日記SS | ナノ

憎い憎いは可愛いの裏


「あー今年も土方のヤロー殺り損ねちまった。いい加減死んでくんねェかな」


少し薄暗い、僅かな隙間から入り込んでくる月の光の静かさと時計の秒針が一定で進む、そんな音しかしない部屋の中で、沖田は抑揚の無い声と刀を畳に置く音を作る。


「おいぃぃぃぃ!せめて本人居ねぇとこで言いやがれ、死んでやんねぇけどね!」

「あれ?土方さんじゃねェですかィ。さっさと副長の座渡しやがれィ」


沖田の背中、ちょうど背凭れの。正確には勝手に背凭れにしているものから発せられた怒声、もちろん沖田の聞き慣れた。
充分には見えない中で視線を流してある場所で止めれば。
凄い近くで暗い中に浮かぶ真っ黒いふたつの光に睨まれる。
そんなもんで堪えたりはしないけれど、残念ながらそんな殊勝な精神持ち合わせてなどいない。
寧ろドSの心が擽られる、強い眼をぐちょぐちょのどろどろに蕩けさせてもう許して欲しいと啼くまで――‥いや、まあ今は関係無かったなと沖田はぼんやり思う。


「あれ?じゃねーよ。総悟テメ、ここ何処か分かって言ってるだろ、勝手に人の部屋で寛ぎやがって」

「あーそうでしたかねェ」

「そーだってんだろ!てか自分の部屋に戻れ。俺はもう寝てぇんだよ」


沖田は絶賛中、土方を背凭れにしていて。
けれどここで漸く体重を掛けるのを止めた。
代わりに、


「そうですねェ、寝ますかねィ」


ごろりと準備がされていた布団に遠慮なく寝転んでやる。


「いやいやいやいや!何してんのお前!何ナチュラルに人の布団に入ってんのぉぉ!」

「ちょっと寝るんで静かにして下せェよ。年も変わるって時に、何でェ、そんなに新年迎えるのが嬉しいんで?」


はあ、と聞こえたのは自分の溜息だったか。
 揶揄うつもりで言ったんだろう沖田の、その裏まで読めるのは、土方の付き合いがそんな簡単なものじゃないからなのだろう。
きっと。


「総悟、言いたい事あるんなら素直に言やいいだろーが」

「なっ!?べ、別に何もねェでさァ!自惚れてんじゃねーよ土方!」


予想を裏切ったりしない反応を見せる沖田に、それがまた、なんか悪くなくて可愛いくて。
気付いたら。
惹かれるみたいにして唇を寄せていた。


「なな何すんでェ!窒息したらどう責任取るつもりなんですかィ!」

「はっ、良いじゃねーか。  俺の愛で溺死しやがれ」


ひそりと呟いて、視線を絡めた。
ちゅうと唇が音を立てたのに沖田の顔へ熱が広がる。
土方が離した唇は熱く湿って、まだ触れ合いそうなほど近い。
驚いて見開かれたアーモンド型の眼は普段より大きく、そこに自分だけが映り込んでる事に口角は上がって。戻らない。



「   総悟 来年…これからもも頼むわ」

――――― っ、分かってまさァ!来年こそは副長の座奪ってやるから覚悟してやがれィ、土方コノヤロー」

「やれるならやってみな」


沖田の顔が近付いて、目蓋にくっ付く睫毛が伏せられていくの、土方も倣って眼を閉じる。
唇から広がる痛いくらいの熱。

一緒に新年を迎えたいなんて、口が裂けても言わない部下の不器用さに。
ああ、俺はそんなどうしようもない総悟が。どうやらめちゃめちゃに可愛いらしい。



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沖田視点ぽかったものが途中から土方さんに変わってしまった
(2012.01.01)



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