「総悟、総悟!ちょ…総悟ぉぉぉー!」
「何ですかィ?近藤さん」
勢い良く部屋の襖を開けられて、昼寝と言う名の職務の最中だった俺は何時もの愛用のアイマスクを取った。
寝起き独特の擦れた声が、本当に熟睡していた事を教える。
「ちょ!総悟くん?何堂々とサボってんの?ねぇ?」
「慌てて一体どうしたんですかィ?」
「あ、そうだったな!ちょ…総悟こっちに来い」
話をスルリとすり替えれば、直ぐに近藤さんは素直に俺の会話に続いた。
近藤さんが俺の部屋から出て行く。良く状況が分からないものの狼狽する様子に、近藤さんに付いて自室を後にする。
一体何だって言うんですかィ
俺は、近藤さんの後ろで小さく欠伸をした。
連れていかれた場所は頻繁に足繁く通う部屋。
そう、土方さんの部屋だった。
益々良く分からないですねィ
近藤さんが襖を開ければ、几帳面なあの人らしからぬ、部屋の中に物が乱雑していた。
脱ぎ散らかされた隊服。別に着流しに着替えた訳でもなさそうだ。
それに今は土方さんは職務中の筈だ。あんなクソがつく程の人が隊服を脱いで、しかも近藤さんに黙って何処かに勝手に行くなんて考えられない。
「総悟…これ」
「まあ、間違いなく‥ですかねェ。困ったもんでさァ」
「どうする?探しに行かせるか?」
「まァ待ちなせェよ、近藤さん。あの人は俺が何とかしますから、アンタはこの状況を知られない様にして頂けませんか?下に示しがつきやせん。何時も通り局長の仕事をしてて下せェ」
「お、おお。頼んだぞ、総悟」
落ち着いて言えば、近藤さんにも冷静が戻ってきたのか、そう返事をして部屋を後にした。
自ら残った俺は、土方さんの部屋に入り襖を閉めた。
普段からよく知る土方さんの煙草の匂いが染み付いた部屋、だ。
隊服よりも大切に机の上に並べられたフィギュア。
一体何なんでさァ…コレは
良く分からないフィギュアを指で弾いて机の上に倒してみた。きっと今の土方さんが見たら怒り狂うんだろう。
そんなの知った事じゃねぇですがねィ
「早く帰って来い、土方コノヤロー」
独り言を小さく呟やけば、溜息が出た。
「何処で何をしてるんですかィ、あんたは」
また何処かのオタクとオタク談議に華でも咲かしてるんだろうか。
普段、鬼の副長と呼ばれているアンタが
何時もの土方の顔で…俺の知らない言葉を話し、俺の知らない奴に恋い焦がれる
「そんなの許せませんぜィ」
相手を小莫迦にした顔で楽しそうにオタク談議している土方さんの顔が浮かべば、またムシャクシャしてきた。
机の上に在るフィギュアを片っ端から全部倒してやる。
これで気分が晴れる訳では無かったが、何もしないよりは少しはマシなんじゃないか、と思ったのだ。
…こんな部屋、アンタには似合いやせん
■□■
「沖田…氏?」
名前を呼ばれて今まで寝てしまっていた事に気付いた。
何時の間にかは分からない。が、部屋の中は既に暗くなっていた。
今起きるまで誰もこの部屋に乗り込んで来なかった事を考えると、近藤さんは巧くやってくれたんだろう。
「どうして僕の部屋に…?」
目を擦る。随分長い間寝てしまっていたらしい。
机に俯せで寝入った所為で背筋が鈍く痛かった。
やっぱり昼寝は畳の上でするに限りますねィ
身体が痛くて堪らねェや
「僕の話…聞いてるでござるか?ねぇ?」
伸びをした俺は身体全体が伸び切った所で一旦、止まった。
聞き慣れた声。けど、聞き慣れない声。
普段とは似ても似つかぬ言葉遣い。たどたどしい。
「…誰ですかィ?アンタは。此処はアンタの部屋ではねェですぜ」
「な、にを…沖田氏。此処は僕のトモエ5000と過ごす部屋なのです」
そりゃ、一体誰なんですかィ
トモエ5000…今までアンタの口からそんな名前聞いた事、ねェですよ
「違いますぜ。此処は土方さんの部屋でさァ…俺と過ごす為の部屋でさァ……」
「土方十四郎はこの僕でござる。何を言ってるのか分からないな、沖田氏」
俺は、振り向く。
土方さんはこんな話し方なんてしやしません
でも、其処で立っているのは紛れもなく土方さんで。どんなに冷静に対処しようとしても、俺は悔しくなる。
アンタの姿で…顔で…声で…そんな事、言わねェで下せェよ
情けない程に、切なさで表情が歪んでしまっているのが分かった。
「…で、出て行って欲しいんですが。これから僕にはやらなきゃいけない事があるのでござる」
「そんなの…俺の知った事じゃねェですね。アンタが出て行きなせェ」
「だから此処は僕の」
俺は片膝に力を入れて立ち上がり、土方さんの格好をしたその野郎に近寄る。
俺のただならぬ雰囲気を感じたのかそいつは一瞬たじろいだ。
目には不安と困惑の色が入り混じっていた。
「アンタがその人の身体から出て行きなせェ」
手を伸ばし漆黒の髪に触れる。
「土方さん、何してるんですかィ?早く俺の許に帰って来なせェよ」
俺がアンタを呼び戻してやりまさァ――――…
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