ぺご主と竜司妹

「お兄ちゃん!ルブランに行くなら行くってどうして教えてくれなかったの!」
「げ」


カランっと音を鳴らしてルブランに入ってくると同時に、陸は頬を膨らませながら竜司を睨みつけた。


「あら?陸ちゃんこんにちは」
「まこちゃんこんにちは!作戦会議の邪魔してすみません!」
「大したこと話してなかったから大丈夫大丈夫。陸もお菓子食べる?」
「はい!頂きます!ありがとうございます、杏ちゃん!」
「ほんとリュウジの妹とは思えないくらいしっかりしてるよな」
「うるせーな!」


昔からよく言われる一言に竜司はモルガナに突っかかる。側から見たら猫と喧嘩する異様な光景だ。


「俺はよく似ていると思うがな」
「え、そうか?」


モルガナからパッと視線を外し、祐介の言葉に嬉しさを隠しきれないようににやにやと笑みを浮かべた。大好きな妹と似ていると言われて嬉しくないわけがない。


「似てる?おイナリ、おまえ目大丈夫か?」
「全体で見るとそこまで似ていないが、パーツ1つ1つはわりと似ているな。それに見た目だけの話じゃないさ」
「え!中身の方が全然似てないでしょ!竜司はバカだけど陸は賢いし」
「お前にバカとか言われたかねーよ!」
「はぁ!?あんたよりはマシだっつの!」
「はいはい、低レベルな言い争いはしなくていいから」


真がパンパンっと手を叩いて場を治めると、カウンターの奥からくすくすと笑い声が聞こえた。途端に陸の表情が輝く。


「随分にぎやかだな」
「蓮くん…!こ、こんにちは!」
「こんにちは、陸。コーヒー飲む?」
「は、はい!」


にこりと微笑まれて陸はうっとりしている。誰が見ても、陸が蓮に恋をしているのは一目瞭然だ。


「にぎやかどころかうるせーっての」
「あ!惣治郎さん、すみません!うちのバカ兄が…」
「おい!」


同じく奥から出てきた呆れ顔の惣治郎にぺこりと頭を下げる。さり気なく全責任を押し付けられ、竜司は文句を言いながら陸の隣の席に座った。そしてじとっと陸の横顔を見つめる。


「お前、蓮のこと見過ぎだろ」
「だって何しててもかっこいいんだもん…目の保養…」
「ありがとう」
「い、いえ!こちらこそ素敵な時間をありがとうございます!」


手際よくコーヒーを淹れながら陸に微笑む。にこりと、数多の女性を落としてきたような笑みに陸の表情はゆるゆるだ。そんな陸に竜司は不満そうな視線を向けたままで。モルガナたちは呆れたようにそれを見つめる。


「おいリュウジ、お前そろそろ妹離れしたらどうだ?」
「陸が蓮に取られて寂しいのは分かるけど、そこは大人になりなさいよ」
「寂しかねーよ!つ、つーか俺は妹離れなんてとっくの昔にしてるからな!」
「いやしてないっしょ」
「シスコンは嫌われるぞー」
「き、嫌われ…!?いいいいやいやいや、陸!陸?陸はお兄ちゃんのこと嫌いになったりしねぇよな?」
「それはお兄ちゃん次第かな」
「ぐ…」


縋るような竜司の視線をさらりと受け流し、蓮から差し出されたコーヒーを嬉しそうに受け取りながら淡々と答えた。
竜司がダメージを受けているのも気にせずにコーヒーを一口飲み、再び顔を緩ませる。


「美味しい?」
「はい!とっても美味しいです!こんなに美味しいコーヒー初めて飲みました!」
「それは大袈裟だろ?でも良かった。陸の好みが最近やっと分かってきたから、陸専用にアレンジしてみたんだ」
「わ、私専用…!?」
「おーまーえーは!人の妹をタブラかすなよ!」
「お兄ちゃんは!人の幸せをジャマしないで!」


むっと頬を膨らませた陸にそう言われ、それ以上何も言えずに唸りながら蓮にガンを飛ばす。こんなにガンを飛ばされたのは出会ったばかりの頃くらいだ、と蓮は余裕に笑う。


「陸、あんまり竜司に強く当たるなよ」
「お兄ちゃんはバカだからこのくらい強く言わないと分からないんです」
「なるほど」
「いやなるほどじゃねぇよ!お前もさっきから兄に向かってバカバカ言うんじゃねぇ!」
「アホ」
「ヤンキー」
「おい!つか蓮もビンジョーすんな!」


立ち上がって抗議する竜司に、陸と蓮は目を合わせて笑い合う。


「なんか、竜司より蓮の方が陸のお兄さんみたいだよね」


杏の一言にその場が一瞬沈黙する。そして全員がぽんっと手を叩いた。


「確かにそうね。見た目はともかく、中身は竜司よりも蓮に似てるんじゃないかしら」
「頭も良いしヤンキーじゃないし?」
「そうそう。礼儀正しいし気配り出来るし」
「俺にじゃがりこを分け与えてくれるしな」


その場の全員がうんっと頷いた。


「蓮くんがお兄ちゃん…それは、いいかも」
「はぁ!?」
「何でもスマートにこなして優しくてかっこよくて判断力あってみんなに気配り出来て信頼されてて……え、凄く良い…!」
「それは俺とは真逆って言いてぇのかよ!なんだよくそ!もう陸なんて知らねぇからな!」


子供のようにふいっと顔を背け、1人店の端で拗ねてしまった竜司に杏たちは溜息をつく。陸と蓮は顔を見合わせて再び笑い合った。すると陸は席を立ち、竜司の隣に移動する。


「お兄ちゃん」
「……なんだよ」
「冗談だよ」
「……」
「蓮くんがお兄ちゃんが良いなんて嘘。私はお兄ちゃんがお兄ちゃんで良かったって思ってるよ」
「……蓮と違ってバカなのにかよ」
「不器用でかっこ悪くて、目の前のことしか見えてなくて無鉄砲で後先考えないバカだよね」
「悪口か!」
「違うよ」


一旦言葉を区切り、陸は竜司に微笑む。


「そんな真っ直ぐで純粋な、目の前で困ってる人を放っておけないバカなお兄ちゃんが大好きってこと!」
「…!」


そんなやり取りを、怪盗団の面々はやれやれというように暖かく兄妹を見守る。どちらが年上か分かったものではない。


「陸ー!」


がばりと抱き付こうとした竜司からすっと離れ、陸は立ち上がった。避けられた抱擁に若干不満の色を浮かべる。しかし陸の視線はすでに蓮に向いていて。


「そういうわけで蓮くん!お兄ちゃんバカでどうしようもないけど、これからも愛想尽かさずに面倒見てあげて下さい」
「ああ」
「俺はペットか!」
「そしてもしよければ私のこともよろしくして下さい!」
「それはもちろん」
「え、本当ですか!」
「こちらからお願いするよ。よろしく、陸」
「は、はい!」
「いやはいじゃねーよ!誰が蓮に陸を渡すかっての!」


ふにゃふにゃの笑顔を浮かべる妹を蓮から引き離して威嚇する竜司に蓮はにこりと笑う。


「譲ってもらうつもりはないよ」
「は?」
「俺は怪盗だから」


ふっと上がった口角。先ほどまでの笑みではなく、我らが怪盗団のリーダーが顔を出す。


「欲しいものはもちろん、奪いに行くつもりだ」
「…!」


その言葉を聞き、陸は一気に顔を真っ赤に染め上げた。蓮の纏う雰囲気と言葉。いつもより色気漂う姿に言葉が出ない。ドキドキとこんなにも高鳴る心臓は初めてだった。


「陸を頂くよ、お義兄さん」
「な…!」
「へ…!」
「おお…!」


面白くなってきたと身を乗り出したハッカーとモデルを落ち着けつつも、話の流れは気になる生徒会長。何か閃きそうなのか、3人を真剣に観察する画家。そして、怪盗団のリーダーに突っかかる妹離れ出来ない兄なのであった。

end
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竜司が兄なら妹はきっとしっかり者に育つと思うわけです。竜司の妹って設定をあまり活かせてないけどこういう扱いならやっぱり竜司だよな〜って思って!
うちのバカ兄が…って夢主の台詞と、陸を頂くってぺご主の台詞を書きたかったから書けて良かった!


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