明智と情報通
「明智くん聞いてよ」
「おはよう。どうしたんだい？」
「どうして蓮くんはあんなにかっこいいんだろう」
登校中偶然出会った陸は挨拶もなしに話始める。いつものことすぎて慣れたものだ。そして内容もいつもと同じだった。
「またそれか…いつでもどこでも君は彼の話だね」
「だって誰かに語りたい…！それに明智くん暇でしょ？」
「登校中を暇と言うのかどうかは置いておいて、テレビに引っ張りだこの相手に対してよく言えるね」
「いつもルブランにいるじゃない」
「君に会いにね」
「あっそう」
「相変わらずつれないな」
「その胡散臭い笑顔やめた方がいいよ」
「酷いな」
苦笑しつつ、そんな辛辣な君も魅力的だよ。そう続けた言葉は華麗にスルーされる。
「あ、ちなみに今日抜き打ちテストあるよ」
「へえ？それは確かな情報かな？」
「私が確かじゃない情報を君に教えるとでも？」
「はは、そうだね。君の情報網を前に抜き打ちも何もないな」
「当然。まあでも、明智くんなら抜き打ちでも何の問題もないだろうけどね」
「君が丁寧にとってくれてるノートのお陰でね」
「嘘ばっかり」
「本当だよ。仕事で休んでるときは凄く助かってる」
「お礼は？」
「今度何かご馳走するよ」
「じゃあ今日、ルブランのコーヒーで」
「ははっ、了解。デザートもつけるよ」
「やった」
嬉しそうに笑った陸に微笑む。普通の女子高生と同じ反応なのに、一体どこから様々な情報を仕入れているのか。情報源を聞いてもはぐらかされてしまうのはいつものことなので、もう深くは聞かないことにした。
「それで、怪盗団の情報は何か掴めたかい？」
「んー、微妙。自分でもよく分からないからもう少し待ってて」
「自分でも分からない？」
「分からないというか、信じられない光景を見たと言うか……」
「…へえ。それは興味深いな」
納得していない表情の陸を意味深に見つめる。そこまで辿り着けたのか、と。
「あ、でも1つ言っておくと」
「？」
「蓮くんたちが世間を騒がせる怪盗団なのは間違いない」
「根拠は？」
「私が怪盗団のファンだから」
「………え？」
思わぬ言葉にぽかんと瞬く。確かな情報でなければ言わないと言っていたはずなのに、何故。その意味を込めて陸を見つめた。
「私が唯一かっこいいと思ってるのは蓮くん。でも最近かっこいいと思い始めたのは怪盗団。だからきっと蓮くんは怪盗団」
「…随分と私情まみれというか、根も葉もない情報だね」
「まあ、そうかもね。でも私は確かな情報だと思ってるから」
「なるほど。それなら少しは信じてみようかな。君の興味があるものに対しての情報は侮れないからね。それに、好きな人なら尚更だ」
「好きな人？」
「蓮くんのこと好きだろう？」
「ふふっ、私がいつ好きなんて言った？」
辿り着いた校門前。陸は小さく笑いながら小走りで先に門を越え、明智を振り返る。
「興味があることは否定しないし、好きなものに対しての認識も否定はしないけど、私は蓮くんも怪盗団もかっこいいと思ってるだけのファンだよ」
「だから好きなんだろう？」
「どちらかと言うと、明智くんの方が好きかな」
「は？」
予想外のことに僅かに素が出てしまった。再びぽかんと陸を見つめる。いつも回転の早い頭は上手く働かなくなり、ただ陸を見つめることしか出来ない。
「好きなものに対しては何が何でも情報集めたくなるから覚悟しててね」
「何を…」
「怪盗団も君も、私が化けの皮を剥がしてあげるよ。"明智吾郎"くん」
「…！」
意味深に微笑んだ陸に言葉を失った。どこまで知っているのかという不安と、陸の言葉の意味への期待。自分でも理解出来ない気持ちが渦巻く。
知ってほしい。けれど、知らないでほしい。知られてしまえば、自分はきっと…。ぐるぐると思考が嫌な方は落ちていく中で、明るい声が明智を引き戻す。
「私はそこらの情報屋なんかよりよっぽど優秀だよ。なんたって探偵王子さん御用達だしね！」
「…君、は…」
「ってことで、お互い抜き打ちテスト頑張ろう！また教室でねー！」
明智が引き止める前に陸は小走りで昇降口へと向かって行った。校門前で取り残された明智はその後姿をただただ見送る。
「……参ったな」
いつもの胡散臭い笑みを浮かべて頬をかく。そして深く溜息をついた。そのときにはもう、いつもの笑顔は消えていて。にやりと口角を上げる。嫌な思考を片隅へ追いやり、どこか楽しげに。
「…覚悟しとくのは、どっちだろうな」
あんな告白紛いのことをしておいてただで済むと思うな、と。明智は1人楽しげに笑みを深めた。
その後。教室に着いてまるで今日初めて会ったかのように笑顔で挨拶をしてくる彼女に内心動揺するまで、あと数分。
end
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明智くんに同級生のお友達が欲しかったんです(?)
三島的なポジ…より優秀だな。
でもぺご主リスペクトしてる一ファン。蓮くんかっこいいが口癖だと思う。
……明智吾郎夢です。
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