ぺご主と明智双子妹


明智がいつも座っていたカウンター席に座り、同じコーヒーを頼んで、陸は静かにそれを口にした。かちゃりとカップを置く音がやけに響く。蓮はちらりと陸に視線を向けた。
明智の面影が重なり、僅かに顔を歪める。


「接客中にそういう顔するのはどうなの?」
「…悪い」


獅童のパレスで明智が行方不明になってからも陸は何も変わらない。いつも通り冷静で、いつも通り辛辣で。まるで悲しんでいないように。


「何」
「お前は悲しくないのか?」
「何、急に」
「明智のことだ」
「どうして悲しむ必要が?」
「…薄情だな」
「意味が分からないこと言わないで」


はぁっと溜息をついてコーヒーを飲む姿は品がある。その仕草が明智と重なり、蓮はぐっと拳を握りしめた。


「意味が分からないって…お前も明智の最後を見てただろ?あいつが命をかけて俺たちを守ってくれたのにそれを…」
「命をかけて?笑わせないで」


かちゃりとカップを置き、強い瞳で蓮を見つめる。明智とは違う真っ直ぐな瞳に僅かにたじろいだ。


「彼は死んでない。あんな所で死ぬわけがない。馬鹿なこと言わないで」
「陸…」
「彼は絶対に帰ってくる。私を、1人残していくはずないんだから」


言ったあとに はっとし、陸は咳払いをした。少し感情的になってしまったのを抑えるように、大きく息をついて再びコーヒーを口にする。
薄情などではなく、陸は誰よりも信じていた。双子の兄である明智のことを。


「…ごめん、今のは忘れて」
「お兄ちゃん大好きって言葉をか?」
「ちょっと、そんなこと一言も言ってないんだけど」
「俺にはそう聞こえたけどな」
「病院に行ったらどう?」
「心配するな、専門医がいる」
「ヤブ医者ね」
「いつもパレスやメメントスで使ってる薬を作ってる医者だけど?」
「………」


その薬の効力は身をもって知っているので反論出来なくなる。口で負けることなどほぼないに等しいせいか、ぐっと眉を寄せた。


「いつも涼しい顔しているよりその方が良いぞ」
「は?」
「まあ、笑った方が何倍も良いと思うけどな」
「…仕事中にナンパ?」
「いや、口説いてるだけだ」
「そう。残念だけど無駄ね」
「無駄?」


陸は僅かに口角を上げ、頬杖をついて蓮を見つめる。


「私が欲しいなら彼の許可が必要だから」
「どんな相手でもあいつが許可するとは思えないな」
「そう?でもそういう約束なの」
「なあ陸、既成事実って知ってるか?」


余裕そうに微笑む陸に向かって、蓮もにやりと笑みを向ける。一瞬ぽかんとした陸に手を伸ばし、くいっと顎をすくった。


「あいつが帰ってくる前に落としたら俺の勝ちだな」
「勝ち負けの問題?」
「少なくとも、あいつの悔しそうな顔は見れる」
「それは見ものね」
「だろ?」


そう言って顔を近付けた。もう少しでお互いの唇が触れるという所で、蓮の唇に人差し指が添えられる。


「でもダメ」


不服そうな顔をする蓮に陸はくすくすと笑った。珍しく笑う彼女に目を奪われ、顎に添えていた手を頬へと滑らせた。


「頑なだな」
「彼が帰ってきて早々に怒られるなんて嫌だからね」
「俺が守るよ」
「…よくそういう歯の浮くような台詞が言えたものね」
「本心だからな」
「冗談は彼の胡散臭い笑顔だけにして」
「ふっ」


とても同意できる台詞に思わず吹き出してしまった。頬から手が離れ、静かに肩を震わせる。


「兄妹でもそんなこと思ってたのか」
「兄妹だからこそ、かもね」
「…そうか」
「とにかく、そういうことだから。彼が帰ってくるまではお預け」
「なら、報酬ってことでどうだ?」
「え?」


陸はきょとんと蓮を見つめる。再び伸びてきた手を避けることなく受け入れると、その手は陸の髪を優しく梳いた。


「俺が必ずあいつを見つけて連れ帰る」
「!」
「そうすればあいつは俺に借りが出来て、俺と陸の仲を許可しないわけにはいかないだろ?」
「……」
「怪盗だからな。欲しいものは必ず手に入れるつもりだ」
「…彼に命を狙われても知らないから」
「問題ない。もう何回も経験してる」


そういうと陸は表情を和らげた。くすくすと笑う姿は愛おしい。やはり欲しくなってしまう。


「そうね。じゃあ期待して待ってる」
「ああ」
「…蓮」


仕事に戻ろうとした所で珍しく名前を呼ばれ、振り返ったと同時に唇に柔らかい感触を感じる。大きく目を見開いた。
ゆっくりと離れていく陸の頬が、うっすらと赤く染まっている姿から目を離せない。


「…前払いってことで」
「…随分と高い前払いだな」
「私自身が手に入ることを考えたら安いものじゃない?」
「そう、だな」
「だから絶対に見つけて連れ帰るって約束して。破ったらメギドラオン」
「……ああ、約束するよ。絶対に約束は守る」
「…ありがとう」


絶対に約束を守らなければと改めて心に誓う。高い前払いを貰ってしまったから。魔力の高いメギドラオンをくらいたくないから。それになにより。陸自身という報酬…オタカラを手に入れるために。
頬を染める陸を引き寄せ、もう少しだけとオタカラの一部を奪った。誰もいないルブランで、吐息ごと飲み込むように。


end
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兄妹設定が大好きで大好きで…!なのになんか色々と謎で空気殺伐…?内容と夢主の性格のせいだ。私は吾郎生きてるって信じてるからなーーーー!!
明智吾郎偽名説があるから妹ちゃんには名前を呼ばせないようにしてみました。吾郎は謎ばっかりだ好き!!!※ぺご主夢です


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