ぺご主と年上彼女

「蓮くん、あけましておめでとう!」


元旦の朝、屋根裏から下へ降りると笑顔で出迎えられる。他に誰もいない店内で、陸はカウンターでテキパキと動いていた。


「あけましておめでとう、陸」
「もうすぐお雑煮出来るからちょっと待っててね!」
「ああ」
「ちなみに惣治郎さん作です」
「だろうな」


微笑み合って陸は再び中へと戻っていった。朝から陸とゆったりとした時間を過ごせて心地が良い。モルガナはまだ眠っている。双葉は家で、恐らく惣治郎も今は戻っているのだろう。あまり2人きりになれないせいか、この空間が特別だった。


「おまたせ、蓮くん」


美味しそうに出来た雑煮を持って出てくると、それを蓮の前に置いて隣に座る。


「ありがとう。いただきます」
「はい、どうぞ」


手を合わせた蓮ににこりと返事をしながら、その横顔をそっと見つめた。


「美味しい」
「ふふ、さすが惣治郎さんだね。それとも私の仕上げ方かな?」
「餅がちょっと固いかな」
「え!ウソ!」
「ウソ」
「もー!びっくりさせないでよ!」


静かな店内でくすくすと笑い合う。こんなにゆっくりと2人で過ごすのはいつ振りだろうか。


「それにしても、元旦からバイトに来るなんて偉いな」
「他にやることもないしね。…それに」
「それに?」


陸の方を向いた蓮から視線を逸らし、自身の手元を見つめる。


「……蓮くんに会う口実、だからね」
「……そんな口実なんかなくても会いにくれば良いだろ」
「みんなにバレちゃうからダメです」
「俺はそろそろみんなに言いたい」
「恥ずかしいからダーメ」
「……」


付き合っていることを隠している2人。もう付き合って随分と経つが、陸が恥ずかしいという理由で周りには黙っている。それが蓮にはもどかしい。ただでさえ年も学校も違って会える時間が少ないというのに。


「せめて明智だけには言いたい」
「1番ダメ!明智くんとは同じクラスだからすっごく気まずい!」
「だから言いたいんだ…」


陸に度々ちょっかいを出す明智だけには自分のものだと宣言したいのだが、それが叶わずに不満そうな表情を浮かべながらも雑煮を完食した。


「ご馳走さま」
「はーい」


にこにことした陸の笑みに諦めたように息を吐く。周りに言わなくとも、陸はやはり自分のものだと確かめるようにそっと抱き寄せた。陸は目を閉じてその胸に寄り添う。


「新年早々に蓮くんに抱き締めてもらえて幸せだなぁ」
「俺も、新年早々に陸を抱き締められて幸せだ」
「今年一年、素敵な一年になりそう」
「なりそうじゃなくて、俺がするよ。陸のことは俺が幸せにする」
「…うん、ありがとう」
「当然だろ。他の奴にそんなことさせてたまるか」
「……蓮くん、大好き」


はにかむ陸に微笑んだ。そしてゆっくりとその唇に自らの唇を寄せる。あともう少しで触れる瞬間、ルブランの扉がカランっと開いた。2人は慌てて離れる。


「おー、起きてたか。もう雑煮は食ったのか?」
「は、はい!惣治郎さんのお雑煮、蓮くん美味しいって言ってくれました!」
「当然だろ。今日の開店は昼からだからお前ら初詣でも行ってこい」
「え、良いんですか?」
「無駄にバイト代払いたくねぇんだよ」
「ふふっ、ありがとうございます、惣治郎さん!じゃあみんなに連絡してみますね!」
「バーカ」
「「?」」


呆れたような言葉に2人はきょとんと惣治郎を見つめる。


「今のうちに2人で行ってこいって言ってんだよ」
「え、ふ、2人でって…」
「新年の始まりくらい恋人として過ごせば良いだろ」
「!!」
「どうして…」
「そんなベタベタして手繋いでるくせにどうしてはねぇだろ」


無意識に繋いでいた手に気付き、慌てて離す。けれどすでに惣治郎には見られてしまっていて。


「隠してたのかもしれねぇけど、少なくとも俺には全然隠せてなかったぞ」


その言葉に恥ずかしさからか陸が頬を染めた。そんな反応に惣治郎は呆れるしかない。


「どうでもいいからさっさと行ってこい」


カウンターの奥へ消えながらの言葉に、2人は顔を見合わせた。チャットを確認しても、年明けに交わした挨拶の言葉しかない。


「……2人で行っちゃう?」
「そうだな」


先ほど離した手をもう一度しっかりと繋ぐ。


「みんなから連絡来る前に行こう」
「連絡来ちゃったら?」
「……気付かなかったことにする」
「了解です」


陸はスマホの電源を落とすと、ぴったりと蓮にくっついて腕を絡めた。バレてしまったらそれはそれで仕方がない。恥ずかしいけれど、今は蓮とこうしていたい。


「今年もよろしくね、蓮くん!」
「今年だけじゃ嫌だな」
「じゃあ…私に飽きるまで?」
「なら、一生ってことで」
「ふふっ、よろしくお願いします」


そっと触れるだけのキスをし、2人はルブランを後にした。

その後、蓮たちと連絡が取れないとルブランへやってきた竜司たちに適当に言い訳をする惣治郎がいるなど知る由もなく、蓮たちはゆっくりと2人だけの時間を過ごしたのだった。


end
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年上夢主に蓮くんがタメ口ってのが最近萌えてる。というか明智と同じクラスって活かせない設定が好き。いつか活かしたいな…!
年下も年上も同い年も好きだけど!


[ 11/24 ]


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