「 ‥‥‥‥何、コレ?」
ひそりと広がる様に、静かに響いた音。
もう随分遅くて。外なんてものも暗くなっていて。
卒業とおんなじに借りた、入り込んだ路地のあんまり草食動物とかかわりたくないから、通りに面してないこの部屋にはもう仕事帰りのサラリーマンが酔っ払ってる声だとかもとっくに届いてなんてこない。
不機嫌そのものを言葉にも眼にもたっぷり込めた、眉間に皺を作る雲雀に、返ってくるのは、たぶん雲雀のそう言うの汲めなかったんだろう、了平の顔で。
「何、って ホワイトデーの贈り物だろうが」
四角い箱の、媚びたみたいな包装紙に規則性を持たされて巻き付けられたリボン、如何にも諂諛したのが、雲雀のてのひらの上。
鎮座しているのは了平が無理矢理、
(極限にただいまだ!)(── おかえり、遅かったね)(スマン、少し寄り道をしていたのだ!それで早速だが極限にてのひらを広げるのだ!)(ほんとに急だね。嫌だよ)(ヒバリ、いいから頼む!)(話聞いてた?嫌だって言ったでしょ)(どうしても‥駄目か?)(……これで、良いの?)(おお!極限にありがとうだ、ヒバリ!よし、コレを受け取ってくれ!)
、やり取りの、あとは話の冒頭に戻る、所為で。‥‥だって、そんな顔、されてしまったら。出さないわけには。
正直考えなかった訳ではない、そう言うの嫌いじゃないマメな了平に、けれどそれじゃ無かったら良いなとか思っていたまさにそれだったのに。
付き合っていて恋人同士なの否定する気なんて最初からない、けれど。
それだけ想わせるほどの相手で、自分から失う事さえも。僕からだって、望んで、一緒に、棲んでいるんだ、から。この、僕が。
けれど。
少なからず雲雀の不機嫌さは更に爆発に一歩近付いた。
「僕、チョコレートなんてあげてないよね?」
「ああ、そうだな!でも気にするな、勝手に俺がヒバリにあげたいのだ!」
そしてそれを何の迷いもなく自分に贈ろうとしている相手にも。
「 いらない」
「なっ!? 極限にどうしてだ?ヒバリ!」
「いらないよ、そんなの」
「…ヒバリ?」
苛々してるのか悔しいのか良く分からない、けど、面白くないのも許せないのも確かだったりするから。
「チョコレートだって君がくれたんじゃなかったっけ?」
「そうだったな!好きな奴にあげるイベントだろう、それは極限に渡すだろうが」
「ホワイトデーもなの?」
そ、そんなに深くは考えてなかったが…俺はヒバリの喜ぶ顔が見たかっただけなのだ…、と。
珍しく快活なんてものを潜めさせる了平に。
少し、嗜虐心が動く。
可愛いと、思うとか僕も相当‥
「それって、了平だけが持ってる感情な訳?」
「む?…あ、あんまり難しく言われると極限に理解出来ん」
「ほんと君はボクシングバカだね。 だから好きな人の喜ぶ顔が見たいと思うのは了平だけなの?」
イカれている。
「僕は、思っちゃいけないの?」
けど、何時からか、たぶん了平と出会ってから、
「了平がそんなだったら、お返し出来ないんだけど」
こんなのを、悪くないと―――――。
「せっかく用意したのに無駄になったかな」
「ヒヒヒヒヒバリ!コレは無しだ!極限に無かった事にしてくれ!俺はヒバリからのプレゼントが欲しい!」
「無理しなくても良いよ」
「極限だ!極限に欲しくて堪らん!!」
ヒバリ、言い掛けたくちびるを塞がれて、見開く眼に。
雲雀が双眸を落とすのとらえれば、それはもう条件反射で、了平も眼を閉じる。
両頬を挟む雲雀のてのひらの熱さに浮かされるままに、了平は、ぐうと抱いた腰、空気の全部が全部ハチミツよりもうんと濃い甘さを纏っている其処で、あつい舌を絡め合う。
粗げた息と毀す唾液の糸が馬鹿みたいにリアルで。
ぐちょぐちょに。了平も応えて。
雲雀から贈られる、了平がホワイトデーにと買って来た店員に勧められるままのマシュマロよりもきっと甘露な、キスに溺れていく。
「 ――― ヒバリ、来年もチョコレートを極限に渡すぞ」
「そんなの、当然じゃない。なかったら噛み殺すからね」
「それより早く寝室に連れて行ってくれない、まさか僕からのお返しがキスだけだなんて思ってないよね?」
「…!?…っ!! きょ、極限に任せろ!」
ーーーーーーーーーーーーー
復活掲載終了→了ヒバ卒業→卒業と同時に同棲すれば良いよ、な連想ゲーム的な胸焼け満載の妄想の話
ホワイトデーに無理くり掛けてみたけど、止めとけば良かった…なんて纏まりのない… orz
そしてたぶんよっぽどの事がない限りこれで書き納め
(2013.03.14)