Fairy tale | ナノ

C'mon c'mon

さぁほらおいで、と野ウサギが手招きをしていた。

時計の針は24時を過ぎていたのに私の魔法は解けないし舞踏会も終わっていなかった。

ぐるぐると大広間でワルツを踊る。もう三時間も同じことをしていることに僕以外誰も気づいていない。

鏡がぐわりと揺れると私は迷わずそこへ飛び込んだ。

小さい頃から繰り返し同じ夢を見る。

この世界のアリスはどうやら私のようだ。

お茶会に遅刻だよ。ケタケタ笑いながら白兎は僕に言った。

魔法の鏡は無いけれど、王妃は私を殺したいようだ。

大きな姿見の前に立ち、僕はいつもどおり鏡の向こうの世界へ足を踏み出した。

御伽噺の主人公ではないけれど、私は今王子様と舞踏会で踊っていた。

ガラスの靴は持っていないし、冠だってあの子のほうがふさわしい。そんな卑屈な申し子のシンデレラストーリーがあってもいいんじゃないかしら。

冗談じゃないわ。だって私は魔法使いなのに誰からも嫌われないなんて。

見るからに怪しい艶やかな赤いりんごを、僕は迷わず口に含んだ。

何度もやり直した世界でようやく見つけた君は、ぼくと出会う前の君だった。

だからあの日、ぼくは星空にお願いをしたんだ。君を連れて行かないでって。
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