君の、あるいは僕のあやまち

※注意

設定通り、太刀川さんがクズ
…にしたかったけど、色々端折ってる上、太刀川さん素敵ー!の管理人が書いているのであまりクズにはならなかった
でも素敵な太刀川さんもいない
他の女性とキスの描写有り
たくさん端折って急展開
何故くっついた

−−−−−−−−

また、違う女の人と歩いている。



校内の窓から外を見ると、ちょうどその姿を目撃して思った。

近いようで遠い存在の人は、また今日も…



「…はぁぁぁぁ」
「随分と深い溜息だなー、春」
「……迅…」


自然と出てしまった大きな溜息に、近くを通った迅が苦笑しながら歩み寄ってくる。そして同じように窓の外に視線を向けた。



「ああ、やっぱり太刀川さんか。また違う女の人連れてるんだね」
「…うん。そうみたい」
「春、そんな落ち込まないの。太刀川さんはいつも本気じゃないんだから」
「…分かってるけど…」



そう言いながらまた視線を窓の外に向ける。

すると、太刀川とその女の唇が重なった。咄嗟に目を背けるも、今の光景が目に焼き付いて離れなくなる。


「……分かってても、ああいうの見るのは辛い…」
「じゃあ新しい恋でもしなよ。あんな人を好きで居続けることもないでしょ」
「そう思ったけど…女を取っ替え引っ替えしてたって、大学の単位が危なくたって…私は太刀川さんに惚れちゃったんだもん。そう簡単には諦められないよ」
「あんなに女遊びが酷いのに、春は太刀川さんの良い所を見てるんだ。凄いな」
「凄くないよ。…諦め方が、分からないだけだから」



太刀川より1つ年下で。
玉狛支部所属で。
B級の狙撃手で。
ポイントも高くなくて。


太刀川と関わることがない。
だからきっと太刀川は自分のことを知らないだろうと思っている。
けれど、だからこそ、あまり話したことのない太刀川を嫌いになることなんて出来なくて。


「小南みたいに強い攻撃手になれば、太刀川さんに振り向いてもらえたのかな」
「振り向いてって…今の太刀川さんじゃ遊ばれて終わり。他の人と同じだぞ」
「…それでも、別に良いかなって」
「春…」
「1度で良いから、あそこに私がいられたらなって、いつも思ってるよ」
「何言ってるの」
「…遊びでも良いから、太刀川さんにああいうことしてほしいけど……でも無理なのはちゃんと分かってるから」


自分が太刀川の眼中にないことなど分かっている。1度普通に話しただけで、それから全くと言って良いほど会話らしい会話をしていない。



小南と一緒にいるときに会っても、太刀川は小南としか話さない。小南しか見ていない。加古といるときも、国近といるときも、更にはB級の那須や熊谷といたときも。全く自分の方を見てくれなかった。



「…大丈夫。ちゃんと、分かってるから」



再び窓の外に視線を向けた。


その瞬間、女が太刀川の頬を平手打ちした。


春と迅は驚いて目を丸くする。



女は何かを怒ってスタスタと1人で去って行ってしまった。



「あーあ。振られたね」
「…そう、なのかな」



頬を撫でる太刀川は視線に気付いたのか、ふと、春たちの方へ視線を向けた。


バッチリと、春と太刀川の視線が交わった。あまりに突然のことに驚きすぎてしゃがみ込む。


「折角太刀川さんがこっち見たのに、何で隠れるの」
「い、いや…!突然過ぎて思わず…心の準備しなきゃ無理だよ…」
「心の準備しても無理だと思うけどね」


苦笑する迅を下から睨むように見上げる。すると、何故か宥めるように頭を撫でられた。


「なによ…」
「いーや?随分と可愛い反応するもんだと思ってさ」
「…迅に可愛いって言われても嬉しくないね」
「太刀川さんに言われなきゃ意味ない?」
「俺がなんだ?」


窓からふいっと覗き込んできた太刀川に心臓が止まりそうになった。


「太刀川さん振られてたねー?どうしたの?」
「…あー…なんか、一体どこの女のこと考えてるのよ!って殴られた」
「なにそれ?」
「知るか」


ガシガシと頭をかいた太刀川は、ちらっと視線を下に落として春を視界に捉えた。

春は大袈裟にびくりと跳ねる。


「……よお」
「……ど、どうも…」


たったそれだけ言ってお互いに黙る。
そんな沈黙に迅は溜息をついた。


「2人とも不器用すぎでしょ。太刀川さんいつもみたいに口説いたら?」
「……うるせぇな」
「春も太刀川のことす…」
「迅!!」


春は勢いよく立ち上がり、迅の口を押さえた。


「ば、バカじゃないの…!」
「だってもどかしいからさ。この実力派エリートが一肌脱ごうかと」
「余計なお世話!!」


騒ぐ2人を太刀川は静かに見つめた。


仲が良いのが伝わってくる。


玉狛支部で。
同い年で。
連係し合えて。
お互いを分かり合っていて。


自分の入る隙はないと、思い知らされる。


(…本当に好きな相手には手が出せなくなるなんて、ダセェな…)


太刀川が大学に入ったばかりのとき、今よりも女遊びが激しかった。大学でも、ボーダーでも。

特に好きな相手も出来ず、このままで良いと思っていた。風間から色々言われたが、それを直す気もなかった。

今を楽しめればそれで良かったから。


そう、思っていた。



「迅のバカ!バーカー!」
「はいはい、叩かないの。痛くないけど」
「もういい!嵐山に迅にセクハラされたって泣きつく」
「え゛…それは嫌だなー。嵐山本気にするだろ?」
「これ以上また変なこと言おうとしたら言うからね!」
「セクハラするならもっと他の…」
「………」
「あ、ちょ、春?うそうそ!うそだから無言でどっか行こうとしないで!」



また戯れ合っている。

その姿が羨ましい。


けれど、自分はあんな風に接することは出来ない。
自分に勇気がないのもあるが、こんなに汚くなった手で、初めて本当に好きになった人に、触れてはいけない。


春が大学に入ってきて、迅と嵐山と一緒に歩いていて、他の女子と違い、媚びを売るわけではないその姿を自然と目で追っていた。


そして、ある日をきっかけに、恋に落ちた。

そのときに話したっきり、ほとんど会話らしい会話を出来ていない。


もっと話したいと思った。


けれど、自分とは違う、汚れを知らない存在。



自分は手を出してはいけないと思った。だから1度は更生しかけた生活も、また逆戻りした。

こんなこと、意味ないと分かっているのに。


どんな相手と付き合っても、キスしても、それ以上をしても、考えてしまうのは春のことばかりで。

後悔ばかりだ。


「…お前ら、本当に仲良いよな」


そう呟くと、戯れ合っていた2人はきょとんと太刀川に視線を向けた。大好きな瞳が太刀川を映し、それだけで少し満たされる。



「あれー?太刀川さん春のこと知ってるのー?」


態とらしい迅に、顔をしかめた。
知ってて聞いているな、と。


「玉狛支部所属の紅葉春だろ。話したことあるし知ってるに決まってんだろ」
「!!そ、そうだったんですか…?」


春の言葉に今度は太刀川が驚いた。

もしかして、太刀川が惚れるきっかけを作ったあの日を、春は覚えていないのだろうか。

胸が締め付けられた。


それはそうだ。
こんなクズの自分と話した日を、こんな純粋な子が覚えているはずもない。分かっていても、苦しくなる胸は変わらない。
思わず目を伏せた。

しかし、春から出た言葉は予想外のものだった。



「…お、覚えてて…くれたんだ…」


呟かれるように発せられた言葉に太刀川はばっと春に視線を向ける。



春は、はにかむように頬を染めていた。


どきりと心臓が跳ねる。



「わ、たし…あのときのこと、忘れられてるって、思ってました…」
「…忘れてるわけねぇだろ。あれがお前に惚れた日だし」
「え………?」
「ん?」


ぽかんと見つめてくる春に首を傾げた。
今なにか変なことを言っただろうかと考えるが、分からない。

そんな太刀川に、迅は吹き出した。



「ぶはっ、本当に太刀川さんって太刀川さんだよね」
「は?当たり前だろ?」


疑問符を浮かべる太刀川と、理解出来ずに固まる春。そんな2人を見てから、迅は小さく笑った。



「じゃあ、おれはお邪魔みたいだから行くよ」
「は?」
「あとは2人で話し合ってね」
「じ、じん…!」


縋るように名前を呼んできた春に、迅はにっこりと笑った。


「春も素直になりなよ。そうすれば上手く行くからさ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」


そう言い残し、迅は足取り軽く廊下を歩いて行ってしまった。


残されたのは気まずい2人。

太刀川は外にいる。春は中にいる。

このままお互いに去ることも出来るが、お互いに動けない。何を話そうか迷う太刀川と、先ほどの言葉をぐるぐると考える春。


いつも女子と話すときはスラスラと話せるのに。好きだなんだと薄っぺらい言葉を並べられるのに。
今はその言葉が何も出てこない。



「…あ、の…」


先に口を開いたのは春だ。


「さっき…言ったこと…は…」
「さっき?」
「あ、あの…えっと…っ、」


『…忘れてるわけねぇだろ。あれがお前に惚れた日だし』


その意味を、聞きたい。
けれど、口に出来ない。
聞き間違いかもしれないと思うと、聞けない。



『春も素直になりなよ。そうすれば上手く行くからさ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる』


春は拳を握り締めた。
そして、意を決して太刀川を見上げる。


「た、たちかわさん…!」
「お、おう…」
「あの日…話したとき、に……わ、私に惚れたって…ど、どういう意味ですか…!」
「!!な、何で知ってんだ?」


驚く太刀川に、嬉しい気持ちよりも、自分で言ったことに気付いていなくて可愛いという気持ちが湧き上がった。


「…ふふっ、さっき太刀川さん、自分で言ってたんですよ」
「マジか…」
「太刀川さん、可愛いですね」
「は!?可愛いってなんだ!」
「そのままの意味です!」
「可愛いとか初めて言われたぞ…180pある男が可愛いか?お前変わってるな」
「見た目の話じゃないですよ、中身の話です」
「中身……中身は、もっと酷いと思うけどな」


いつも強気な太刀川と思えない発言に、笑っていた春はぴたりと止まる。


「…中身だって、素敵ですよ」
「素敵なわけねぇだろ?…こんな爛れた生活してる奴が」
「す、素敵です!だから私が好きになったんですから!」
「え……?」
「………あ……」


お互いに固まる。

ぽかんと見つめる太刀川と、顔を真っ赤にして口をパクパクする春。


しばらく無言で見つめ合った。


「…いま、俺のこと…好きって…?」
「っ、ぁ…ぅ……」


言葉に出来ないほどにパニックになっている春に、太刀川はまた静かに口を開いた。



「…俺は、汚れてるぞ」


何人もの女を取っ替え引っ替えして、それをずっと続けていた。そんな自分が、素敵など言われる意味が分からない。

春は真っ赤になりながらも、恥ずかしさから潤んだ瞳で太刀川をしっかりと見つめた。


「そんなの関係ありません!素敵なものは素敵なんです!」
「!」
「どんな太刀川さんでも、私には素敵に見えたんです!だから、す、好きになったんです…!」


決して目をそらさずに言い切った春に、太刀川は見つめ返すことしか出来ない。自分は、なんと答えれば良いのか。


「だ、だから、その…!も、もし太刀川さんが嫌でなければ、今度は…わ、私にしませんか…!」
「………は?」
「さっき、振られたんですよね…?な、なら!今度は私を太刀川さんの彼女にしてくれませんか…!」


泣きそうになっている姿に胸が痛んだ。
そんな辛そうなのに、なんてことを言っているのだと。


「遊びで良いんです…!都合の良い女で良いです…!私は、太刀川さんと一緒にいたい…!だ、だから…!」
「お断りだ」


言葉を遮るように言い放たれた言葉に、春は口を閉ざした。気付けば瞳からはポロポロと涙が溢れていた。

けれどそれを拭う余裕はなくて。

春は涙を溢しながら乾いた笑いをもらした。


「あ、はは…す、すみません、へんなこと、いって…」
「本当に、なに変なこと言ってんだ」
「…っ、すみま、せん…」


自分は太刀川の遊び相手にもなれない。
やはり、関わりは持てない。
胸が締め付けられるようだった。


拳を握りしめ、俯く。



「……遊びで付き合うわけねぇだろ」


え、と。声を出す間もなく、春は後頭部に手を回され、太刀川の胸に押し付けられた。

距離があったせいでよろけ、咄嗟に窓枠に手をつく。
額だけが、太刀川の胸に押し付けられていた。



「た、たちかわさ…」
「…もうごちゃごちゃ考えんのはやめだ」
「え…?」
「俺が汚くて、お前が純粋でも関係ねぇ!俺は本気でお前が好きだから付き合う!彼女にする!」
「ほ、本気で…?」
「当たり前だろ?初めて惚れちまった相手なんだから。もう女を取っ替え引っ替えなんてしねぇよ。絶対に。俺はお前だけを愛するからな」
「へ、あ、の…」
「返事は!」
「っ!あ、は、はい!」
「よし!」


頭から手を離され、にかっと笑った太刀川と視線が合った。急激な展開に頭は混乱したままだが、とりあえず幸せなことだけは分かった。


「…私で…良いんですか…?」
「お前じゃなきゃダメなんだよ」


またどきりと心臓が跳ねた。自分でも単純だと思う。


「…本気で好きになったのなんか初めてだから、どう愛して良いのかいまいち分かんねぇけど…」


太刀川はそう言いながら、窓から身を乗り出した。
そして、ちゅっ、と。春に触れるだけのキスをする。



「俺にはこれしか愛情表現分かんねぇんだよ。だから、周りもお前も信じてくれるまでずっとし続けるからな!」


固まる春に太刀川は一方的に言い放った。


「……好きだ、春」


ふいっと赤くなった顔をそらしながら言った太刀川に、思わず笑みがこぼれた。
キスは恥ずかしくないのに、気持ちを伝えるのは恥ずかしいのかと。


そのお陰で春は硬直が解け、太刀川に微笑んだ。


「…私も大好きです、太刀川さん!」


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太刀川連載の転生パロ的な…?

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