ぺご主とコープ上げ途中の子

惣治郎も家に帰り、蓮だけがルブランに残る時間。モルガナはベッドに座る蓮の横で丸くなって眠っており、その背中を優しく撫でながら蓮の視線は作業台に向いている。
カチャカチャと金属同士の擦れる音は、自分が作業しているときよりも手際よく聞こえた。


「はい、出来たよ」


カチャンっと台に置かれたのは3つキーピックだ。蓮が1つ作る時間で3つ作り上げた陸は大きく伸びをした。


「ありがとう。さすがだな」
「こんなの朝飯前…っていうか君だって普通に出来るでしょ」
「陸みたいにそんな早くは出来ないよ」
「私はこれが本業みたいなものだし、そこは負けられないね」


作業道具を器用に回しながら得意げに笑う。


「いつも助かってるよ」
「んー、助けてるついでにこれも渡しとくよ」


そう言って陸が机に置いたのはいくつかの薬だった。蓮はきょとんとそれを見つめる。


「武見先生の薬を君が持ってきた材料で改良してみた。一般用よりも効力は格段に上がったよ。身体に影響はないから安心して使って」
「そこまでしてくれたのか」
「……まあ、暇だったし」


すっと視線を逸らした陸に小さく微笑む。
陸は岩井の所でバイトしている高校生だ。何度か岩井の元へ通う内に知り合い、そして成り行きで蓮たちが怪盗団だとバレてしまった。けれどそれを受け入れた上で協力をしている。豊富な知識と何でもこなす器用さでパレスやメメントスを攻略する際にとても世話になっていた。唯一残念なのが、陸がペルソナ使いではないということ。けれど理解はしているらしく、何も聞かずにこうして様々な物を用意して助けてくれるのだ。


「世の中がどうなろうと、別に私には関係ないけどね」
「それなのに助けてくれるんだな」
「……作ったり、改造したりは好きだし」
「俺とも一緒にいられるし?」
「寝言は寝て言え」
「じゃあ一緒に寝るか」
「帰る」


蓮に冷たい視線を向けて立ち上がる。


「もう帰るのか?」
「用は済んだし」
「なら、頼みを増やせばもう少しいてくれる?」
「私じゃなくても出来ることなら他を当たって」
「陸にいてほしいんだけど」
「……君の言葉は本気なのか冗談なのか分からないから嫌いだ」
「俺はいつも陸には本気だよ」
「じゃあやっぱり嫌いだ」


作業道具をまとめながら溜息をつく。蓮のペースになるとどうしていいか分からなくなる。だからすぐにこの場を去りたかった。


「大体さ、キーピック作るのだって君専属のメイドさんがいるんだから私じゃなくたっていいじゃん」
「川か……あのメイドには洗濯とか他のことやってもらってるから」
「……へー。…実は、彼女?」
「違うよ」
「ふーん」
「安心した?」
「この時間に私がここにいても勘違いされないことに安心した」
「素直じゃないな」


優しく微笑む蓮をムッと睨み、作業道具を入れた鞄を肩にかけた。


「じゃあね」
「待って。送ってく」
「いい」
「こんな時間に女の子1人帰せるわけないだろ」
「お、女の子って…わ、私はそういう部類じゃないし…」
「部類ってなんだ。女の子だろ」
「…っ」


言われ慣れていない言葉にすっと頬が赤く染まる。そこでようやく気付いた。蓮が苦手な理由に。


(他の人と違って、女の子扱いしてくるからだ…!)


機械に強くて、改造やら改良やらが趣味で、ミリタリーショップでバイトをしている。どう見ても女の子らしいとは言えない陸を周りはそんな扱いはしなかった。だから、蓮の女の子扱いに戸惑ってしまう。


「陸?どうかした?」
「……何でもない」
「そうか。なら行くか。家まで送る」
「だからいいってば」
「それじゃせめて駅まで」
「必要ない。私はそんなに…他の女の子みたいに襲われるほど可愛くもないし、か弱くない」
「俺からしたら充分可愛いよ」
「…ま、た…そういうことを…」
「それに、俺がそうしたいからするだけだから。送らせて」
「……」


モルガナを起こさないように立ち上がった蓮は、階段の前で陸を振り返る。そして片手を差し出した。
差し出されたその手をぽかんと見つめたあと、頬を赤く染めながらふいっと顔を背けた。


「……まあ、そこまで言うなら…別に、いいけど」
「なら明日も、な」


にこりと微笑んだ蓮に一瞬動揺するも、差し出された手をパシンっと叩いて階段を駆け下りる。


「早く」


むすっとした表情の陸に苦笑しながら蓮も階段を下りていく。


「……材料あるなら、来るから」
「……ああ、頼むよ」


小さく呟かれた言葉に微笑み、もう1人は頬を染めながら唇を尖らせ、真逆の反応をしながら2人は駅へと向かっていった。


end
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恋になりきってないこういう関係も好き。
怪盗団に協力してる立場がほんと良いですよね…!この子はコープありそうって思ってこんなタイトルになりました。

[ 12/24 ]


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