日記SS | ナノ

チャラい奴ほど実はガードが堅かったりする


「其処行く、ヤニとマヨ臭ェ瞳孔開いたお兄さーん。ちょっと寄ってきませんかィ?」


揶揄いなんて含んだ声に土方は何時もの鋭い眼許に眉間の皺なんてものもプラスして振り返った。
 茶屋に居る飴色の髪の毛には通り過ぎるもう随分前から気付いてはいたし、その小憎たらしい声だけで大体誰かは想像がつく。
それにニコチンとマヨネーズは自分とは切っては切り離せないのももう認めざる得ない。
大仰と溜息を吐く。


「 総悟、」

「どうも、お兄さん。ちょっと休憩して行きなせェよ」

「その呼び方止めろ。巫山戯てんのか それに今は仕事中だ」

「俺は休暇ですぜ。ままいーじゃねェですかィ。奢りやすよ?」


そう言って自分の座っている隣を手でぽんぽんと示したかと思えば、土方の返事を待たずに沖田は茶屋の奥にみたらしと三色だんごのセットを注文する。
どうにも人の話を訊かない沖田に苦言を呈してやりたかったが、時刻は3時を過ぎているし、ちょうど小腹が減ってきていたので土方はそのまま座る事にした。
奢りと言うのも悪くない、何を考えているのか判らない恐怖と言うものには今は眼を瞑っておく。
今日は頗る機嫌が良かったのだろう、他人に奢る位に、きっと。



「お兄さん、この後のご予定はどうなってんですかィ?」


運ばれてきた2種類の団子から三色だんごを選んで土方が咀嚼を始めれば、急に黙りこくっていた沖田が口を開いた。
こうしてまで“お兄さん”を押してくると言う事は止める心算は無いのだろう、真意は気になるが機嫌を害ねて団子代を請求されるのも癪なので土方は触れない事にした。


「市中見回りしてそれから戻る」

「それで終わりで?」

「それから書類の整理だな。誰かがやらねぇ始末書とかたまってんだよ」

「それじゃあ、終わるの深夜ですねィ」


ちくりと刺した棘は効いてないのか。
それでも自分でためている始末書の量は把握しているのだろう、他にも隊士からの報告書だとかもあるが、沖田は抑揚なんてものをつけずに言葉を落とした。


「まあ、そうだな」


「そうですかィ」沖田が再びそう静かに言い掛けた時、


「あ、いたいた!副長―――!ってあれ沖田さんも一緒なんですか」


姿を見せたのは山崎で。
急用かと土方が眼を遣れば山崎は沖田に「会えたんですね」だとか「良かったですね」だとかを告げていた。
顕らかに山崎の態度は土方を探してのものであり、沖田が一緒に居る事に少なからず驚いていた様子だった。
だから土方は声を掛けてみる、このままなのはどうもすっきりしない。


「  ――― 山崎、どうした?」

「あ、ああ!沖田隊長が副長を捜してたんで自分も手隙だったので協力を」


捜、してた…?
いやいやいや、こうやって男2人並んで団子を喰ってたこの数十分、総悟に捜してたとか用事があるなんて素振りはこれっぽっちも見付けられなかった。
総悟が口にしたのはこれから先の俺の仕事状きょ…う、


「今日は隊長の誕生日じゃないですか。沖田さんは休み取ってるのに副長は仕事入れちゃってるから何考えてんだーあの人はおれの誕生日なんて大事に思っちゃいないのかー恋人は祝うもんじゃねぇのかーって隊長怒っちゃて。でもちゃんとデートしてたんで…して…し…死……」


、なんてもの…で
語尾が弱くなっていく山崎を見上げれば、口許には大量の泡、首に減り込む掌と指。眼は有らぬ方向を見ていた。
嗚呼、御愁傷様。


「山崎ィィィ!あの世で反省しろや!喉元へこましてやらァ!」


知り過ぎるのも良くない、口唇が緩みっぱなしだ。(死にそうになっている山崎には悪いが)
 土方と過ごしたいと思うのが許せなくて過ごせないのがまた許せなくて。
歯痒さから生まれたこの団子なのだろう。自分で奢ってまで、不器用にも程がある死ねなんて単語は何でも無いみたいに乱立するくせに、どんな折衷案だ。



「     総悟、」

「なんでィ!」

「30分、待ってろ」

「はァ!?」

「仕事切り上げてくる」

「、っ…!」


夜はまだ長い。


「20分が限界でさァ!!!」



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沖田さんが頑なに“お兄さん”呼びなのはナ(7)ンパ(8)の日な沖土話にしたかったからです、自己満です。
誕生日ネタが思い付かなかったもんでナンパな日に因んだんですが結局誕生日でおさまりました。あれおかしいな。山崎さん出て来てから急展開しちゃった感ありあり。やっぱりあたしが手を付けると何でも甘い。
沖田さん誕生日おめでとうございます!
(2012.07.08)



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