「ただいまヨ〜。 新八ィー 今日そよちゃん家にお泊まりするからご飯いらないネ〜」
言えば眼鏡のレンズの奥、あからさまに驚いた2個の眼が見てくるのに。
秋から冬にかけもう随分と日は短くなってしまった。夏ならまだ空には橙色のでっかいまあるい太陽がある時間だろうが、もう空は藍色に塗り込められ端っこに遠慮みたいな茜色が残っているだけ。
その所為で半袖ではもう寒く、口煩い新八に言われて衣替えした長袖の、神楽は軽く首を傾いだ。
「ええっ!?そんなの聞いてないよ、神楽ちゃん!」
「今初めて言ったから当然アル。遊んでたら言われたネ、これから準備してまた行って来るヨ〜」
どうしたって言うのだろう。
ご飯を用意してしまっていて、人一倍喰べる神楽の分はやっぱり考えてくれているのか食卓に並ぶその量は多くて、2人じゃ喰べ切れないから勿体ないとかだろうか。
でもそれにしては台所から新八まんまの地味だけど、けれどわりと嫌いじゃない味付けの、そんな匂いはしてこない。
「……? 置いといてくれたら明日食べるネ」
取り敢えず先読みしてみれば、どうやら違ったらしい。
「そうじゃないんだけど…いくらでも変更は出来るし」小さく新八が否定をした。
「おいおい 神楽〜あ、新八の飯ボイコットかよ、可哀想だろーが。飯ぐらい喰ってけばいーんじゃね?」
左手にはジャンプ右手指は鼻をほじりながらなんて何処までもマダオスタイルの銀時が言うのに神楽はつんと唇を尖らせた。
何時もは無関心なクセに、言ってきても食費が浮いて助かるだ早く行けだ何かパクって来いだそういうので。それが「喰って行け」だなんて槍でも降りそうだ。
止めて欲しい、これから出掛けるのに。
「違うモン。そよちゃんにご飯喰べないで来てって言われたネ、絶対に!って言ってたアル」
「そ、そっか!だったら仕方ないよね!神楽ちゃん、早く行った方が良いんじゃない?姫様きっと待ってるよ」
「あっ、新八てめっ…! ったく、迷惑掛けんじゃねぇーぞ」
「当たり前ヨ! じゃあ行ってくるネ!」
新八が作る笑顔にほっとする。
寂しげな顔をするお留守番の定春に小さく謝った神楽が準備したお泊まりセットを掴んで万事屋を飛び出せば。
階段を駆け降りた所で丁度下の扉が開いた。
「おや。どっか行くのかい?」
これから店を開けるのだろう、お登勢で。
「友達の家にお泊まりアル!」
「……これからかい?」
「そうネ! ―――― どうしたヨ?」
まただ、と神楽は思う。
銀時と新八とおんなじ顔。
「アイツ等2人は良いって言ったのかい?」
「言ったネ」
「バカだねぇ」
「どーしたヨ?」
ふうっと吐かれた息は煙草の紫煙が混ざっていたからか、神楽には酷く苦そうに見えた。
「 ついさっき2人が家賃をもう少し待って欲しいって来たんだよ」
「そんなの何時もの事アル」
「そりゃそうだけどね、」
「何ヨ、早く言うヨロシ」
煮え切らないお登勢の話し方に何だかじりじりする。
良く、解らないけど、何だか、少し…
「理由を聞けばどうって事ない、誕生日だとさ」
「 誰の、アルか」
「さあねぇ、あの2人の大事な奴なんじゃないのかい?両手いっぱいに何やら色々買い込んでたみたいだからねぇ」
たんじょうび、だれの?
そんなのは、
多分、そよちゃんの理由もきっとコレ。
分かったから2人は無理に引き止めずに、
そして定春もお留守番がじゃなくて2人と一緒の気持ちからの、
「ババア!おせっかいは黙っててやるネ!でも、ありがとヨ!」
「何言ってんだい、ただの世間話じゃないか。まあお礼言われるのは悪くないねぇ」
――― 銀さん、明日にでもパーティーしましょうね
――― 別に良いんじゃねぇの?どうせアイツたらふく喰ってくるんじゃね?
――― それはそうでしょうけど…せっかくご馳走も、銀さんだってケーキ作るって
――― 違うからね!ただそれは銀さんが喰べたかったからだから!便乗しようって魂胆だから!
――― 神楽ちゃん、楽しんでるのかなあ…
――― って無視ィィィ!? ……そりゃ楽しんでんじゃねーの?なんたって将軍様の妹だぜ。ウチよりそりゃスゲーんだろ
ほんと駄目駄目アル
誕生日が祝えないだけでこの体たらくっぷり、哀しすぎるネ
「銀ちゃん!新八!定春!早くパーティーの準備するヨロシ!優しい神楽様が帰って来てあげたネ、祝われてあげるヨ!」
仕方無いから子離れ出来るまでは付き合ってあげるアル!
だからずっと離れたら許さないネ!
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そよちゃんには明日でも良いアルか?ウチのがどーしても今日祝いたいってうるさいネ、とか言って断ったんだと思われます
そしてお登勢さんの喋り方ってどんなのだったっけ?あと新八って姫様呼びでしたよね?
神楽ちゃん!誕生日おめでとうぅぅぅ!
(2012.11.03)