今まで隠してたんですけど、俺時々……いや、結構しょっちゅう土方さんをいっそ殺してやろうかと思うときがあるんでさァ
俺の恋人は本当に可愛くないそう言うと山崎はあからさまに目を細め、旦那はやる気のない無表情のまま「いやいやいつも堂々と命狙ってるよね総一郎くん」と言った。旦那、総悟です。
そんなテンプレートなやり取りをしている午後2時。公園のベンチに並んで座っている。大の男が身を寄せ合っているさまは実にシュールだ。(いや、そこまでくっついちゃいやせんけど)
そろそろ冬も終わりが見え、桜の木になんか見た目の悪い小さな蕾が芽生え始めている。とはいえ、まだ肌寒い。なーんてことをつらつらと考えていたら、山崎が「もうすぐ春ですね」などとぬかすものだから、黙って足を踏んでおく。(「痛ッ!何するんですか隊長!?」「なんとなく」)
再びベンチに座る。左から山崎、旦那、俺の並び。山崎は先程から鳩に餌をやっていて(さっきの山崎の大声にビビって逃げたけど)、旦那はほけーっと空を眺めながら鼻をほじっている。
ジャリ。
公園特有の、転ぶと結構痛い砂混じりの地面を踏み締める音。発信源はジャングルジムの向こうを歩くおっさんと猫、ではない。
「野郎三人も固まって何やってんだ?」
来ちゃったよ、と一人ごちて顔を向ける。瞳孔開いた恋人の姿に些かのため息。
「有意義な休暇の過ごし方その3でさァ」
「1と2はなんだよ」
至って普段通りの土方さんに、微妙な苛立ちを感じる。折角の休日に他の男と一緒にいるんだから、少しくらい機嫌悪くなってくれたっていいじゃねえですか。
「それより山崎テメーは休みじゃねえだろ何してんだコラ」
ああ、そうですか。俺じゃなくて山崎連れ戻しに来たって訳ですか。何で俺が機嫌悪くなってんの?
「山崎は、おれが、無理矢理連れてきたんでさァ。怒んないでやって下せェ」
おれが、に力を込めて言う。山崎を庇った俺にまるで有り得ないものでも見るかのような目を向ける。三人とも。
「総悟?どうしたんだ?変なもんでも食ったのか?」
いやだからアンタにやきもち妬いて欲しかったっていうか、なんといいやすか。ああもう腹立つなあ。でもその俺を心配してる顔はなかなか…
「…何でもありやせんよ」
「そうか?」
なお心配気な表情がそのまま近付いてきて、…おでこにあてられた。……は?!
「熱は、無いみたいだな。でも今日は屯所で寝てろよ、」
な?と言った顔が近いっ!
つうか今時熱計るのにおでこあてるか、普通。やらないよな、な!いや昔でもやらないだろ。土方さんって天然入ってる上に無自覚でこういうことするよなぁ。俺がやったら絶対に赤くなるくせに、自分からは平気で触れてくるんだから困る。それに何でこの人俺より背高いのに上目遣い出来るんだ。そんな高等技術は止めてほしい。可愛すぎる…って俺!違うだろっ!
今俺土方さんと喧嘩してたんじゃねぇのかよ?!いやいや俺が単に拗ねてるだけのような気もするけど、いや確かに喧嘩中なんだ。可愛いとか思ってる場合じゃない。というか普段から土方さんは別に可愛くなんかないだろ俺そうだろ俺。
「本当にどうしたんだよ総悟」
心の中の七転八倒が顔に出ていたのか、土方さんが俺の頭を撫でる。
俺土方さんの声も結構好きだなぁ…、
って、何で、俺、
「違うだろっ!?」
言いながら刀を振り下ろした。さっきから俺土方さんのこと考えすぎっていうより何だかまるで惚れ直しているみたいで、…って何を再確認してんだ、愛か、愛なのかコノヤロー!
「何がだよっ!?」
避けた土方さんの悲鳴混じりの声。それ聞いて真っ直ぐ目を合わせた俺。
きょとんとしたその顔が、こんなにもムカつくのに、腹が立つのに、…ちくしょおっ!
「死ね土方ァっ!!」
「だから何でだぁあっ!」
ここから大人二人が真剣に鬼ごっこ。肌寒かったなんて忘れるほど、ほてった体が恨めしい。あんたに追い付いたそのときは、素直に愛の言葉を。
……盛大なため息とともに。
(ため息をつきてーのはこっちだ)
(旦那、俺もです)
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