日記SS | ナノ

今年の恵方は北と西の間のちょっと北より


「福は内ぃぃ!!福は酢こんぶ献上するアルぅぅぅぅ!!!!」


夜の歌舞伎町は静かでは無い、けれどそんなの軽がると裂いて、一際でっかく轟く声は神楽のもの。
豆は寧ろ豆なんて生易しい名前を変えて最早ただの弾丸だ、地面にめり込んで砂埃を上げる。
ちょっとぉぉぉ神っ楽ちゃぁぁぁん!何?銀さんに何か恨みでもあんの?嫌いなの?銀さん死んじゃう!死んじゃうから!そんな豆くらったらいくら銀さんでも一溜まりもねーよ!!?



新八が、「こう言うのは縁起物ですから、良いじゃないですか」なんて今日の夕餉は恵方巻きと鰯です後で豆撒きもしましょうねなんて赤い鬼のお面が同封されたそれを見せて笑ったのはつい数刻前。


玄関には新八が飾ったんだろう柊をぶっ刺された鰯の頭、何だかグロテスクだと思う。
釣られて干されて炙られて体は俺達の胃の中で次第に消化されて排泄されて、それだけでも気の毒だろうに頭は新八さえも「何で飾るんでしょうねぇ?分かんないですけどまあそう言うもんなんです。だってそもそも豆撒いただけで福が来るとかそんなんだったら万事屋だってもっと依頼あって良いはずですもん」とか言い出す始末の、変な緑のトゲトゲの葉っぱの付いた枝を刺されて。
ってコレ軽くこっちにきてね?新八の嫌味確実に銀さんに向けられてね?まあ“もん”とかね、激しく可愛いけどね!何なのお前!襲って欲しいの?だけどねっ


いやいやまあそんな感じで、


ご飯を食べ終われば神楽が待ってましたとばかりになんの躊躇いも無く、銀時のあっちこっち向く銀色の頭に鬼のお面を被せた。


「何で俺が鬼やんなきゃいけねーんだよ。どっちかって言うと銀さんSだから。虐めたい方だから。そんなドMな役は新八にでもやらせとけ」

「だって新八にどうするか聞いたら“普通はお父さんが被ってくれるんだけどね”って言ってたネ。でも本当のパピーはどっかの星でエイリアンと自分の抜け落ちていく髪の毛と闘ってていないアル、新八のパピーもいないネ…だったらどうすれば良いアルか…」


オレンジ色の旋毛が銀時の前、しゅんと項垂れる。


「 …―――ったく仕方ねーなー。今年だけだからな、心の広い銀さんに感謝しやがれ、コノヤロー」

「銀ちゃん!ありがとうアル!  新八ー、豆寄越すネ!」

「神楽ちゃん、銀さん良いって?」

「楽勝ネ!簡単に引き受けたアル!新八の言った通りだったヨ、男は泣き落としに弱いアル」


ってあれー?神楽ちゃーん?そして新八くーん?何入れ知恵してんの?
早く早くと新八が煎る豆を急かす神楽の声とそれを宥める新八の声に銀時は盛大に溜息をつく。
と、同時に擽ったく感じるのは何なんだろう。
2人が来るまで節分なんてものは色の無い365日の内のただの1日でしか無かったと言うのに、何時から‥‥



「  銀さんお帰りなさい。一体何処まで逃げて行ってたんですか?神楽ちゃん、もう豆食べ始めちゃってますよ」

「お前が変な入れ知恵したからだろーが!ったくアイツ何なの、殺されるかと思ったんだけど」

「言っときますけど僕は神楽ちゃんが“だったら地球のパピーにさせれば良いアル!どうしたら銀ちゃんしてくれるネ?”って聞いてきたから答えただけですからね? …楽しそうでしたね、神楽ちゃん」

「ああ、そーね」


態とらしくぶっきらぼうに。
ブーツを脱ごうと腰を屈めた銀時の、耳にはコツコツと音。
ちらりと、座る框を見ればその音は豆、で。コロコロとまあるいそれが転がる。
神楽が投げたのが残ってたんだろうか、右のブーツを土間に放り出しながら上に視線を移せば新八がにこりと笑って、手には数個の豆。
銀時の頭に落とす。


「鬼も内。 ―――我が家ではそれが良いですよね、ねえ銀さん?」


白夜叉と呼ばれ怖がられ恐怖の対象の、鬼だと呼ばれていた過去。
そんなのも全部引っ括めて付いて来てくれる奴等。
(福は内ぃぃ!!福は酢こんぶ献上するアルぅぅぅぅ!!!!)
(鬼も内)
福は内としか言わなかった神楽、鬼も内と言った新八。
‥‥本当に何時から、こんな自分の周りは色に溢れてあったかくなったんだろう。


「銀さん、早く行きましょう?」


新八の優しい声に促される。
どうしてこいつは此処までこんなに甘くて甘くて甘ったるいんだろう、あったかいんだろう。
まあ絶対零度の笑顔とか辛辣とか辛い日もあったりはするけれど。やっぱり新八を表現するならあったかくて甘くて、まあ地味で眼鏡で銀さん大好きで?
神楽も大飯喰らいだけど大切な家族だ、ペットのデカい犬も、いや天人か。
背負ったものはもう投げ出しなんて出来ない、俺の大切な一部になった。無茶して心配させてマダオで怒らせても離してなんてやらない。一生。
何が欠けたってもう坂田銀時では無いんだろう。


「あ、ああ。」


絶対、言ってやんねーけど。



たでーま





「  神楽ぁ、知ってるかあ?豆は自分の歳の数しか喰えねーんだからな、それ以上喰うんじゃねーよ?後は銀さんに渡しなさい」
「違います。歳の数+1個ですよ」
「マジでか、でももう10個も残ってないネ」
「新八ってホントお母さんだよな、てか神楽テメェ喰いすぎだ!」
「大丈夫ですよ、ちゃんと残してあります。取って来ますね」
「あ、間違った訂正。“新八ってホント良く出来た嫁だよな”だ」
「新八ぃー早く豆ちょーだいアル。こんなんじゃ私の胃袋は納得しないネ!」
「神楽はもう駄目だ、歳+1個って嫁が言ってんだろーが」
「違うネ、私からしたらマミーアル」
「あ、そうだわ。新八は俺の嫁だからな。てな事で言う事聞きなさい」
「ってかさっきから何の話してんですか、アンタ等」
「新ちゃん大好きよ、って話だよ。なぁ神楽、定春」




ーーーーーーーーーーーーー
鰯食べるのって西日本の習慣らしいって今日初めて知った。そうなの?
じゃあ柊に鰯の頭刺したりしないのか、でもアレだよね、太巻きを恵方の方見て無言で食べるって言うのはもう全国区ですよね、ね?
(20120203)



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -