日記SS | ナノ

小窓から花束


「あー‥ 土方さんじゃねェですかィ」

「“あー‥ 土方さんじゃねェですかィ”じゃねぇよ!てめぇ今まで何してやがった!?」


屯所の廊下の向こうっかわ。
やる気無いって言うの、その歩き方で解る雰囲気を漂わせて沖田が片手を挙げたりなんかして近付いてくるのに。
土方は廊下にその、重たい息を転がす様な気持ちで。溜息を吐いた。


「何って、市中見回りじゃねェですかィ」


ぬらりくらりと、沖田が片方の口の端を少しだけ持ち上げて薄く笑う。
ああ、なんて可愛くない…そう思って土方は口唇に啣えたまんまの煙草を齧った。

少し苦い。

総悟は昔からだって自分に対してだけは可愛さなんて無かったし、煙草は齧ったりしなくたって肺でくゆらせるそれだけで充分に苦い産物だ。
2回目の溜息がこぼれたのは自分自身にかも知れない。


「判りやすい嘘吐いてんじゃねぇ てめぇが一緒に見回りに連れて行った奴はもう帰って来てんだよ、てめぇ途中から任せるとか言って消えたんだろーが」

「チッ、何でェ。もう吐いちまったんで?役に立たねェな」

「どこ行ってやがった、仕事中に 大方、甘味屋でサボってたんだろうけどな」

「やだなァ、土方さん 何処でなんて聞いちゃ無粋ってもんでさァ」


肩を竦めて見せた沖田が、土方の横。擦れ違って歩いて行くのに。
土方は「‥‥あ?」とだけ小さく呟く。
別に聞き返した心算は無い、ただふと音になった呼吸、そんなものだ。
 何時もなら、人を小馬鹿にしたみたいに「まさか、みたらし団子なんて喰っちゃいねぇでさァ。いやーあの甘じょっぱさがクセになるんでィ はい、これ経費切ってくだせェ」とか茶屋の名前と商品名が書かれた領収証渡してくるの、そこが桜餅になったり駄菓子の名前だったりはして、喰ってましたー的な事を遠回しに言ってくる、「喰ってんだろーがぁぁぁ!」と土方が怒るのを誘うかの様に。
 何かが変だと、だから今日の科白に違和感なんてものを感じて土方の眉は目頭に皺を作って固まる。



「   ―――あ!土方さん。これあげまさァ」

「なんだ‥よ」

「くれるって言ったから貰って来たんですけどねィ この色、俺には似合わねェんで」


少し深い、青色


「手拭い?」


縹色の、落ち着いた奇麗な色。


「手でも拭いてやってくだせェよ」

「‥‥‥ああ」


きっと。総悟が使ってくれるんだと、思っているんだろう、送り主にちくりと心臓が申し訳なく痛んで。
強く手に握れば、何か、白いものが宙を舞った。
何だ?



本当に、なんて可愛くない…



「総悟」

「何でィ?」


落とし物だと床に落ちていた白いもの、拾って前に突き出す。


「…――――見やした?」

「嗚呼」

「…――――今すぐ忘れて下せェ」

「無理だ」


次第に耳まで紅くなる、沖田の顔に。


「…――――プライバシーの侵害でさァ!」

「だったらちゃんと処分しとけ」


土方の口唇は緩んで。
馬鹿みたいに嬉しいって表情を作ってるんだろう。


「仕事サボってまで密会する相手ってのは折角のお前へのプレゼントにレシートまで添えるのかよ?野暮だな」

「…――――うるせぇでさァ!いるのかいらねぇのかどっちでィ!!」

「貰っといてやるよ、ちゃんと手でも拭いてやる」

「…――――勝手にしなせェ!!」


どたどたと響く足音、土方は空気を揺らして破顔する。
確かにこの色は総悟に似合う色じゃねぇんだろう、なんたって送る相手が違うんだから。
うんうんと唸りながら棚から手に取ってはこれが似合うんじゃないかそれともこっちかと悩んだんだろうか。それとももうこれ以外は似合わねェでさァとかインスピレーション、数日前から物色しては目星なんてもの決まっていたんだろうか。
縹色の手拭いを懐に、土方は沖田との距離を広げて行く。
全く。素直じゃねぇな、どっちも、が


「誕生日なんて忘れてたな」


肺に送る紫煙は相変わらず苦いままだけれど。
それでも何処か甘ったるく思えて仕方がないのは、不器用なりにも土方を想う沖田の所為だ。


「ひ、じかた、コノヤロー!」

「何だ?」

「今日の夜、覚えてやがれィ!!」


―――はっ。望むところだ。



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沖田さんは土方さんの為に仕事をサボって誕生日プレゼントを買い付けに行ってた、ってお話。けど素直に渡すのは沖田さんには恥ずかしくてだからどうしようもねェなあとか思いつつも嘘を吐いたのです。
要約したらたったこれだけの事なのに本文で表現出来てるのかコレは、文章力が欲しい。
土方さん誕生日おめでとぉぉぉうっ(^ω^≡^ω^)!
(2012.05.05)



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