140wordSS | ナノ

140wordSS
:
「うん、おいしいよ」彼は少し微笑みながら僕の入れた紅茶を口に含む。いつもそうだ。おいしいよ。そういいながら飲んでくれるのは嬉しいが、果たして本当に?……少し、意地悪をしてみよう。紅茶に角砂糖を3つ、溶かしてスプーンでかき混ぜる。「紅茶、入ったよ」さて、彼はどんな顔をするだろうか。
ほんだ『角砂糖三つ分の恋』
back


作ったように彼は笑う。「待ってよ」ぼくは思わず手を伸ばしたが届かなかった。なんて、朝から最悪な夢だ。快晴の空が憎らしい。コートを羽織り長い廊下を歩く。寮から北校舎までは遠いのに。そのうえ悪夢に寝坊だなんて笑えない。ドアを乱暴に開けると教授がこちらを見ていた。夢の中と同じ顔をして。
ほんだ『残月を纏う』
back


月明かりの元、照らされた手元に視線を下す。細かい字が書いてある魔術書だ。「退屈じゃないの?」こんな月夜のきれいな晩に本だなんて。そう付け加えた彼に、僕は君がいれば退屈ではないさと返す。当たり前のような日常。卒業しても彼との仲は変わらず続くものなのだとその時の僕は疑いもしなかった。
ほんだ『まだ友人と呼べた頃』
back


あぁ、なぜこんなにも大事な事を忘れていたのだろうか。僕は、君とは同じ時間の生きられない。ただの魔法使いの君と半吸血鬼の僕らじゃ進む時間が違うのだ。君が灰になってしまっても僕は1000年生きるのに。目の前の幸せが当たり前になりすぎてそんな大事なことも忘れていた。なんて、愚かなのだろう。
ほんだ『赤い唇にさようなら』
back


美しく輝く月。夜空に溶けてしまえばいい。ほら、こんなにも憎たらしい。だが私の愛しい人は、満月が好きだという。「満月って一番綺麗だと思わない?」「そう、だね」私は、満月が嫌いだ。何故か?簡単だろう。人狼だから。ただ、まだ君は知らない。満月の晩に私が姿を消す事も君のことが好きなのも。
ほんだ『いつか月が満ちる頃』
back


この世で一番恐ろしい呪文は拷問や苦痛の呪文でも、死を齎す呪文でもない。君を忘れる呪文だ。「死ぬよりも君を忘れることがたまらなく怖い」と、彼は常々言っていた。「そうかな、どうだろうね」……僕を忘れたら?そんなの、僕が居なかった頃と同じように暮らすだけだろう。ただ、そう、思っていた。
ほんだ『Death spells』
back


優しい彼に、呪文をかけよう。僕のことで苦しまないでいいように。僕を忘れて生きていく。どこまでも光に歩む君は僕には眩しすぎたんだ。後ろから、なんて卑怯だけれど彼の顔を見れば判断が鈍ってしまうから。杖を構えて呪文を紡ぐ。次あったときは初めましてだね。遠慮のいらない殺し合いを始めよう。
ほんだ『残り2時間の幸福』
back


君と生きることが出来るなら、天文塔から星を見て、箒で僕が勝つまで勝負して、仲良く先生に怒られたい。袂を別れても夢に見るんだ。君と歩んだ6年間を。「どうしてもこちら側には来れないか?」「君と戦いたくはなかった」さぁ杖を構えて、あの日みたいに僕が負けよう。違う事と言えば僕が死ぬこと。
ほんだ『それでも、生きて』
back


いいよ。一緒に逃げよう。ここから、どこか誰も僕らを知らない遠くへ。何のしがらみもなく、ただ朝起きて、おはようを言って、一緒に食事をして。午後になったらゆっくり日光浴するのもいいよね。君が望んでいたことを全部しよう。今まで出来なかったこと、全部。だからお願い、目を開けて、僕を見て。
ほんだ『翡翠の瞳に零れる涙』
back


いつの間にかのめり込んでしまった。最初はほんの出来心だったのに。いつも誰とも話さず図書館にいる君を、どうにかこちらに意識を向けたくって。「何を読んでいるの?」「……ドラゴンの飼育方法の本」少し驚いたような顔がとても可愛かった。どうにか君の笑顔を見たくて、僕は今日も君に会いに行く。
ほんだ『まだ君が足りない』
back


ねぇ、君は今僕を見ていてくれてるの?僕が愛した深紅の瞳。正義感が誰よりも強く、優しい君の瞳を、僕は最期まで見ていたいんだ。目の前が霞んで見えなくなる前に。「...please look at me...」どうか泣かないで。その瞳に涙は似合わない。君の涙が僕の頬に落ちてくるのを感じる。お願い、僕を見て。
ほんだ『この愛は手の届かないところまで』
back


君が永遠に僕の隣にいてくれるなら僕はなんだってしよう。この流星群が終わってしまったら僕らは石段を下りて、いつものように別々の岐路に着くのだろう?寂しい思いはしたくない。こんな素敵な夜を終わらせたくないんだ。「あのさ、話があるんだ」「奇遇だね、たぶん、僕も君と同じことを考えてるよ」
ほんだ『レグルスのようには輝けない』
back


あの子の笑顔も声も髪も唇も、全てが僕のものであるのだと、ただ純粋にそうであるのだと思えていた頃は、大して気にもしていなかった。簡単に触れさせてしまう髪も、微笑みかける先に僕がいないのも、誰かと話しているだけでどうしようもなく大好きな君がとたんに憎らしくなってしまうのは何故だろう。
ほんだ『宇宙の一番明るいところ』
back


かつて無いまでの戦争状態。呪文が飛び交い仲間は死んでいく。敵の数がいかんせん多過ぎた。明日は我が身とはよく言ったものだ。僕は、君と生きたかっただけなのに。きっと穏やかな最期は迎えられないだろう。背中合わせで杖を振るう君に問いかける。「終焉までご一緒しても?」「君とならば、勿論さ」
ほんだ『尽きることない夜の涙』
back


君を救うための人生。1回目は知らなかった。2回目は救えなかった。3回目は間に合わなかった。4回目は詰めが甘かった。5回目あたりから数えるのをやめた。僕はまた君を失うの?何度も繰り返して繰り返して、君を救うためにまた繰り返す。君を救えれば僕はそれでいい。さぁ、何百回目の舞台に立とう。
ほんだ『ダイヤモンド・ナイト・ブルー』
back


カーテンの隙間から入り込む朝日に目を細める。隣にいるはずの温もりを求めて手を伸ばすも布団は冷たい。……先に起きてしまったのだろうか。リビングへ行って、あぁ、そうか、と苦笑い。昨日まで隣にいた君は、手の届かないところへ行ってしまった。お揃いのマグカップも食器も、もう必要ないんだね。
ほんだ『さよならの味』
back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -