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 君と出会えてよかった。

二郎と付き合い始めて1年の記念日。
偶然にも休日だったのをいいことに
俺達はデートをすることにしていた。

『せっかくだから一緒にたい』
そう思っていたのは、二郎も
俺も同じで。仕事もこの日だけはと
休みを入れてもらったのだった。

――ただ いつも通り行くのは
味気ないよねってそう思って。
今日はいつもと違う服装で行くことにしたんだ。



デート当日 日曜日の午前。
お天気は良好。待ち合わせはイケブクロ駅。

現地に住んでる二郎は、゛珍しく゛早い時間に
ついたらしく、目立つ場所で待っているらしい。
そうラインが入っていた。

俺はまだ電車に揺られている途中で、
会った時 彼はどんな反応をするだろうかと
しばし考えながら外の風景を眺めている。そして―――

駅についてすぐ、彼をみつけた俺は
気付かれないように近づいて 後ろから
そっと声をかけた。

「二郎、お待たせ」

そういうと、スマホをつついていた二郎は
すぐに顔をあげて 目を見開いた。
「恭―――マジ……?」
固まった二郎に、服装間違えたかなと
少しだけ不安になって
履いているスカートを摘んで少しだけ
広げてみる。

「似合ってない…?」
「や、そーじゃねぇ、
めちゃくちゃ似合ってる!!けど」
「けど?」
「まさか女装してくると
思わなかった」
マジかよ、とまた呟いてる姿に
ホッと胸を撫でおろす。
どうやら反応はいいみたいだ。よかった。

「ふふ 吃驚させたくて。
何より今日は記念日 だしね、
いつもと違う雰囲気も悪くないかと思って」
「…そーだな」
小さく呟くと、こちらから視線を
逸らす二郎に 思わず問いかける。

「二郎?拗ねてる?」
「拗ねてねぇよ」
「じゃあなんで顔逸らすの?」
「言わねぇ」
ふーん?俺にも言ってくれないんだ。
ううん と少し頭を巡らせながら
口を開く。

「二郎が思ってる事、当てよっか」
言うと視線だけが俺の方に向けられる。
表情は相変わらず拗ねてるようにみえるけど
機嫌が悪い様ではないようだ。
「当てれんのかよ」

「さぁ?自信は五分五分。
俺が思うに…」
と言いかけた所で、「待った」と声があがる
「当てられんのやだからやっぱ言う。
…俺も、自分なりに 服とか気ぃ遣った
つもりだけどよ…」
「うん」

「…なんつうか、恭がんな
可愛いカッコしてたら 俺も
もっとちゃんとできたんじゃねぇかとか…」
ゴニョゴニョ語尾が小さくなっていく。

それがあんまりにも可愛らしくて、
気がどうにかなりそうだ。
これは俺が勝手にやったことだし、
気にする必要ないのにな。何より、

「二郎はいつもかっこいいから
大丈夫だよ」

思っている事を素直に告げる。
笑いかけて、未だに腑に落ちなさそうな
二郎の手に指先を絡ませた。
せっかくのデートなんだ そんなに気を落とさないで
そんな気持ちも込めて彼の手を引いていく。

「ね?だから行こ?」
「ッ…おう」


――――――――――――

―――――――――


今日のデートコースは念入りに計画を
立てたものだった。なにせ記念日。

せっかくなら楽しい一日にしようって
何度も話し合いをして、お互いの
行きたい所をセレクトし合ったんだ。

俺は水族館 二郎は遊園地。

意外だな、って笑ったらわりぃかよ
って顔を赤くした二郎はすごく可愛くて。
日が落ちてきた頃に観覧車、
なんて言い出したのも 意外すぎて
目を丸くして驚いたものだ。

「観覧車、好きなの?」
「ちげぇ。けどデートつったら
やっぱこれなのかなって」
いつもならそんな事、言いそうにないのにな。
俺が二郎について、未だ詳しく知れて
なかった面なのかな。それとも、雑誌なんかで
読んだりしたんだろうか?ああ、でも 一番
可能性高そうなのは―――

「…もしかして高校の友達にでも聞いた?」
俺の言葉に二郎がぴくりと反応する。
眉を顰めてるけど、その表情はどこか少し照れくさそうだ。
もしかして図星か。
「あ?んでわかんだよ」
「はは だって二郎に観覧車の
イメージないんだもん。
しかも夜に、なんて随分ロマンチックだし」

「恭 俺の事
バカにしてる?」
「そんなわけないでしょ
一生懸命考えてくれて
嬉しいよ。ほら、乗ろう?」
服の裾をくいくい引っ張ってみれば
おう、と小さく返って来る。ふふ
拗ねてんだか素直なんだか。
ほんと可愛くてしょうがないや。

観覧車に乗りこむと、迷うことなく
彼の横に座ってぴったりとくっついた。
「なんつうか 恭
外なのにいつもより大胆じゃねぇ?」
「イチャイチャできるかな って思って
女の子の恰好してきたのもあるんだ。
しなきゃ損でしょ?」
二郎の方に顔を向けると、恥ずかしそうに
顔を逸らされて 思わず笑みがこぼれる。

「相変わらず照れ屋さんだね」
「っせぇ!慣れねぇんだよ、その…
恭のそーいう恰好」
「やっぱり嫌いだった?」
「ばっ!だからそういうんじゃねーって!!
…可愛すぎるから、直視できねぇんだっつうの…」
「あ、二郎!ここ!頂上だよ!」
「聞いちゃいねぇなオイ!ったく」

二郎が何かをぼやいていたけれど、
ガラス越しに見える夜景に
俺は目が釘付けになっていた。

「すごいね、二郎
観覧車ってこんなに綺麗にみえるもんなんだ、」
「そーだな。俺も 夜景は初めてみた。
案外綺麗なもんなんだな。って待て、」
「うん?」
どうしたんだろう?不思議に思って
外から視線を戻して 二郎をみやると
何やらポケットを漁っていた。

そして、二郎との間についていた手を
そっと握られる。

「…二郎?どうしたの?」

首を傾げながら見上げる。
暗い個室の中、二郎の顔はよく見えなかったけれど
聞こえてきた声で どんな表情だか
わかるような気がした。

「今日 俺と恭が付き合い初めて
1年、だろ」
そう言った声はひどく緊張しているのか
どこかゆっくりで、いつものような
強気は感じられない。

「だからどーしても 今日、此処で
渡したいモンがあったんだ」

俺の手を握る手とは別の、
もう片方の手が胸元に掲げられて
握りしめていた手が そっと開かれる。

「…二郎、これ」
現れたのは、同じデザインの指輪が二つ。

「片方は俺ので、もう片方は
恭につけて欲しいんだ。
俺らって 住んでるとこもちげぇし、
仕事の兼ね合いで そんなに会える
わけじゃねぇじゃん。これつけて、
少しでも一緒に感じられたらなって。
勿論 それ以外にも理由はあっけどよ」

言葉の一つ一つに、胸がじんわり暖かくなって
顔が火照っていく。どうしよもなくドキドキして
幸せで 俺なんかが受け取っていいのか
そう思わずにはいられない。

俺が歩いてきた道は 暗くて
汚れてて。この子とは正反対の世界で。
暗い道から引っ張りあげてくれたのも この子で。
俺は二郎から いろんなものを貰いすぎている
そんな気がしてならないんだ。

指輪をみつめた後に、二郎の顔を見上げる。
黙ったままの俺に不安になったのか、
「やっぱこういうの重い、よな」
と指輪を引っ込めようとした。
それを慌てて止める。

「待って!違うんだ…違う
すごく 嬉しいんだ。
俺は 君からいっぱい
幸せを貰ってる。なのに また幸せを
貰ってもいいのかな、ちょっとだけ
恐いんだ 俺なんかが、いいのかなって
そう思ってしまって」

少しだけ目を伏せる。
すると、フッと笑われたことに気づいた。

「バァーカ
恭ってそういうとこあるよなぁ。
付き合う時も言っただろーが。
1人で決めんなって。考えすぎんなよ。
俺だっているんだし 何より
俺が恭に貰ってほしくて 用意したんだからさ」

わかったか?って悪戯っぽく笑う声に
敵わないな、と思わず吹き出して 一つだけ頷いた。

「ごめんね 二郎
そして ありがとう」
「ん。どーいたしまして?」

お互いに笑い合った後に、二郎が
改めて俺の左手をとって 薬指に
指輪を通していく。
「サイズ。ぴったりだな」
「うん。…ねぇ、俺も二郎につけていい?」
聞くと おう、と返事を貰えて
彼の手のひらから指輪を取って
自分にしてもらったように 相手の指に
そっとリングを通していく。

薄明りにみえる、お揃いの証に
少しだけむず痒さを覚えつつ。

「…ねぇ、二郎
ちゅーしていい?」
「ダメな訳ねぇだろ つか、
こーいうのって普通 頂上でやるんだろうなぁ」
「はは そうだね。
もう終わりかけだけど
今したいんだ。ダメ?」
「いいに決まってんだろ、恭」

お互いに距離を詰め合って
顔が徐々に近づいていく。



「二郎―――俺と出会ってくれて、ありがとう」

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