなんて、あの子も災難だな」


机の中で呟いたモルガナも小さく息をつく。蓮が狙ったオタカラを逃した所など見たことがない。今すぐ奪えるはずなのにさっさと奪わず、照れる反応を楽しんでいる性格の悪さに呆れながら、大きな欠伸を漏らした。


「あんまり虐めてると逃げられるぞ」
「大丈夫。逃すつもりなんてないから」


パレス攻略には頼もしい発言は、1人の女の子へ向けられたもので。その言葉も瞳もパレス攻略以上に真剣で、心を奪われているのは蓮の方かもしれないと思いつつ、また1つ欠伸を漏らす。

蓮が楽しんでいる以上、きっと2人の気持ちが通じ合うのはまだまだ先なのだと、陸に同情するモルガナと杏なのであった。


end
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アニメ蓮くんとゲームぺご主が別物に見えてもうどっちで書いたらいいのやら迷走した結果落ちがよく分からないことになってしまった。落ちだけじゃないけど!書きかけ放置してたせいもある…もっとぺご主と甘い話が書きたいぜ…!

[ 15/24 ]


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