「痛ェ」
と、ゾロの顔が歪んだ。
そんなゾロを見たサンジが首を傾げる。
「どうした?」
「…歯が、痛ェんだよな」
「何時から?」
「昨日の夜ぐれェだな」
「歯ァ、きちんと磨かねぇからじゃねぇの?」
「そりゃルフィだろ」
軽く言っている様な言葉の流れだが、ゾロは右頬を抑えながら地を這うような低い声で喋ってくる。
流石にこんなゾロの様子を見れば、心配しないサンジではない。
「大丈夫か?」と、声を潜めゾロの顔を覗き込む。
「手、退けてみろ」
頬を抑えるゾロの手に優しく触れて、横に退かす。
ゾロの様子を伺い、心の中でにんまり笑みを浮かべ、それから顔を近付けてちゅっと唇を触れさせ合った。
まさかキスされるとは構えていなかったゾロは、流石にこれには驚き、身体を暴れさせて逃れようとする。が、サンジも負けじと力を入れてゾロの身体を押さえ込む。
微かな隙間を見付けて舌を捩じ込ませ、ゾロの歯列を辿る。まるで1本1本を調べるみたいに…丁寧にゆっくりと。
「―……っふざけんなァ!!!」
サンジの舌が、散々ゾロの口腔を蹂躙し終えた頃、漸くサンジの身体は押し退けられた。
たっぷり時間を掛けた所為だろう。ゾロの肩が激しく上下に揺れていた。
「何の心算だ?! 返答次第では斬るぞ、てめェ!!」
「何の心算って…虫歯を移してやろうと思ったんだよ」
サンジは胸ポケットから煙草を取り出し、火を点けた。
怒りから興奮しているゾロに対し、サンジはあくまで冷静だ。
「〜…っ」口をへの字に曲げたゾロは、そのままの足で医療室へと向かった。
「チョッパー!虫歯ってキスで移るのか!!?」
勢い良く、医療室の扉を開ける。
知識の無いゾロはまず確認しょうと考えたらしい。
医者の証言を貰ってから、『嘘だ』と突き付け、サンジに仕返しをしてやろうと。
「うん。移るよ」
…まあ、その望みもチョッパー(医者)の1言で消えてしまう訳なのだが。
チョッパーの迷いの無い返答にゾロはぽかんとした表情を作るしかなかった。
「…移る、のか?」
「虫歯は菌だからな、菌感染するんだ」
「だから言っただろ」
何時から聞いていたのか、キッチン側の扉から、ふふん。とサンジが笑みを浮かべて医療室を見ていた。
ゾロはその勝ち誇った様子のサンジに口を紡ぐ。
笑みを作りながら、そおっとサンジは再びゾロに歩み寄った。
口唇の前に人差し指を立て、静かにする事を伝えてから、キスを落とした。
チョッパーが近くにいる手前、ゾロも下手な動きが出来無ず、身体を硬直させる。
チョッパーはそんな2人の行為には気付いていない。
そんな2人を背後に、カルテを見ながら、チョッパーが口を開いた。
「でも感染するだけで治るのとは話が別だ。虫歯はきちんと治療させろよ」
その言葉と共に、サンジは「エヘ」と作り笑顔で笑い、その場を足早に逃げ去った。
その場に残されたゾロが怒鳴り声でサンジを呼びながら走り出すまであと10秒。
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「キスで虫歯が移る」と言う事実を知って、その記念につらつらと書き起こしてみました。が、オチが…弱い……
(2008.11.12)